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王都の喧騒

「それにしても、先生って頑張れば首輪の命令を無視できるんだよね?もしかして自分の首輪外せる?」

私はずっと疑問に思っていたことをぶつけた。

魔法で契約者を殺してしまえば契約は無効になるはずだ。

とはいえ、トールやナギにはできない芸当なのでそれほど不安視はしていない。

先生は言葉を探すようにしばらく黙り込むと、ゆっくりと話し始めた。

「まず、命令を無視することは私にとっても気軽にできることではありません。代償が大きいので。もし大きな代償を支払って魔法を使ったとしても、私の手は主には届かないでしょう。なぜか分かりますか?」

先生はそう言ってナギをちらりと見る。

「……よく考えたら、首輪の契約って2つあるんだ。一つは命令を遵守しなければ魔力を吸い取られるという契約。もう一つは、契約者を害さない、殺さないという契約。たとえ命令を違反して魔法を使っても、契約者が殺せない限り契約は切れない。どうやら魔法による契約の絶対性は、さすがの先生にも当てはまるらしい。」

ナギ答え合わせをするかのように先生を見る。

先生はほほ笑むだけで否定も肯定もしなかった。


「……解放派は本当に数が増えたようですね。」

そう言ったトールのふわふわの耳がピンと立っている。

私の耳には何も聞こえないが、獣人の耳には何か聞こえているのかもしれない。

「エントのおじいさんが、先生が教会を荒らされて怒るんじゃないかって、怯えてたよ。」

私はからかうように先生を見る。

「怒り、というものは特に……。」

先生は見当違いのことを言われたかのように首を僅かに傾げた。

「解放派が問題を起こして、先生が魔法を使いたくなっても、アイザックさんだけはちょっと大目に見てくれたりする?お世話になったし。それに先生に迷惑をかけることはアイザックさんの本意ではないだろうから。」

私がそう言うと先生は頷く。

「ミアが悲しむことは絶対にしません。」

そう言って先生は優しく微笑んだ。

とりあえず、これでエントも少しは安心なのではないだろうか。


「ライラも教会に来たりした?」

私はふと気になって尋ねる。

解放派の集まる場所とあらば、彼女も来ているのではないだろうか。

「ええ。よく来ますよ。彼女を見るたびにミアもこれくらい頻繁に教会に来ればいいのに、と思います。」

「ええ?この前の里帰りから期間もそんなに空いていないでしょ?」

こんなに寂しがりやな人だっただろうか。

「世の中がそれほど安全ではないと分かった今、毎日顔を合わせるくらいでないと不安でたまりません。」

先生はそう言って、また私のことを抱きしめてきた。

「けど……。」

私は言い淀む。

「今はあまり王都に長居しない方が良いでしょう。他の街と比べても、王都の人間たちの様子は異様です。ミア様が私たちを連れて歩いているだけで、無用なトラブルに巻き込まれかねません。」

トールは真剣な表情でそう言った。

それは私たちが王都に来てから思っていたことだ。

人間と毛艶の良い獣人と美しい人魚。

その3人が歩いているだけで、探るような視線を感じる。`

少し変わった存在に対する警戒心が跳ね上がっているのだ。

人の多い王都で人々は勝手に恐怖心を高め合い、お互いを探り合っているようだった。

「もちろん、主様が望むならここにいてもかまわないよ。人間やその辺の魔族に主様を脅かされる気は全くないし。」

ナギは平然とそう言って、肩をすくめた。

私が今の王都に残る理由なんて、先生くらいしかない。

そう思って、先生を見つめる。

「私のことは気にせずとも大丈夫です。」

先生はすべて分かっているかのように、落ち着いた様子でそう言った。

さっき不安でたまらないと言ったその口で。

「……うん。」

先生がそう言うなら私は頷くしかない。

曖昧に頷く私を見て、先生は言葉を重ねる。

「はっきり言って、私はミアと出会ってから、ずっと心配しています。また食事をボイコットしたりしないだろうか。辛い思いをして夜こっそり泣いていないだろうか。綺麗な景色に目を取られて、転んだりしないだろうか、と。毎日会おうが、遠く離れていようが、いつもそんなことを考えています。私の不安に付き合っていては、身動きがとれなくなってしまう。だから、私のことは気にせずに、ミアは好きなところにいてください。」

向けられる瞳は穏やかで慈愛に満ちていた。

この強い魔法使いが、いつも私を見守ってくれている。

本当にどうしようもないときは助けてくれる。

それがどれだけ心強いことか。

「それに、今日みたいに少し顔を出す分には大丈夫でしょう?そんなに悲観することではありません。この騒動も長く続くとは思えませんし、すぐにまた会えるでしょう。」

先生はそう言ってほほ笑んだ。

「私とナギは常にミア様のおそばにいます。また、攫われるようなことはありません。」

トールはそう言って真っ直ぐに先生を見る。

「また自分たちで解決できないようなことがミアの身に起これば、迷わず私を頼りなさい。」

先生はトールとナギを見てそう言うと、私たち3人に特大の加護の魔法を使った。

穏やかな風が吹いて、部屋中に光があふれる。

先生の規格外の魔法は、ただただ祈るように降り注ぐだけだった。


私たちは王都に一泊もせずに街を出た。



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