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Aランク

3人で教会に言った次の日からトールとナギはいつも通り仕事に向かった。

私はしばらく街を散策して絵を描いてから、昼ご飯を食べに教会へ向かう。

「随分彼らに懐かれましたね。」

一緒に昼食を食べる先生はパンをちぎりながら私に言った。

「ね。本当にね。」

私だってあんなに懐かれるとは思っていなかった。

「まぁ、ミアが常日頃そばにくっついていたら懐くのは当然かもしれません。」

「先生みたいに?」

「えぇ。私みたいに。」

私は教会に来たばかりの頃から先生に付きまとっていた。

他人に害されることを恐れている私でも、首輪で人を傷つけることを禁止されている先生は存分に甘えられる対象だった。

そんなことをしていたら、孤児の一人として接していたはずの先生の態度はいつの間にか大幅に変わっていた。

「いまだにどうしてあんな簡単に先生が絆されたのか分からない。」

先生は善良なエルフだ。

孤児たちの世話を怠ることはないし、困っていたら魔法で助ける。親切な大人だ。

けれど私に対しては明らかに他の子より目をかけている、と思う。

トールやナギが私に懐くのはなんとなく分かる。

彼らはあまり恵まれない状況にいたから、私の魔族としてそばにいることで救われたような気分になったのだろう。

けれど先生は違う。

「そうですね、何と言ったものでしょうか。」

先生はそう言って私を膝の上に転移させた。

同時に食べ終わった皿たちが片づけられる。

途方もなく年上な先生の前で今更大人ぶる気にもなれず、私は彼の膝の上で特に抵抗することもなく座っていた。

彼は私の年齢を覚えているし、背が高くなったことまで分かるようだが、結局いつまでも私を子供のように思っているのだろう。

「私は寂しいとか悲しいとか、そんな感情もろくに分からない愚か者だったのです。こんなに長く生きて、ようやくそれを私に教えてくれたのが、あなたなんですよ。私のいとし子。」

感情が分からない?

これだけ長く生きていてそんな事態になることがあるのだろうか?

しかし、先生は何か話すことを禁じられていることがあるようで、ときどき言葉を選ぶのはその禁止事項を破らないためだった。

多分これ以上言及しても答えられないだろう。

「じゃあ私が先生にもらった恩はそれで返せてるのかな。全く何かした気がしないけど。」

「えぇ。十分すぎるほどに。」

先生はそう言って私の頭を撫でた。


そんな穏やかな里帰りをしつつ、王都に戻って4か月ほど経った。

随分長い里帰りである。

私は結局王都の散策に飽きて、キャンバスを使って本格的な作品を作るようになった。

これを商人ギルドの個人用の買い取り窓口に持っていくと意外と高く売れるのだ。

なんでも人間が描いた絵はそれなりに付加価値があるらしい。

この国の人は平民でも部屋に絵を飾るが、このような本格的な絵画は魔族が描いていることが多い。

そのため人間が作った本格的な作品はそれだけで割と良い値段がするのだった。

絵画を飾る家もない私は、作品を周りに存分にほめてもらって満足してから絵画を手放せて一石三鳥だった。


「ではミア様、行って参ります。ナギ、座ってないで行きますよ。」

ある日の朝、トールが広めのベッドの淵に座ってくつろいでいるナギに言う。

トールに魔法を教えることはナギの生きがいの一つなので、いつもはルンルンで出かけていくのに珍しい。

「えー、もうちょっとゆっくりでも良いのではない?そんなに働いたらまた色々な者に探りを入れられるよ。」

ナギは立ち上がるどころかベッドに寝そべりだした。

「探りを入れられる?」

私はどういうことだと首を傾げる。

私本人がギルドに言って話しかけられるならまだしも、わざわざ魔族から情報を引き出そうなんてただ事ではない。

「そうだよ。最近、冒険者ギルドに行くと偉そうな人間が、主様はどこにいるんだとか、どんな人なんだとか、会ってみたいから連絡を取り付けろだとか言ってくるんだよねぇ。」

「「それって……。」」

私はトールと顔を見合わせた。

外壁の外に出る権利を得ることのAランクになることはとても難しい。

冒険者の中でAランクに上り詰めることができる者は1割にも満たないと言われていた。

評価基準も単に貢献度だけではなく、いくつかあるのではないかと予想される。

例えば持っている魔族の強さや能力、冒険者本人の資質などだ。

安易にランクを上げて高難易度の依頼で死なれては困るので、Aランクへの昇格はギルドとしても慎重だった。

「ナギ、その偉そうな人間は珍しい色のギルドトークンを下げてませんでしたか?」

「あぁ。なんだか目の前にプラプラ見せられたけど、あれ、シルバー以外もあるんだねぇ。」

「ナギのバカ。」

私は思わず寝そべるナギにタックルした。

簡単に受け止められた。

「なぁに?抱っこしてほしいの?」

「違う。」

私を捕まえてくるナギの腕をバシバシとたたいた。

「ナギ。それはおそらくギルドの上層部です。Aランク昇格にふさわしい人間か、ミア様を確認したいのですよ。」

ギルドの上層部も何だって世間知らずの人魚しかいないときに話しかけたのだ。

まぁ、ナギの方が目立つし、大方トールがカウンターで手続きしているときに、ほっつき歩いて暇そうにしていたナギが話しかけられたのだろう。


久しぶりに来た王都のギルドは相変わらず広い。

ここまで来ると腕の立つ冒険者しかいないので、フォークロードのときのようにわらわらと集まって質問攻めにされたりしなかった。

受付に要件を話すと2階の応接室のようなところに通される。

私はソファに座り、ナギも座ろうとしたところでトールに微笑みながら腕をつかまれていた。

「待たせたな。」

大して待ってもいないうちに入ってきたのは熊のような大男だった。

「先輩。今度言伝を頼むときはこの派手な人魚ではなくトールにしてください。」

「おう。来ないと思ったら伝わってなかったんだな、お嬢。」

ギルドの上層部こと先輩は豪快に笑った。

「はぁ。笑い事じゃありません。首を切られるかと思いました。」

「ははは。ギルド長と言えど、簡単にAランク冒険者の首は切れねぇよ。ほれ。」

そう言って渡されたのは金色に輝くギルドトークンだった。

「いや、面接とかは?ちょっとてきとう過ぎません?」

「いやー、やっぱお嬢が出世するっつー俺の見立ては間違いなかったな。」

「先輩、聞いてください。というかギルド長って……」

王都のギルドのギルド長ということは多分冒険者ギルドのトップ3に入るくらい偉い人だ。

「そんなことより入って1年でAランクっつーのはすげぇことだぜ。史上2番目の速さだ。ちなみに1番は俺。お前の魔族がちゃんと伝言伝えてれば、今頃1番だったのに惜しかったな。」

私はそれを聞いて、帰ったらナギにバカと言ったことを謝ろうと思った。

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