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隠し事

「つまり、ずっと荷馬車の中に入れておくつもりだと。」

アイザックさんはあくまで穏やかに言った。

しかし、あまり良い気分ではなさそうだ。

「ミア。あなたって本当に最低だわ。そんなのひどすぎる。」

ライラはいつもの調子で私の腕に縋りついている。

「ライラ、一方的に罵倒するのはやめなさい。もちろん成人した大人が所有した魔族をどのように扱おうが、君の勝手だ。もし無理に押し付けられて困っているのであれば私が引き取ろうと思うが、どうかね?」

「全く困ってはいないですね。」

食費が少しかかるだけだ。

メリットの方が多い。

「では、この話は聞かなかったことにしよう。」

「でも、でも……」

ライラが納得いかない様子でもごもごしている。

「大丈夫。うちの荷馬車は快適だよ。天井も高いしベッドもある。」

「でも荷馬車でしょう?それも一生その中にいなければならないなんて。」

「……でも一生拠点の中にいなければならないなんて。」

「ミアさん?」

取りすがるライラがうっとおしくて思わずやり返すと、アイザックさんに止められた。

私は息を吐くと、彼に言った。

「本日はお招きありがとうございました。トールが久しぶりにゆっくり夕飯の支度をしようとうきうきしているので帰ります。」

「ああ。うちの庭が覗きたくなったらいつでも来るといい。同志として歓迎しよう。」

「志はないので気の合う知人くらいにしておいてくれませんか?」

「ははは。ではそのように門番に伝えておこう。」

気のいい老紳士は帽子を取ってお辞儀する。

私とトールは立派な馬車に乗って屋敷を後にした。



ナギのことがばれたが、大事にはならないだろうと思った3日後。

「なんだか最近、女の子が覗きに来るんだよね。」

「ストーカー?」

お昼ご飯をニシキと食べていたのだが、妙な話に首をかしげる。

「すとーかーって何?」

「なんか後を付けられたり家を除かれるやつ。」

「じゃあそれだ。そのすとーかーが毎日荷台のカーテンを開けて喋りかけて来るんだよねぇ。」

ナギは右半分は色気のある美男なので、ストーカーされてもおかしくはないのか?

