「夜想曲の盤上(チェス)と、5対5の絶対戦術」
「夜想曲の盤上と、5対5の絶対戦術」
ルミナリア・エクレール聖王国の夜が更けていく。
48時間の休息の仕上げとして、アストライアがアルヴィンから『すり足五歩』の畳のギミックを教わった後、四人は宿屋『太陽の揺り籠亭』の大広間で、かつて深夜まで全員で大爆笑したあの『人狼ゲーム』の話に戻って雑談を繰り広げていた。
「キャハハ! 人狼ゲームの心理戦も面白かったけどさ、あの時アルヴィン様が言ってた『5対5の均衡を保つ宇宙の理合』って、要するにこの盤の上の戦いにも完全に繋がっているんじゃない?」
エルミナが新しいかっこいい衣装の裾を揺らしながら、広場の特製木工テーブルの上に置かれた美しい漆黒と白金の盤面を指差した。
そこにあったのは、頭領タグラードが聖王国の夜の社交のために作った、最高にハイファンタジー風の『魔導チェス』の盤であった。
「おやおや、エルミナ様。人狼の騙し合いから、ついに王宮の最高峰たる盤上戦術へと視点を戻されましたな」
総執事アルヴィンが黒銀のロングコートを美しく翻し、眼鏡をシャキーンと直して白の『騎士』の駒を手に取った。
「左様。チェスには、凄まじい戦術性がある。……異世界の東方には、王を中心に守りをガッチリと固める『穴熊』という堅牢な盾を持つ『将棋』という遊戯もありますが、このチェスというものには、日本の武士たちのような泥臭い堅さがなく、どこまでも洗練された貴族の遊びを思わせる上品さがございます。……しかし!」
アルヴィンは声を潜め、眼鏡の奥の目をニヤリと光らせた。
「上品だと思いきや、チェスは自分の駒を相手に取られた時の悔しさが半端ではないのです! いかに攻撃と防御の5対5のバランスを完璧に頭に入れているかで、すべての勝因が決まるのですからな。ガハハ!」
「分かるわ、アルヴィン!」
第一王女アストライアが黄昏色のロングヘアーを弾ませ、ブルーの瞳をキラキラと輝かせて応じた。
「私もお城でナターシャお姉様とチェスをしていた時、『アッ、この人、どこかで見たことのあるチェスの運び方をするわ!』って思ったことが何度もあったもの!」
「そうなんだよね」
と短髪のアルトスが、固い握り豆のある手で白湯の杯を持ちながら微笑んだ(ハハハ!)。
「大体、チェスで同じ位置に駒を何度も戻す人には、独自の癖がある。だからこそ、自分の攻めばかりを考えるんじゃなくて、常に『相手の立場に立ってチェスをする』という努力を重ねると、敵の危険サインや心理がスッと頭に入ってきて、ものすごく勉強になるんだよ」
◇
「へぇー、相手の立場に立つ、か。僕の気象魔法の計算と同じだね!」
空間転移で残っていたガルディニア王国のイルミナス王子が、チェスの『女王』の駒を動かしながら不敵に笑った。
「でもさ、ちゃっかり勝った気分のところで、罠にハメられて残念な負け方をした人だっているだろ? そういう時はどうするんだい?」
「フフフ、そこからが私の『絶対後手戦術』の出番よ、イルミナス様!」
アストライアが自信満々に、黒の『王』を一歩横へと滑らせた。
その姿は、先ほどアルヴィンから教わったすり足のギミックのように無駄がない。
「相手のせこいハメ技や、ずる賢い悪知恵をあえてそのまま真似して、戦いを長期戦へと持ち込むの。そして、後手による完璧な防御戦術に切り替え、数回同じ位置へチェス(駒)を動かした時点で……はい、私の勝ち(全クリア)!!」
キラキラキラ――ンッ!!!
アストライアが指先でポーンを弾くと、盤面からまばゆい星霊の光が溢れ出し、イルミナスの王が完璧にチェックメイト(詰み)された。
「ええええっ!? 嘘だろ!? 僕の完璧な攻撃の布陣が、たった数手のループで崩されちゃった!」
イルミナス王子が短髪をくしゃくしゃに掻いて驚愕すると、エルミナが
「キャハハ! イルミナス王子、完全にアストライアの8番出口のトラップに引っかかったじゃん!」
とお腹を抱えて大爆笑した。
「これを見せるとね、周りの人から『何でそんなに難しいルールなの!?』ってビックリして聞かれることがあるわ。だけど、勝ちちは勝ちなのよ! 相手の力を利用して、相手の立場を逆手にとって制する。これほど爽快な勝ち方は他にないわ!」
アストライアがウフフ、アハハと満面の笑顔を咲かせ、ブルーの瞳を最高潮に明るく輝かせた。
◇
「素晴らしいですな、アストライア様」
アルヴィンが深く頷き、これまでのすべてのハイファンタジーの歩みと【統合】をチェックするように語りかけた。
「相手の攻めに応じて完璧に制する……これぞまさに、第32話で私が洞窟の中で真剣を構えて稽古していた、日本剣道形の『仕太刀』の理合そのもの。打太刀の動きを理合に従って制し、勝機を逃さず間髪を入れずに打ち返す。これこそが、大邪導師マレフィアの無限ループを一つ一つ解決し、世界中のすべてのトラブルを全クリアしてきた、私たちの友情と努力の戦術なのでございます! これを盤上でも『出来て当然』にこなすとは、流石は我が主。ガハハ!」
「……うむ。チェスの、5対5の、職人技……美しい。俺の、モノづくりも、その一手一手の、正確さから、生まれる」
テラスの壁際で熱心に傾聴していた無口な頭領タグラードも、満足そうに長めの言葉で優しく微笑んだ。 人狼ゲームの興奮も、宇宙の5対5のダークマター説も、そしてチェスの爽快な後手戦術さえも、すべてを最高潮の【友情】と大爆笑のエネルギーに変えて、完璧な大団円の型へと統合していく四人と仲間たち。 名前に合った賑やかな笑い声(アハハ、ガハハ、キャハハ、ウフフ!)の周囲をどんどん増やしながら、最高潮にスタイリッシュになった彼らの大冒険は、朝6時45分の澄み切ったおいしい空気を肺いっぱいに吸い込みながら、【クロノス・ステップ(時の精霊の軽快な歩み)】のように迷いなく、光輝く明日へとテンポよく進んでいくのだった。




