Sランククエスト
ギルドの通信係に頼んで先輩に手紙を飛ばすと、すぐに返事が返ってきた。
『了解。ただしその幼なじみに報酬は分けられない。あと、装備はてきとうで大丈夫だ。』
私はそのノートの切れ端みたいなものに書かれた手紙をジャックに見せた。
「全く構わない。」
ジャックがそう言って了承したので、私は『了解です。』とだけ書いてスケッチブックの切れ端を通信係に渡した。
「ありがとう、ミア。明日の朝、魔族を連れてここに集合すればいいんだな?」
「そうそう。」
「装備はてきとうで大丈夫とか書いてあったけど、本当に大丈夫なのか?」
「先輩はいつもてきとうな鎧を着て危険区域に行ってるらしいよ。そんな軽装な人間を守れるような魔族を連れているってことだから、大丈夫なんじゃない?ミノタウロスの討伐は余裕とか言ってたし。」
「まじか。Sランク冒険者ってやっぱすごいな。」
ジャックは驚いた様子で言った。
翌日、私たちは早朝にギルドに集まっていた。
「おう。お前がお嬢の幼馴染か。俺はロバートだ。よろしく。」
先輩はそう言って大きな手をジャックに掲げる。
「は、はじめまして。ジャックです。Sランク冒険者のロバートってもしかして、王都でギルドマスターをやっている……。」
ジャックは握手に応じながら恐る恐る尋ねる。
「良く知ってるな。」
「強い冒険者を志す者ならだれもが知っていますよ。」
ジャックはそう言って尊敬の眼差しを向けていた。
「こりゃあ、出世に興味のねぇお嬢とは大違いだな。」
そう言って先輩は豪快に笑った。
魔物が生息しているのは砂で埋もれた古代遺跡の中らしい。
遺跡は下へと続いていて、奥に進むほど強い魔物が生息している。
暗い通路を魔法の明りで照らして進んでいく。
壁には薄っすらと古代文字が残っているようだった。
「ナギ、これ読める?」
私は後ろにいるナギをふり返る。
「呪文に使われているような単語ならいくつか読めるねぇ。詳しくは分からないけれど、偉大な人を讃えるような文章のようだよ。」
ナギはおっとりと言った。
「すっげえな。お前年はいくつだ?」
先輩が興味深そうに聞いてくる。
「400歳くらいかな。多分ね。」
「信じらんねぇな。」
先輩はそう言ってガハガハ笑った。
私たちが魔物の巣窟で平気でしゃべっているのをジャックが気違いを見るような目で見ている。
とはいえ、私たち3人の人間はナギの結界の中にいるのだ。
声を出しても特に問題はない。
しかも先にいる魔物は先輩の魔族とトールがバッタバッタと切り倒しているので、そもそも私たちは魔物に遭遇することがなかった。
「しっかっし、お嬢連れてきて正解だったわ。人魚がいるから自分で自分の身は守れるし、バフもデバフも手厚い。それにあの獣人、やっぱ相当強いな。明らかに進むスピードが違う。この効率ならSランクの依頼をぶん回すのも悪くねぇ。」
先輩はそう言って顎の髭を撫でた。
どうやら報酬を折半しても旨味のあるスピードのようだ。
確かにトールは強かった。
彼が戦うところは初めて見たが、何というか全く無駄がない。
相手が動き出す前に懐に忍び込んで急所を突くような、そんな感じの戦い方のようだ。
トールが品質は良いとはいえかなり軽装の鎧を着けているのは、スピードを失わないためらしい。
生まれ持った身体能力で音もなく忍び寄り、2本のナイフで確実に獲物を捕らえていた。
「な、なんでミアの魔族に結界を張らせてるんですか?大丈夫なんですか?」
ジャックはあまりの恐怖に耐えかねたように声を上げた。
「いやぁ。俺ならこんなとこで結界なんて張らねぇぞ?前のやつらが倒してんだから、どうせここまで来ねぇだろ。」
先輩は呆れたようにジャックを見た。
どうやら先輩からするとかなり過保護な仕事のやり方らしい。
「っそ、そうなんですね。勉強になります。」
ジャックはSランク冒険者にそう言われてとりあえず落ち着いたようだ。
先輩ではなく私の魔族が結界を張っている点が不安だったらしい。
「それにしても、お前の魔族、危なくなったら下がらせろよ?他人の魔族の命までは責任もてねぇぜ?」
ジャックの魔族は3人に増えていて、皆前線に立たされていた。
魔族をどうするかは持ち主の責任だ。
先輩の関与するところではない。
「分かりました。」
ジャックは頷いたが、魔族を下がらせることはなかった。
「えー、じゃあナギがやられちゃいそうで心配なのでここにとどまって壁の文字解読してていいですか?」
私はもう目の前のスプラッターな光景を見飽きていた。
「はっはっは。お嬢は報酬分働かなきゃな。」
「はーい。」
私は笑顔で返事をした。
はぁ。報酬に目がくらんだばかりに。
「トール、ご飯だよー。」
ナギがお腹が空いたと言ってから数刻経って、ちょうど襲ってくるような魔物も少ない場所に差し掛かった頃。
今こそ絶好のランチタイムと見極めてトールを呼ぶ。
「嘘だろ?ここで悠長に食事取る気か?」
先輩が素っ頓狂な声を上げる。
さては先輩、仕事にかこつけて食事をおろそかにするタイプだな。
トールとは相容れないタイプだ。
「安心してください。歩きながら食べられるようにラップサンドですから。」
トールは少しの間前線から退いてしまうが、進行を止める必要はないのだ。
「ははは。お嬢は面白れぇなぁ。腹が減ったら携帯食くらいは食うが、普通しっかりした昼飯はとらねぇよ。」
進行に妨げはないと分かって先輩は特に止める気はなくなったようだ。
興味深そうに私たちの様子を観察している。
「ミア様にお昼ご飯を食べるように言われるのは新鮮ですね。」
トールは魔物の青い返り血まみれで帰ってきた。
ナギが呪文を唱えるとあっという間に綺麗になる。
「確かにいつもと逆だね。」
とはいえ今日の私の仕事は実質これだけだ。
立ち止まれないのでスケッチも描けないし、トールもナギも命令しなくても勝手に動く。
さすがにトールが自発的に手を止めてランチに誘うのはいささか見た目が悪いので、私が声をかけて昼食を摂るという流れなわけだ。
「はぁ、相変わらずしょうがねぇやつ。」
ジャックが後ろでため息をついたのが聞こえた。




