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大量の金貨【ナギ視点】

北の地の地図にも乗らない場所に私の最愛の人はいるらしい。

ギルドを通じて届けられた荷物には手紙とともに印のついた地図と大量の金貨が入っていた。

全くどうやったらこんなに正確な位置が割り出せるのだか教えてほしい。

けれど先生は魔法に関することを口に出せないため、私が知ることはないのだった。


魔法を使って方向を割り出し、転移する。

それを何度か繰り返すと、ようやくお姫様を攫った悪の根城が現れた。

こざかしいこと屋敷に対しては探索の魔法も、転移の魔法も使えないようだ。

さて、私はお金を使ったことがあまりないのだが、本当にこんなもので私の最愛の人は取り戻せるのだろうか。

首輪と主様の絵を幻覚の魔法で隠す。

重そうな扉を魔法で開けると、来店を知らせるベルが鳴った。

……こんなところに説明もなしに主様を連れてきただなんて正気だろうか。

どんなに怖い思いをしたことだろう。

「……いらっしゃいませ。」

長髪の翼人が出迎える。

私の服装や立ち居振る舞いを見てどの程度の客か値踏みしている。

「最高級の愛玩奴隷が見たいのだけど?」

トールからの手紙によると私の可愛い主様は大切に奥に仕舞われているらしい。

今すぐ会いに行きたいが、主様が向こう側の手に渡っている以上、下手に動くことはできなかった。

「もちろんです。さぁ、2階へどうぞ。」

どうやら値踏みは済んだらしい。

あっさり2階に通された。


2階の檻の中にも主様はいないようだ。

一通り見てから3階の客間に通されて、気になった奴隷を呼び出すシステムらしい。

てきとうに何人か呼び出してみる。

「ふ、ふざけるな。魔族に飼われるなど冗談じゃない。」

最初に呼んだ少年は怒りを隠すことなくぶつけてきた。

すぐに翼人が腕輪の鎖を引き下げて、地面に転ばせる。

「申し訳ございません。まだ仕入れたばかりの個体でして。けれど、こういうのを躾けるのもまた一興でございますよ。」

「あまり私の趣味じゃないなぁ。」

私はニコニコと返事をしながら思った。

もし主様に同じことをしていたとしたら、私はお前を殺す、と。


次に呼び出した少女は最初から泣いていた。

「帰りたい。帰りたいよぉ。」

「どうです?哀れっぽくて可愛らしいでしょう?」

「うーん。」


3番目の少女は常に下を向き、顔を上げない。

「君は何ができるの?」

「ひぃっ。ほ、本が読めます。」

「そう。読み聞かせてくれるの。」

酷く怯えていて、会話にならない。

「これはこの館一番の商品です。敬語が使えて会話が成り立つ、利口な愛玩奴隷ですよ。」

長いこと愛玩用の魔族として過ごしてきた身としては、ずいぶんとレベルの低い愛玩奴隷だと思う。

支配する側として育ってきた人間を奴隷とするのがいかに難しいか分かる。

そもそもこのような絶望的な状況に慣れていないので精神がやられてしまう者も多いだろう。

「これが一番だなんて嘘でしょう?もっと賢くて愛らしい宝物を隠しているくせに。」

私はそう言ってほほ笑んでやる。

「残念ながらそのようなものはございません。当店のレベルにご満足いただけなかったでしょうか。」

翼人は僅かにその身を引いた。

完璧な笑顔のポーカーフェイスの左の口角が少しだけひきつる。

「嘘はいけないよ。私の友人はとても目が良いエルフでね、この館の中を自由に歩き回る人間がいると言っていたよ。今日はそれを見にきたんだ。」

私の言葉に翼人は驚いたように目を見開いた。

当然だ。

この館は探索の魔法が使えない。

それなのにどうやって外から気取られずにそんなものを見たのだろうか。

「……分かりました。それでは特別にお見せいたしましょう。それでご納得いただけるのでしょうか?」

「さぁ?とりあえず見せてみて。」

私はとびきりの笑顔を見せてやった。

「……かしこまりました。」

翼人は左の口角をひきつらせながら言った。


翼人に手を引かれ、連れてこられた少女の姿に思わず抱きしめたくなるのを必死で我慢する。

顔色も良いし怪我もなさそうだ。

私を見て驚いた顔をしている。

きっと彼女は私たちが助けに来ないと信じ、助けに来ると分かっていた。

その歪みがひどく憎らしく、悲しく、愛おしい。

彼女の首輪を付けていない者には、いつまでも心の底からの信頼はくれないのだ。

「こっちへおいで。」

かすれたり震えたりしないように、慎重に声を出す。

翼人につながれた手をそっと離して、ゆっくりと近付いて来る。

他の人間には手も触れていなかったくせに、主様は魔族をたぶらかせるのが上手すぎる。

「今日は何をしていたの?」

「絵を描いたり、オーナメントを作ったりしていました。」

オーナメントって何だろう。

退屈していないのは結構だが、思ったより楽しそうに過ごしていて拗ねるような気分になった。

「どんな絵を描いていたの?」

「廊下の窓から見える雪の景色を描いていました。」

私に敬語を使う姿は新鮮だ。

幻覚魔法は効かないので首輪は見えているだろうが、契約者が自分でないことが分かっているらしい。

瞳に緊張と怯えが見えた。

「そう。でもずっと窓からの景色を見るだけでは退屈でしょう?私が連れ出してあげる。」

思わずそう言ってほほ笑みかけると、彼女はなんと返そうか迷ったようで私と翼人の顔を交互に見た。

私の魔法使い。

私に美しい魔法をかけて、外へ連れ出してくれた愛しい人。

「さぁ、この金貨が何枚あれば、この宝物と交換できるのかな?」

きっと連れ帰って見せるから、私と金貨を見て不安そうにするのはやめておくれ。

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