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【常世の君の物語】No.15:鳥絵 ~室町時代の近江をおそう飢饉の中でたくましく生きる少年がいた~  作者: くさかはる@五十音


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第7話:異朱


町のはずれの森の中に、神社がある。

テンの姿はそこにあった。

このときテンは人型を成しており、口元に印を結んだ手をやったかと思うと、ぴゅいっと口笛を吹き不思議の術を展開した。

辺りに風がわき起こり、吹き上げられた砂塵が周辺の木々や境内の建物をうつ。

それがおさまりを見せはじめたとき、宮の観音開きがちりんと音をして開いた。


「私を呼ぶのは誰だいね」

社に姿を現したのは、一匹の狐であった。

その姿は、社の両脇に彫られた石像と瓜二つである。

「お呼びだてしたのは私だよ」

とテンは細い目を更に細くして笑みを作った。

「なんだ、誰かと思えば化け猫のテンじゃないか。ずいぶんと久しぶりだな。元気にしているのか」

「ああ、達者にしておるよ。今は若い男が主でね、折り入って話があってお呼びだてした」

そう言うと、テンは懐から懐紙を取り出しそれを広げた。

中には、どこからこしらえてきたものか、大きな握り飯が二つおさまっていた。

「おお、分かっているじゃないか」

狐は、ぴんと尻尾を立てると、いそいそと包み紙ごと奪い取るように受け取った。

狐が握り飯を食べ終わるのを待って、テンはゆっくりと口を開いた。

「人をね、探して欲しいんだ。数十年前に私と縁のあった者で、名を異朱という。あのまま育っておれば今ごろ忍をしているはずだよ」

テンは異朱の情報を白い紙にしたため、狐に手渡した。

「異朱だな、分かった」

狐はそう答えると、しゅるりと尾を巻いてその場から消えた。

世間話のひとつもせずに仕事に移るあたり、確かに我らは気の長い化物同士なのだなと思うテンであった。


半時ほどして、境内でくつろいでいたテンの前に、再び狐が現れた。

社から這い出てきた狐の後ろには、一人の男が従っていた。

「連れてきた。こいつだろ」

全身を黒い布で覆った男は、「お久しぶりです」と短く口にした。

「ああ、覚えていてくれたか、異朱」

そうテンが駆け寄ると、異朱は深く一礼で返した。

「じゃあ、おいらはこれで」

狐はそう言うと、早々に引き上げていった。

それを見送ってから、テンと異朱は互いの近況報告へと移った。

なんでも異朱は、あのあと伊賀の山奥の忍の総本山とも言うべき場所へと連れていかれ、そこでみっちり修行をして、今は方々の依頼を受けて忍家業に専念しているということだった。

「私は貴世と摂津国をはじめ近畿一帯の商いでだいぶ儲けてね、今は西へと足を延ばしているところだ。その道中で、異朱の力を借りたい出来事があって、今回、化狐の力を借りて呼んできてもらったわけなんだ」

と、テンは語った。

刺すような日差しを避け、崩れた土塀の上に腰かけて話をする二人の男の上に、木漏れ日がちらちらとまだら模様を描いている。

「しかし驚いた。おぬしら化物に、寿命は無いのか。まったく見た目が変わっておらん」

緊張もほぐれた頃合いに、異朱はそんなことをぽつりとこぼした。

「なぁに、ゆっくりとではあるが年は取っているのだよ。本当にゆっくりとではあるがね」

「ほう」

異朱は黒帯の下からのぞく目を細めてテンを見やった。

「して、俺に用とは何事だ」

二人の間に、わずかに緊張が戻る。

「なあに、簡単なことだよ」

とテンは笑顔を作る。

「簡単なことであればおぬしが直々に手を下せばよかろう。あの時のように」

するとテンは、首を左右に小さく振った。

「違うんだよ。我々化物は人の縁と思いで出来ておる。それらが最大に生きるような選択をするだけなのだ。あの時はたまたま、じかに手を下す方が理にかなっていただけの話。貸し借りのある者がいるなら、その縁を利用したいのだよ。私たちあやかしは人の縁なくしては生きてゆけないからね」

「今回は、俺との縁を利用した、というわけか」

異朱がテンの顔をじっとうかがう。

「その通り。ぜひおぬしの忍の力を借り受けたい」

異朱は自分の目の前に広がる宙をしばし見つめ、しばらくのあいだ目を閉じ黙った。

そして、「いいだろう。承知した」とみじかく答えた。



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