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フォークロード

朝、目を開けるとトールが私を観察するように見ていた。

命令通り、腕は解かれていない。

「おはよう。」

「おはようございます。もうよろしいのですか?」

あっけなく緩い拘束を解いて身を起こした私を、トールは不思議そうに見ている。

「うん。」

大丈夫。私はもう夜以外は外に出て普通に生活できるのだ。

おかしな考えが頭をよぎることもない。


「お着替えはこちらです。」

私のカバンから慣れたように着替えを準備する。

孤児院から持ってきたボストンバッグには必要最低限の生活必需品が入っていた。

私とトールに後ろを向いてもらって手早く着替える。

「できたよ。」

私が軽く声をかけると、トールは振り向く。

彼の右側だけ不自然に跳ねていた髪が、ストレートに戻っていた。

「ミア様も御髪を整えましょうね。」

寝癖を気にしているのがばれたようだ。

トールは私の後ろに回ると、カバンから櫛を出して、私の髪をとかしていく。

「トールはどうやって寝癖を直したの?」

彼が私の櫛を無断で使うとは思えない。

「お試しになりますか?」

トールはそう言って、私の髪に触れた。

すると、うねっていた部分が真っ直ぐになる。

「熱を加える魔法で、形を整えているんです。」

「そんなことできるんだ。」

トールが触れた部分を触ってみると、ほんのり暖かい。

いつも先生が何らかの、おそらく難しい魔法を使って一瞬で整えてくれていたので、こんな方法があるとは知らなかった。

トールが一通り髪を整えると、私はいつものストレートヘアになった。

「あぁ。先にお顔を拭いた方がよろしかったですね。」

そう言って、トールは小さめのタオルを出すと魔法で水をしみこませて濡れタオルにした。

私は受け取って顔を拭く。

「トールも拭いて。」

私が拭いた面を裏返してトールに渡した。

「ありがとうございます。」

そんなこんなで、私たちの身支度は完了した。


1階に降りると、先輩はちょうど起きたところのようだ。

熊みたいに大きい体が、ゆっくりと起き上がる。

「おはようございます。先輩。」

「んぁ?あぁ、お嬢起きるの早いな。うーし、行くかー。」

先輩は起きてすぐ出かけるつもりらしい。

身支度という概念はないのだろうか。


休むことなく馬車を走らせると、昼頃にはフォークロードの外壁が見えてきた。

馬車は門の前にゆっくりと停車する。

「じゃあな。お嬢はきっと出世するから、そのうちまた会えると思うぜ。」

「お世話になりました。あんまり期待しないでくださいね。」

いつまでも私の出世を信じて疑わない先輩に苦笑する。

最後に私たちは握手して別れた。


外壁から町に入る門には門番が立っている。

一応身分証を見せなければならないのだが、多分ほとんど見ていないのだろう。

人数の割にすぐに通り抜けることができた。


外壁を抜けると、その光景に目を奪われる。

「高い建物がない。」

「王都と比べると、そうですね。」

トールは慣れた様子で言った。

町には2階以上の建物がほとんどなかった。

けれど大きな道には絶えず馬車が行き交っていて、田舎という雰囲気でもない。

「とりあえず、ギルドだよね。」

「そうですね。」

トールは私が道がわからないことを察して、冒険者ギルドまで私を先導してくれた。


冒険者ギルドも周りの建物と同じく平屋だった。

緑の屋根が特徴的で、王都のギルドと比べるとこじんまりしている。

中に入ると、たくさんの人がいた。

私のような新米冒険者がこの町に殺到しているのだろう。

もっと東に、始まりの町と呼ばれるほど有名な初心者向きの町があるのだが、王都からほど近いこの町もなかなか人気のようだ。


カウンターにも長蛇の列ができていた。

並びたくない。

「トール。好きな依頼受注して、仕事してきてくれない?命令する。日が沈むころに、ここに集合ね。」

私は戦線放棄してトールに丸投げすることにした。

「待ってください。どのような依頼が良いとか、いくら稼いでほしい、とか何か希望はないのでしょうか?」

さっさと退散しようとした私をトールは呼び止める。

「特にないけど、あんまり稼ぎが少ないと今日は野宿になるかも。交渉すればどこかに泊めてもらえるとは思うけど、万が一ってことがあるし。あ、ご飯もしかり。そういえばお昼ご飯は用意できないや。ごめんね。」

私も一文無しなので誰かにおごってもらわなければ昼ごはんはない。

まぁ、座って移動するだけだったので多分一食くらい抜いても大丈夫だろう。

「いえ、それは構わないのですが……。かしこまりました。素敵なお宿に泊まれるよう、全力を尽くします。」

別に全力を尽くさなくてもぼろ宿で構わないのだが。

そう思ったが、やる気を出してくれる分には一向にかまわないので、私は黙っていた。


トールと別れて、冒険者ギルドを後にする。

さあ、絵を描こう。

美しいものを探しに行こう。

初めて訪れる町の見たことのない景色に、私は心を躍らせていた。

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