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冒険者ギルド

教会を出た私たちはひとまず乗合馬車に乗せてもらった。

「まあ、教会から?それなら私がお金を出すわ。乗って頂戴。」

親切なご婦人に事情を説明すると、快く客車に招かれる。

トールは魔族たちが乗っている後ろの荷台に乗った。


この時代、孤児はかなり珍しい。

どこの家も大抵は子供を育てる余裕があるし、なくても魔族に命じて育てることができるからだ。

けれど不慮の事故で親を亡くした子供の引き取り手が全くいないとき、子供は孤児院に送られる。

その子供も、養子にしたい人が引き取る場合が多く、成人まで孤児院に残っている子供は稀だった。

そもそも心に余裕のある人が多いので、困っている人がいたら助けるのが当たり前という文化がある。


「どちらまで行くの?」

親切なご婦人が尋ねてくる。

「フォークロードまで行こうと思ってます。あそこは難易度の低い依頼が多いと聞いて。」

冒険者ギルドの依頼は主に魔物の討伐だ。

ギルドは全国各地にあり、それぞれの場所で依頼を募集している。

中でも、フォークロードは周辺に比較的弱い魔物しかいないので、駆け出しの冒険者に好まれる。

「懐かしいな。俺も若い頃よく行ったよ。」

隣の男性がしみじみとした様子で言った。

「冒険者なんですか?」

「そうさ。今は王都に定住しているが、最初はフォークロードとか弱い魔物しかいない場所を転々としてたね。ある程度金がたまってからは、好きなところに色々行って、結局なんだかんだ一番便利な王都に住み着いちまった。」

「やっぱり王都は便利なのねぇ。私は親の代から職人ギルドに入っているから、王都から出たことはないけど、冒険者の話を聞くとちょっとあこがれるわ。」

ご婦人はほのぼのとした様子でそう言った。

町の外は魔物が出る。

平民の場合は冒険者や商人くらいしか外にでることはなかった。

町と町の間には整備された道が通っており、その道を通ればほとんど魔物がでることはないが、それでもリスクがあるので仕事でもない限り外に出ることはない。


私はご婦人に再度お礼を言って、冒険者ギルドの前で降りた。

荷台のトールに声をかけようかと思ったが、私が言う前に馬車を降りている。


「嬢ちゃんはフォークロードに行く馬車を探すんだろう?思い当たるやつに聞いてみてやるよ。」

馬車で話していた冒険者の男性もギルドに用があったようで同じ場所で降りていた。

「ありがとうございます。」

私は礼を言って男性の後ろについていく。

ギルドの中はそこそこ人でにぎわっていた。

横一列に並んだカウンターには常に2,3人の人が並んでいて、ロビーにあるソファーにも人がちらほら座っている。

「誰がいいかな。お、ロバート。お前フォークロードに行く用事あるか?」

「フォークロード?ちょうど通り抜けるな。乗せてほしいのか?」

男性が声をかけたのは強面の大男だった。

「いや、俺じゃなくてこの嬢ちゃんを乗せてほしいんだよ。」

「ああ、もちろんいいぞ。」

一見熊みたいな見た目だが、快活に笑うその様子に警戒心を引き下げる。

「ミアです。よろしくお願いします。」

「おう。ロバートだ。よろしくな。」

差し出されたロバートの手と握手する。

大きな手だな、と思った。


ロバートの馬車の荷台には魔族が4人も乗っていた。

御者も入れると5人の魔族を所有しているらしい。

「嬢ちゃんの魔族は御者台でいいか?」

さすがに5人詰め込むのは狭いと思ったのかロバートはそう言った。

「もちろんです。」

私がそう答えると、トールは御者の横に座った。


「しっかし、綺麗な嬢ちゃんだ。親は馬車を買ってくれなかったのか?」

向かい合わせで客車に座ったロバートが不思議そうに聞いてきた。

「私孤児なんです。だから一文無しなんですよ。」

「へぇ。そりゃまた珍しい。短い間だが、困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。」

「ありがとうございます。」

「とりあえず今日は途中の宿小屋に一泊して、明日の昼頃にはフォークロードに着くだろう。途中、腹が減ったら昼休憩にしよう。もちろん昼食はおごるから遠慮すんな。」

「ありがとうございます。先輩。」

「先輩か。そりゃいいや。随分可愛らしい後輩ができたもんだ。」

私がノリで呼んだ呼び名を気に入ったようで、先輩は満足そうにうなずいた。


会話が途切れると、私は先輩に断ってスケッチを始めた。

絵描きは趣味だ。

馬車の窓から流れていく風景を、思うがままに画用紙に描いていく。


「おい。昼飯食べるぞ。腹減った。」

先輩に声をかけられて顔を上げる。

どうやらすっかりお昼の時間になっていたらしい。

先輩は御者に命じて馬車を路肩に停めると、さっさと降りていった。

私も降りようとすると、昇降口でトールが手を差し出している。

彼はとても気が利く。

もしかしたら私のような女性に仕えたこともあるのかもしれない。

「ありがとう。」

私は礼を言って馬車から降りた。


道の周りは木々もなく、開けている。

牧草のような低い草が生えたところに大きな布を広げて、その上に先輩が座っていた。

先輩の魔族のうちの一人だけがそばにいて、魔法でランチを作っているようだ。

「お前、そうやって手ぇ引かれてると、本当にどこぞのお嬢みてぇだな。」

先輩は流れでトールにエスコートされながら歩いてきた私を見て言った。

「実際は無一文の孤児ですが。」

「人は見かけによらねぇよな。」

「先輩は見かけを気にしなすぎでは?」

「このワイルドさがわからないとは、まだまだお子ちゃまだな。それに俺、髭そったらモテるんだぜ?」

先輩は無精ひげを撫でながら言った。

「確かに、骨格は整っているし、顔の造形自体は悪くない気がします。」

私は先輩の隣に腰を下ろす。

トールはそばに立って控えている。

「おお。さすが画家先生はわかってるな。」

「先輩もわかってますね。」

画家と呼ばれるのは気分が良かった。


魔法で皿に乗ったサンドイッチがフヨフヨ浮いてくる。

魔法って本当に便利だよな、と思いながらそれを受け取った。

「命を授けし大地よ、この糧を受ける我らに、再び歩む力を与えてください。」

「おぉ。教会で育ったっぽい。」

サンドイッチにかぶりついていた先輩が、興味深そうにこちらを見ている。

「いや、院長のエルフの真似してたら、なんとなくやらないと気持ち悪くなっちゃって。別に強要されてたわけじゃないんですけど。」

先生と一緒に食事をとることが多かった私は、先生の様子をなんとなく子供のころから真似していたのだ。

もちろん、まったく強要はされていない。孤児は宗教的なことを強要されることなく育てられるものだった。

「へぇ。お祈りなんて初めて聞いた。」

先輩は感心した様子で私を見ていた。


この国の人は宗教に興味がない。

人間は神に祈らなくても幸せに暮らせるからだ。

神への祈りすら魔族に任せた人間たちは、自分たちの宗教の教義も慣例も忘れてしまっていた。

かく言う私も細かいことはさっぱり知らないので人のことは言えないのだが。

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