戦略と効率と実力
私たちはしばらくオーベルに滞在することにした。
他の街に移るにはまた長い旅程を組まなければならないし、ここはAランクの依頼もたくさんある。
今の私たちが滞在するにはちょうど良いところだった。
もう散々遺跡は見たので、私は町を散策し、トールたちだけで仕事に行っている。
「よう、ミア。」
広場の階段の一番上から街の景色を描いていると、ジャックに話しかけられた。
「ジャック。まだこの街にいたんだ。」
ミノタウロスの討伐からすこし経っている。
ここはCランクのクエストが少ないので、とっとと他の街に行った方が効率よく稼げるだろう。
「そうなんだ。実はロバートギルド長の後を追っかけて色々聞いてるんだよ。」
ロバートって誰だ、と思ったけれど多分先輩のことだ。
「そうなんだ。なんかわかった?」
「それが、戦略の細かい話とかしてくれるんだけどさ、俺にはレベルが高すぎてさっぱり。聞けば聞くほどわかんなくなるんだよ。」
確かに先輩は論理的に戦略を組むタイプだろう。
細かいところまで聞き出してもよく分からなくなりそうだ。
「なんかもっと分かりやすいこと言ってなかった?最初の方に。」
「あぁ、言われた。よく見て自分の頭で考えろって。つまり俺は全然考えられてないんだろうな。だからギルド長の戦略もよく分からない。」
「へぇ。」
それよりもまず自分の状況をよく見て考えろと言いたい。
本気で早く出世したいならこんな街をほっつき歩いてる暇はないはずだ。
けれどまぁ、世の中こんなものなのかもしれない。
別に必死に戦略を立て、効率よく稼がなくても、命令すればなんとなく仕事はできるのだ。
ジャックも出世欲はあるのだろうが、必死さはない。
先輩のように全力で稼ごうとする人の方が珍しいのだ。
「なぁ、ミアならあのとき俺の魔族、どう使ってた?」
「そもそも私だったら報酬もなしにあんな怖いところいかない。」
今回だって報酬がなければ行かなかった。
「それは、そうだろうけど。じゃあ、俺みたいに早く強くなりたいと仮定してだな……」
「まず、先輩が犬の獣人に出していた指示を徹底的に真似する。魔力の弱い魔族の立ち回りだったから誰でも真似できたはず。その他、真似できるところは徹底的に真似して試行錯誤する。出す魔族は一体ずつ、ローテーションにして体力を温存する。携帯食や水は必ず持ち込み、適宜補給。乱戦状態で状況把握が難しいから、怪我をしそうになった場合は必ず一時撤退をあらかじめ命じておく。休憩している魔族には戦闘の様子を聞き出し、問題があればその場で改善案を考え、実行して試す。」
考え出すと止まらなかった。
出世欲さえあれば、私は先輩やトールのように戦略を立てることができるらしい。
「……お前、実力でAランクに上がったんだな。今の話してる姿、ロバートギルド長とそっくりだったぞ。」
「そんなことはどうでもいい。私がなぜそんな戦略にするか分かる?」
ジャックののんきな様子にイライラした。
「えっと……効率がいいから?」
「そう、効率がいい。実力に見合ったとことをするのが一番効率がいい。」
分かったらさっさとこの街を出てCランクの依頼を受けてこい。
魔族を一人失っておいて、まだこの街で実力を試す気か。
「なるほどな。参考にしとくぜ。」
他人の魔族の扱いに口出しするのはマナー違反だ。
だから、私は相変わらずのんきに笑っているジャックに何も言わなかった。
そんな風だから罰が当たったのだろうか。
私はジャックと別れてしばらくすると、誘拐された。
意識が少しずつ浮上する。
「命令する。誘拐された。助けて。」
私は小声で命令をした。
これでトールとナギに伝わるはず。
首輪の契約をした人間の位置を魔族は把握することができる。
場所は言わなくてもわかるだろう。
すっかり意識が戻ると、ずいぶんとうるさい場所だと分かる。
荷馬車の中に私と同じくらいの年代の男女が4人詰め込まれているのだが、みんな叫ぶか怒鳴り散らしている。
「助けて。助けてー。」
「こんなことをしてタダで済むと思うなよ。」
「家に帰しなさいよ。どうせすぐに警備隊に捕まるわ。」
ずっとこんな調子なのだ。
気持ちは分かるがうるさすぎる。
「魔法で黙らせたりしないんですか。」
私は見張りであろう魔族に話しかける。
真っ白な羽の生えた魔族。翼人だ。
鳥人と同じように羽が生えているが、その羽は背を覆うほどに大きい。
羽の色は白と決まっているようだが、髪や目の色は人間のように様々らしい。
魔力が高く見目も良い。
普通なら荷台で見張りをさせるような種族ではない。
彼もまたうるさそうに顔をしかめている。
「……黙らせると、極度のストレスで死んだりする。叫ばせて発散させるしかないんだ。」
どうやら殺すつもりはないようでとりあえず安心した。
しかも会話に応じてくれるらしい。
「ここだけ防音魔法をかけませんか。」
「一応見張りだからな。」
うるさいが音が聞こえなくなるのもまずいらしい。
おそらくこの馬車自体には外に聞こえないように防音魔法がかかっているのだろう。
どんなに叫んでも無駄なようである。
手元にある毛布を引き寄せる。
寒い。
いったいどれだけオーベルから離れたんだろう。
これだけの時間が経って、トールとナギが私を見つけ出せないことがあるだろうか。
あれほど強く賢い人たちなのに。
「私の首輪の契約は、まだ続いていますか?」
「……教えるはずもない。」
そう言って顔をそらした翼人の首には、首輪がなかった。
嫌な予感が的中した。
私はただの無力な人間だ。
魔法の使えない最弱の種族。
私の体はガタガタと震えだした。
「寒い。」
私はそう言って翼人の瞳をじっと見た。
「……大丈夫か?毛布は一人一枚しかないんだ。」
そう言って自分の着ていた上着をかけてくる。
どうやら防音魔法を使ったうえで温度を調節する魔法は使えないらしい。
ナギよりは魔法が得意ではなさそうだ。
御者はおそらく目立たないように獣人を使っているはずなので、御者が防音魔法を使っているとは考えにくい。
翼人の上着は背中に切れ込みが入っていて、防寒性が低そうだった。




