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先輩と後輩の珍道中

「お嬢の魔族にも昼飯食べさせたらどうだ?護衛はこいつ一人で十分だろ。」

いつの間に料理担当の魔族と交代で、違う魔族が傍についていた。

「そうですね。トール、ご飯食べてきて。」

「かしこまりました。」

トールは軽くお辞儀すると、離れたところで食事している魔族の一団の方へ向かった。

「あれは教会でもらったもんなのか?」

先輩がトールを示してそう言った。

「そうです。国から支給される魔族です。」

「へぇ。金がなくても魔族さえ持ってれば仕事して稼げるもんな。よく考えれれてらぁ。」

「ですね。」

「強いのか?」

「もらった資料には、魔力も身体能力も普通って書いてありましたが、問題ないくらいの意味だと思います。おそらくかなり安価な魔族ですよ。あれほどそつがないってことは、何度も売られては安価で買われるのを繰り返していると思います。」


トールはあまりにもそつがない。

基本的に私の思ったことを先回りしてやっている。

あの身のこなしを身に着けるには相当な経験が必要だろう。


「お嬢は案外優秀な冒険者になるかもな。」

先輩がニヤリと笑う。

「どうしたんですか急に。というかお嬢呼び確定したんですか。」

「いいだろ。お嬢っぽいんだから。」

「まぁ、別にいいですけど。それよりなんで急にお世辞言い始めたんですか?」

「お世辞じゃねぇよ。お嬢は観察力がある。観察力があるやつは伸びるんだ。みんな金稼いで強い魔族を買おうとするが、それだと限界がある。弱い魔族を組み合わせて戦術で戦ったり、特性を見抜いて強く育てられるやつ、そういうやつが結局は一番出世する。」

「そう言う先輩って、もしかしたらすごい出世してる人だったりします?」

私は悪い予感に顔をひきつらせた。

「どう思う?」

先輩は面白そうに聞いてくる。

どうやら私の考察を待っているようなので、仕方なく答えた。

「ええと、先輩の魔族のうち2体は魔力の高い超高級品ですよね。でも、残りの3体は獣人。中でも御者を担当していたのは犬の獣人。普通なら高級品を手に入れた時点でコスト削減のために売り払います。つまり、先輩は相当稼いでいる戦術と育成に長けた、ギルドのお偉いさんということですね。数々の無礼をお許しください。」

私は見たくなかった現実を見て、流れるように謝罪した。

たぶん先輩と呼ぶのも無礼なくらい偉い人である。

超高級品の魔族は荷台の奥に乗っていたので、よく見えていなかったのだ。

「ははは。気にすんな。それよりさすがの考察力だな。ほんとに出世するんじゃねぇか?」

先輩は豪快に笑うと感心した様子で言った。



私が恐縮してつまらないという理由で、先輩の冒険者ギルドでの立ち位置は教えてもらえなかった。

逆に教えたら恐縮するほどの立場なのだから、もう私は駄目かもしれない。

馬車は予定通り宿小屋に到着し、そこで一晩過ごすことになった。

「せ、先輩。これは何ですか?」

「何って、魔族用のスープだよ。栄養満点、体力回復間違いなしの優れもの。」

私は宿小屋のキッチンで、おいしそうな食事が作られている横で火にかけられていた大鍋に恐れおののく。

「い、色が食べて良い見た目をしていないんですが?毒入ってないですよね?」

中には淀んだ紫色の液体が入っていた。

たまに浮いてくる食材も紫に染まっていて、食欲を減退させていく。

「大丈夫。大丈夫。こいつら毎日それ食って、めちゃめちゃ強い魔物と戦ってるんだぜ?」

「あ、味は大丈夫なんですか?」

「味?まぁ吐かない程度なら問題ないだろ。腹に溜まれば生きていける。」

「ま、まぁそうですけど。」

確かに魔族は粗末な食事で済まされがちだけど、こんな毒みたいな見た目のスープを飲まされているのはさすがに気の毒だった。


宿小屋は2階建てで、先輩は1階を、私は2階を使うことになった。

2階といっても屋根裏部屋のようになっていて、カギはない。


私はこういうとき、考えなくてもいいことを考えてしまう。

もし、先輩が私を憎んでいて殺すつもりだったらどうしよう。

よそから誰かが侵入して、私を殺す可能性は?


先輩は立場のある人間のようだし、そんなことするはずない。

治安の良いこの国で、わざわざこんな宿小屋に侵入して悪さする人などいない。

それは分かっているのだが、「本当に?そんな簡単に信用していいの?」という弱い自分が頭の中で叫んでいる。


「ミア様?」

急にうずくまって頭を抱える私に、トールは心配そうな様子で声をかけた。

彼は人の侵入を防ぐ魔法など使えない。

ならせめて、その身で壁となってもらおうか。


「命令する。私を抱っこして寝て。」

トールが目を見開く。

彼は素早く私を抱えると一緒にベッドに横になった。

首輪はすっかり銀色に戻った。


背の高いトールを選んだのは、良かったかもしれない。

囲われている部分が多くて安心する。

そんなことを考えていると、トールの顔が眼前に迫ってきた。

触れそうな距離まで近づいてきたので、思わず右手でガードする。

「何?」

「こういうことをお望みなのでは?」

別にキスは望んでいないので顔を近づけないでほしい。

「いや、もう首輪光ってないでしょ。添い寝してほしいだけ。」

「かしこまりました。」

トールはすぐに顔を遠ざけた。

「私が寝てる間、ずっと抱っこしてて。」

「はい。」

「いつか、先生くらい強くなって……」

そうしたら安心して一人で寝られるから。

旅の疲れからか、すぐに眠くなってしまった私の言葉に、トールがどう答えたかは記憶にない。

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