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ギルド長と期待の新人の珍道中

翌日の早朝、私たちは教会に行った。

「ミア、寂しくなります。」

「先生、それ前にもやったから。」

そんな感じで私たちは別れを惜しんだ。

先生はいつものように特大の加護を私に送って私たちを見送った。


「なんか変わった馬車だな。」

馬車に乗ってギルドの前に行くと、先輩が不思議そうに荷台を覗いた。

「荷物が少ない私にとって、安いのに広くて快適で非常に合理的な馬車です。」

私は胸を張って自慢した。

「確かになぁ。すきま風は入ってくるが、その人魚が魔法で防げば問題ないっつーことか。」

先輩は感心した様子で言った。

荷馬車の前後は開いているので風は入ってくるが、ナギがいつも勝手に適温に調節している。

そもそも、私たちはまだ温暖な地域にしか行ったことがないので、基本的に魔法なしでも快適に過ごせていた。

「面白れぇ。俺もこっちに乗ってみてもいいか?」

「別にいいですよ。」

お気に入りの馬車を褒められて私は良い気分だった。

先輩は大柄なので、いつも私とナギが座っても余裕がある椅子がいっぱいになる。

私たちはベッドの淵に腰かけることにした。

先輩の合図で先頭の馬車が動き出し、トールもそれに付いて行く形で馬車を動かす。

「しっかし、お嬢。人魚なんて高かったろう?しかも見たことがない変異種。魔力が高いのは分かるが、どうしてそいつにしたんだ?」

人の趣味趣向に関わるので、そういうことを詮索するのはあまりお上品なことではないが、先輩に上品さを求めても仕方がない。

「うろこが生えていたのでタダでもらったんです。うろこは後から塗りました。」

効率主義の彼なら、実際はうろこ持ちの魔族を連れまわしていようが何も思うまい。

そう考えて素直に話した。

「そりゃいいや。じゃあお嬢が金をかけたのは装備くらいか?とんでもねぇ利益率だな。」

その風貌で利益率とか言うなよ、と思いながら私は頷いた。

彼は相変わらず髭の生やした大柄の熊みたいな男で、いかにもガサツな冒険者にしか見えなかった。

「先輩も魔族にあまりお金をかけませんよね。」

先輩が連れている高級な魔力の高い魔族は相変わらず2人だけだった。

「まぁ、経費削減のためにな。魔力が高い魔族ばっかいても連携取りにくいし。」

「へぇ。前のメンバーから少し入れ替わってますよね?」

先輩の馬車の荷台にいた魔族は前と顔ぶれが違う気がした。

「おう。売ったり買ったり試行錯誤してんだよ。お嬢のこの獣人は前会ったときに連れてた孤児院でもらったやつか?」

先輩は御者をしているトールを顎でさす。

「そうですけど?」

「だとしたら相当な育て具合だな。体つきといい、立ち居振る舞いといい、そこらの犬の獣人とはわけが違う。」

確かにトールは最初に会った頃より筋肉質になっている。

ゴツくなったというよりは引き締まっていて、今見えている背中もくびれにかけて綺麗な逆三角形になっていた。

立ち居振る舞いに関してはよくわからないが、私の好みに合わせて毛並みを整えているし、彼は他の犬の獣人と簡単に見分けがつくくらい前とは変わっている。

「全く末恐ろしい新人だな。この調子でSランクにもなっちまうんじゃねぇか?」

先輩はそう言って豪快に笑った。

Sランクは冒険者ギルドの中で1番上のランクだ。

正確な昇格基準は知らされていないが、Aランクのクエストで継続的に成果を上げ続けるとSランクになるらしい。

「まぁ、強くなる過程でそうなってしまったら、その時はその時ですね。」

トールは強くなりたいらしいので、依頼を受けているうちにランクが上がってしまう可能性はある。

「嘘だろ?お嬢、その感じで強さ求めるタイプ?」

私のことをお嬢と呼んだり、先輩は私にちょっと夢見てるんだろうか。

「強さも、お金も、自由も求めてます。私は強欲なので。」

私はそう言って笑顔を向けた。

トールの魅惑の尻尾が揺れた気がした。


しばらく先輩と仕事の話をしていると先輩はお腹が空いたらしい。

「ファビオン、命令する。馬車を停めて昼飯の準備をしろ。」

先輩は特に声を張り上げることもなくそう言った。

契約者が命令すると、必ず首輪に伝わる。

不思議なことに命令された内容も対象の魔族にのみはっきり聞こえるらしい。

前の馬車は命令通り停車した。

御者の獣人が馬車から降りて、道の脇の開けたところに大きな敷物を敷く。

「そんじゃ、ありがとな。乗せてくれて。」

そう言って先輩は荷馬車を降りていった。


私たちはいつも通り荷馬車の中で食事を摂っていると、先輩が中を伺ってくる。

「早食いは体によくありませんよ。」

「口がでかいからすぐなくなっちまうんだよ。お嬢はゆっくり食べろよ。」

どんな言い訳だと思いつつ、急かすつもりはないようで安心した。

「またこちらに乗るんですか?」

「いや、こん中で食べんだなと思って。」

馬車から出てこない私たちが気になったらしい。

「合理的でしょう?」

「確かに。つうか旨そうなもん食ってんな。」

「実際トールのご飯は店並みのクオリティですよ。食べますか?」

先輩のような大男なら昼食を多めに摂ったところで何ら支障はないだろう。

別に世話になっている先輩にご飯を少し分けるくらいなんてことない。

私だって心に余裕のある親切な人間のうちの一人なのだ。

「いいのか?じゃ、遠慮なく。」

そう言って先輩が荷台に上がると、ベッドの淵に座っていたナギが立ち上がる。

「私は食べ終わったから、トールがここへ。主様、私は少し散歩してくるよ。」

ナギはそう言って、私の頬に挨拶のような軽いキスを送ると外に出て行った。

「どうぞこちらへ。」

そう言って先輩に御者台の後ろの席を勧めると、トールは先輩に余っていた料理を盛り付ける。

私の魔族たちは先輩の人となりを把握したようで、いつも通り私に接することに決めたらしい。

「おう。」

先輩は間髪おかずにモリモリと食べ始めた。

トールはその食べっぷりに微笑むと私の隣に腰を下ろす。

私はつい気になって、彼の腕にぺたりと触ってみた。

「ミア様。お食事が終わったらいくらでも触っていただいて構いません。今はお食事に集中しましょうね。」

そう言ってトールは有無を言わさぬような黒い笑みを向けてきた。

私はすぐに手を引っ込めて、ご飯へ視線を戻したのだった。

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