お茶会
「カインはいつも解放派の拠点にいるんだよね?拠点って何かやることがあるの?」
過激思想の派閥の拠点に連れていかれるのは御免だったが、どんなところかは気になっていたのだ。
「いいえ。特にありません。ゆっくりとお茶したり読書をすることが多いです。」
カインはそう言ってほほ笑んだ。
「もう、カインったら。ミアは口調を気にするような人じゃないわ。いつものようにしゃべっていいのよ。」
ライラは不満そうに口を尖らせた。
「そうなんだ。わかったよ。」
カインは丁寧な口調を崩すと、また笑った。
「どのような本をお読みになるのですか?」
トールが興味深そうに聞いた。
「小説が多いよ。みんなが良く拠点に寄贈してくれるんだ。」
「そうですか。私にはまだまだ小説は難解で。あぁ、でもガントの冒険小説は共感する部分があります。再び訪れた故郷を見て、あぁ、こんなに綺麗だったのか、と感嘆する部分は特に。」
昔読んだ本をよくもそんなに覚えているものだ。
ペラペラしゃべるトールに感心してしまう。
「まぁ、有名な本ね。私は読んでいないけど、カインはどう?」
「僕も読んだよ。確かにあれは名場面だよね。」
カインがそう言うと、トールは軽くほほ笑んだ。
私は美しいクリームのケーキを一口食べる。
食べてみると思ったより淡白な感じで、あまり美味しくなかった。
「トールはどんな風に過ごしているの?ミアは急いで冒険者ランクを上げたようだけど、ちゃんと休めているのかしら。」
それは私も気になる、と思ってトールを見る。
「そうですね。朝起きたら、朝食と昼食用のランチボックスを作って、朝食後はミア様のお支度を手伝い、そのあとは冒険者ギルドで夜まで仕事をしています。睡眠時間はしっかり確保しているのでしっかり休めています。」
「ほぼ仕事じゃない。」
ライラは睡眠時間以外は働いているというスケジュールに驚愕している。
私は思った通りのスケジュールで呆れてしまった。
本当に仕事が好きだな。
「いえ。料理は趣味なので、休憩のようなものです。それに食事はしっかり座ってとっています。」
彼は幸せそうにほほ笑んだ。
「そんなの全然足りないわ。ねぇ、ミア。もっと休ませてあげることはできないの?」
「え?うーん……たまには散歩でもするとか?読書でも昼寝でもいいけど。それか絵を描いてみるとか。」
もっと休めと言っても、じゃあ料理作りますね、とか言われそうだったので、仕事っぽくないことを提案をしてみた。
「ミア様が望むならいくらでも。」
なんかその答えだと私も一緒に散歩やら読書やらをする感じじゃないか?
私と一緒にいると結局仕事のようなものでは?
そう思ったが、ライラは納得したようにうなずいていた。
「ライラは?最近の1日のスケジュールは?」
活動家の1日はどんな感じなんだろう。
「そうね。広場で人々に呼びかけたり、拠点に行って今後の方針を議論したり、招待されたお家に行ってご飯を食べたりって感じね。」
思ったよりやることがありそうだ。
社交的でなければ大変そうである。
「ご飯はどうしてるの?そもそもお金稼げるの?」
「もちろん。活動すればお金がもらえるわ。ご飯は拠点のみんなで協力して作るの。」
私なら絶対嫌だと思った。
「外に出るときはいつもカインの首輪を付けてるの?ここはアイザックさんのお屋敷だから外してもよさそうだけど。」
私はずっと気になっていたことを聞く。
アイザックさんの屋敷にいる魔族はみな首輪を付けているのだ。
「実は解放派には2種類の人がいるの。首輪を付けていても魔族は平等だという人と、平等なのだから首輪を外そうという人。穏健派と強硬派というのだけれど、アイザックさんは穏健派の筆頭なのよ。」
あんな小さい派閥が、さらに二つに分かれているとは。
それにしてもアイザックさんがまともに感じたのは、穏健派だからか。
穏健派の思想は、受け入れられなくもない。
平等という言葉にはちょっと引っかかるが。
「穏健派と強硬派は仲悪くならないの?」
「とても悪いわ。でも私は仲良くすべきだと思うの。みんなが手を取り合わなければ、この問題は解決しないわ。」
マリアの張りきった様子に、相変わらずだな、と苦笑する。
バラの形のチョコレートを食むと見た通りの味だった。
「ミアは相変わらず絵を描いているの?」
「うん。見る?」
私はそう言って、椅子の後ろに置いていたスケッチブックをライラに渡す。
彼女はカインにも見えるようにパラパラと紙をめくっていく。
「わぁ、素敵な絵。これはシャンレンかしら?」
「そう。とても綺麗な街だったよ。特に夜は格別だったなぁ。」
「……すごいな。あなたの目にはこのように映っているのですね。」
カインがそう言った瞬間、トールがカインの脛を軽く蹴った。
「申し訳ございません。すこし足を動かしただけのつもりだったのですが……。」
トールが申し訳なさそうに謝罪する。
「大丈夫。全然痛くなかったよ。」
カインはそう言って笑った。
「ねぇ、この魔族は何?綺麗ねぇ。」
ライラは特に気にした様子もなく、絵を見ている。
「やぁ。我が家のバラ園はお気にめしたかな?」
声のした方を向くと、アイザックさんが忙しい合間を縫って様子を見に来てくれたようだ。
コートと帽子を纏い、ステッキを持つさまはまさに思い描く貴族の紳士そのものだった。
「はい。とても素敵です。」
ライラは元気よく返事した。
「今日はお招きいただきありがとうございます。素晴らしいバラ園ですね。」
作法はよくわからないが、とりあえず立ってお礼を言っておいた。
トールもいつの間にか背後に立って、お辞儀している。
「気に入っていただけたようでなによりだ。このご老人も喜ぶだろう。」
そう言ってアイザックさんの横には、屋敷の入口から庭まで案内してくれたエントがいた。
「ああ。」
エントがあまり表情を変えることなく頷くと、近くのバラのつぼみがいくつか咲いた。
喜ぶと咲くのだろうか。それともパフォーマンスだろうか。
「それにしても珍しい絵だ。人魚かね。それもうろこ付き。」
アイザックさんはライラの手元を覗き込む。
そこにはナギのスケッチが描かれている。
「どこで見たんだい?うろこ付きの人魚など。」
「シャンレンの裏路地で。」
「ほお。きっとボロボロだっただろう。」
アイザックさんは憐れみを覚えたような顔をした。
「どういうことですか?」
ライラが質問する。
「うろこ付きの魔族は嫌われる。普通は処分されるが、人魚ともなれば死ぬこともできず苦しみ続けるだろう。彼はシャンレンのどこにいるのかね?うちの屋敷に連れ帰ろう。」
まずい。私は退路を断たれたことに気付き、何とかごまかせないか頭を働かせたが、無理だと悟る。
下手にごまかしても、彼がナギのいた娼館に行って事情を聴いたら結局ばれるだろう。
「いえ、あの。私の馬車の中にいます。」
私は観念して正直に話した。




