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雪の館

馬車が止まった。

「降りろ。」

腕に手かせを付けられて、鎖を引っ張られる。

鎖は全員の手かせとつながっていて、一番後ろの私は前が動かないと降りられない。

勝手に動くと後ろから2番目につながれた人が転んでしまう。

「ちっ。」

見張りの翼人は心底面倒そうに魔法で私たちを浮かせると、馬車から降ろした。


外は一面雪景色だった。

てっきり魔法がかかっていないのかと思ったが、温度を調節してもなお寒いところだったらしい。

魔法がなければ凍えてしまうようなところだ。

目の前には大きな館が建っていた。

館の周りは雪で覆われているだけで何もない。

館からもう一人、翼人が現れる。

見張りと同じ銀髪だったが、こちらの方が髪が長い。

顔まで似てる気がするが兄弟だろうか。

魔族らしく2人とも作り物のように綺麗な顔だ。

「待て、一人だけやたら聞き分けが良い奴がいる。こいつだけ魔法はいらないだろう。」

見張りはそう言って私を指し示した。

館から出てきた翼人は軽く頷いて呪文を唱える。

叫び声も泣き声もぴたりと止まる。

精神に干渉する魔法はとても加減が難しいそうだ。

最悪の場合、廃人同然になるらしい。

体がガタガタと震えだす。

「すみません。寒くて。」

私は笑って、目をじっと見た。

せっかく魔法から逃れたのに、気弱で自害するようなやつと思われたらもったいない。

「なるほど、ずいぶん賢い個体だ。」

長髪の方の翼人はそう言って軽く笑った。


長髪の翼人が鎖を引くままに付いて行く。

前につながれた人たちは何も言わずに大人しく従っている。

館の中に入れば、ここがどういうところかすぐに分かった。

左右の部屋には、扉ではなく鉄格子が付いている。

中には手かせのついた人間。

皆、目はうつろであまりしゃべらない。

2階は1階より豪華な造りで、部屋の中の調度品も少し豪華だ。

一つ一つの部屋が大きく、部屋の数が少ない。

部屋の中の人は前を歩く翼人を怯えたように見たり、怒りを込めた目で見ていた。

一人一部屋ずつ入れられて、私は一番奥の部屋になった。

翼人はそのまま私の部屋に入って、格子の扉を閉めた。

「さて、本当に賢そうな個体だ。この調子て躾けも上手くいくことを祈りますよ。お前の名前は?」

「ミアです。」

「そう。ではミア、何か特技はありますか?」

「絵を描くことです。」

「すばらしい。ではこのカバンはお返ししましょう。絵を描くものしか入っていませんからね。」

持ち物があっさり返されて拍子抜けしてしまう。

「ありがとうございます。」

私が礼を言うと、翼人は驚いたように目を見開いた。

「……よろしい。まだ寒いですか?」

翼人の目は私を観察するように見ている。

「……すみません、少し。」

私は体の震えを止めることができなかった。

「謝ることはありません。この状況で正気を保っている方が奇跡です。」

翼人はがくがくしている私の手を取って、椅子に座らせてくれた。

「ありがとうございます。」

私が礼を言うと翼人はついにほほ笑んだ。

「すばらしい。あなたはとても値の張る商品となるでしょう。そのように恐れずとも粗相をしなければ傷つけることは絶対にありません。」

そんなことを言われても怖いことに変わりはない。

けれど私は何度か深呼吸をして無理やり震えを止まらせた。

「ありがとうございます。」

そう言って笑った顔は多分上出来だったと思う。

翼人は動きを止めてしばらく私から目をそらさなかった。


翼人が去ってから、私はとりあえず心を落ち着けるために絵を描くことにした。

部屋には簡素なベッドと机と椅子がある。

それなりに広さもあるので鉄格子がはまっていることを除けば、安宿より豪華なくらいだった。

しばらくすると隣から聞こえる叫び声が聞こえてきた。

「ふざけないで!魔族に教える名前なんてないわ!」

よくこの状況でそんな口が利けるものだともはや感心する。

「敬語?そんなものどうして私が使わなきゃならないの?」

自分が目の前の人の機嫌を損ねたら死ぬかもしれない、なんて考えたこともないのだと思う。

「はぁ?ご飯を抜く?だから何よ。」

「ひぃ。痛い。やめて。やめて……」

段々聞くに堪えなくなってきて耳をふさぐ。

私は小さな窓の外を見る。

いつの間にか雪が降り始めたようだ。

初めて見る雪は夕日にキラキラと反射して、ひどく美しかった。



「絵が得意とは聞いていましたが、見事なものだ。」

突然声をかけられて飛び上がるほど驚いた。

この状況で翼人が部屋に入ってきたことも気づかないなんて、我ながら集中し過ぎである。

「ありがとうございます。」

私はそう言ってほほ笑んだ。

「もっと自由にしゃべりなさい。あなたは賢い。きっと会話で楽しませることができるでしょう。」

翼人はそう言って挑戦的な笑みを浮かべると呪文を唱えた。

机の上が片づけられて、スープが置かれている。

「お疲れですか?」

自由に話すにしても、地雷を踏んだら怖いので当たり障りのないことしか言えない。

翼人は笑っているが、先ほどより疲れた様子だった。

「……ええ。聞き分けの悪い人間の躾けは疲れます。」

「よろしければお使いください。」

とりあえず椅子を勧めてみた。

翼人は少し逡巡してから椅子に座る。

「食事は喉を通りませんか?それとも苦手な食材でも?」

「……いいえ、いただきます。」

どうやら食事の許可を待つ必要はないらしい。

お祈りをしていいか分からなかったので、そのままスプーンを口に運ぼうとする。

大丈夫。私は高級な商品で、殺されるはずなどない。

毒なんて入ってない。

気合を入れて口に含んだスープはそれなりの味だった。

仕方ない。

トールのせいで舌が肥えてしまっているのだ。

私が食べる様子をじっと見ていた翼人は軽くため息をついた。

「私がいるからといって床で食べる必要はありません。」

呪文を唱えると、椅子が現れ、その上にふわりと座らされる。

「命じられたらそうしなさい。」

「かしこまりました。」

「食事の許可を待ち、主人を椅子に座らせて自分は床で食べようとする。ここまで来るともはや末恐ろしいですね。ここに来るまでは何をしていたのですか?」

翼人は苦笑いした。

「冒険者です。」

「経歴署の通りですね。何でも、1年足らずで異例の昇進をするほど優秀だとか。」

経歴書なんてものがあるのか。

「はい。もしかして私がどのような魔族を連れていたかもご存じですか?」

「えぇ。犬の獣人と人魚。人魚の方は突然変異と思われる美しい見た目だそうですね。」

突然変異ってなんだ。

ある日突然あの模様が浮き上がったとでも思われているんだろうか。

「ご覧になりますか?」

私は机の端に寄せられたスケッチブックを手に取ってページをめくる。

1枚めくって、私はすぐにやめた。

このまま絵をふり返ったら、泣くに決まっていると気付いたからだ。

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