娼館出身だし。

「ちなみにどんな感じで話しかけられるの?」

「可哀そう。助けてあげる。きょてん?に行きましょうって。」

「あー分かった。ちょっとクレーム入れてくる。」

私の頭に顔が可愛い腐れ縁の幼馴染が浮かぶ。

「そうなの?面倒だったら魔法で黙らせて……」

「それは私が衛兵に捕まるからやめて。」

ちょっと残念そうな顔でこちらを見ないでほしい。

この人魚、意外と血の気が多い。

「ちなみに拠点に行ってみたいとかある?あそこなら確かにうろこがあっても大丈夫だよ。」

「どんなところかは分からないけど、ここの方がいいなぁ。」

「いや、永住するわけじゃなくて、見学みたいな気分で。」

ずっと同じ場所にいるより気分転換になるだろう。

私もやっぱりちょっと見てみたい気もするし。

「それは、素敵だね。」

ナギは少し目を見開くと、とろけるような笑顔になった。

現状にそこまで不満はなさそうだが、やっぱり外には出たいんだな。


「こんにちは、人魚さん。」

「こんにちは、ライラ。人の馬車を勝手にのぞくのはどうかと思うよ。」

私はカーテンから顔をのぞかせたライラに笑顔を向けた。

「ミア?どうしてここに?」

「どうしたも何も私の馬車なんだけど。」

「それはそうだけど……。」

さすがのライラも気まずそうに視線を落とす。

「ねぇ、拠点に連れて行ってよ。ナギが見学したいって。」

「まぁ。ついに分かってくれたのね。もちろんよ。」

ライラはぱっと顔を上げると満面の笑みになっていた。

「じゃあ、御者連れてきてくれる?この馬車ごと移動しないといけないから。」

「分かったわ。すぐ連れてくる。」


しばらくすると彼女はカインを連れて戻ってきた。

カインは特殊な荷馬車の様子に驚いた顔をしている。

「御者台は普通だから、普通に動かせるはず。」

「……はい。」

私の言葉に御者台を確認して、カインは頷いた。

ライラは御者の後ろに座らせて、私とカインはベッドの淵に腰かける。

「それにしても素敵な馬車よね。初めて中を見たときはびっくりしたわ。」

「私に断りを入れてから見てくれない?」

「ごめんなさい。でも私とミアの仲じゃない。」

「都合のいい時だけ異常に仲いいみたいになる……」

私がため息をつくと、ナギが励ますように頭を撫でた。


馬車はそこそこ大きな屋敷の前で止まる。

「結構いいところなんだね。」

「そうでしょう、そうでしょう?」

ライラが得意げに言った。

「で?魔族はどこに住んでるの?」

「こっちよ。」

大きなホールを抜ける途中で人とすれ違う。

「ヒッ。ど、どうしたのライラ。そのお二人はどちら様?」

どうやらご婦人はうろこが苦手だったようだ。

生理的に苦手な人はいると思うので仕方ない。

ナギはご婦人の様子に少し傷ついたように笑った。

「私の友人たちです。拠点が見たいというから案内しようと思って。」

「あら、そうだったのね。ちなみに、同志なのかしら?」

「いいえ。残念ながら。けれどこの人魚さんが事情があって外に出られないから、拠点での生活が合っているんじゃないかって。」

「そ、そうなのね。まぁ、今日は見学ということで、首輪を外すかは一度会議をしてから決めないといけないわ。」

「もちろん。急に人が増えたら大変ですからね。」

ライラはそう言って、笑顔でご婦人と別れた。


しばらく歩いて、一番端の奥の部屋でライラの足が止まる。

「さあ、どうぞ。」

そう言って、通された部屋はそこそこ広い。

魔族は15人くらいいるだろうか。

解放派は貴族が多いだけあって、珍しい種族ばかりだ。

中いた解放派の人間は、こちらを確認すると近付いてきた。

「ライラ。この方たちは?」

男性の質問にライラは先ほどのご婦人に言ったように説明する。

しばらく問答したのち、見学して良いことになった。

「わあ。綺麗なお庭だね。」

ナギは感心した様子で言った。

屋敷の大きさに合わせて庭もそこそこ広い。

「あれ?あのエント、アイザックさんの屋敷にいた人だ。」

私は庭師の恰好をした特徴的な長髪と長身の男を発見した。

「あぁ、バラ園を作ったという?」

「そう。ここは色々な花を植えているんだね。バラ園のように圧巻される感じはないけれど、これはこれでいいね。」

全然趣向が違うが、色々な庭を作れるようだ。

「主様のバラ園の絵はとても美しかったものねぇ。いつか私もこの目で見てみたい。」

「アイザックさんの庭なら多分出ても大丈夫だから今度行こう。カインに御者をやらせて。」

ナギは本当にその目で見られると思わなかったのか、私の言葉に驚いた表情を見せた。

「ちょっと二人とも、お庭ばかり見てどうするの?それに、カインを勝手にこき使わないで。」

私たちが窓のそばから動かないので、ライラがしびれを切らして声をかけてくる。

「だって、ここにはそれくらいしか興味があるものがないのだもの。」

ナギは興が冷めたように言った。

「そうなの?読書や遊戯は嫌いかしら?それに美味しいスイーツでお茶もできるわ。」

「別に嫌いではないけれど、今はいいかな。それより、カインという者はどこ?御者を頼みたいのだけど。」

ナギは美しく笑った。

その声は初めて会ったときに聞いたひどく魅惑的な声だった。

「その……カインはそこにいるわ。もう見学はいいの?」

「うん。とても素敵な発見があった。ありがとう。」

「それはその、良かったわ。」

「ふふ。」

「あの……カイン。彼をバラ園まで連れて行ってくれるかしら?」

なんだかナギは急に色気を増した気がする。

仕草やしゃべり方のせいだろうか。

あのライラが自分の我を通さずタジタジになっているのを見て、私はなんだかいけないものを見ている気分になった。

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