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国一番のバラ園

3日後、宿屋の前に立派な馬車が停まっている。

赤をベースに金の飾りのついた馬車の表面は傷一つ見つけられない。

御者に案内され、トールと客車に向かい合わせで座る。

「トールと馬車で向かい合わせに座ってるの新鮮かも。」

「そうですね。座り心地の良い座面ですが、どのような素材を用いているのでしょうか。」

そんなことを話している間も、馬車はぐんぐん進む。

整然と並ぶ荘厳な建物の間を抜けていくのは良い気分だった。


アイザックさんの屋敷は街全体を見下ろせるような小高い丘の上にあった。

立地から考えると、街で一二を争う大物貴族とうかがえる。

長い前庭を越えて、馬車が停車した。

「お手をどうぞ、ミア様。」

「ありがとう。」

トールに手を取られて馬車を降りる。

「ミア。」

先に到着していたライラが声をかけてきた。

背後の彼女の魔族を見ると今日は首輪をしているようだ。

「ああ、ライラ。こんにちは。」

「えぇ、こんにちは。ミアってばとっても素敵。お嬢様みたいよ。」

褒められて悪い気はしない。

さすがにいつもの服では失礼かと思って、小綺麗なワンピースを買ったのだ。

「ライラは今日も可愛いよ。」

これはお世辞ではなく事実だ。

彼女は黙っていれば可憐な印象を受ける可愛らしい女の子だった。

「もう。ミアったら。」

これは数少ないライラに対する本気の言葉なのだが、彼女はいつも冗談とばかりに受け流す。


「案内しよう。」

そう言って現れたのは人間だったら初老くらいに見えるエントだった。

成人男性の2倍ほどある背丈だが、腰が曲がっている。

足元に着くほどの深緑の長い髪は全体的に痛んでいて、毛先の方に向かって茶色くなっている。

庭師のような恰好をしているので、バラ園の手入れをしている人なのかもしれない。

「アイザックは多忙のため挨拶できないが、気にせず楽しんでくれとのことだ。」

エントはそう言って屋敷の裏へ私たちを案内する。

「わぁ。すごい。」

眼下に広がるバラ園に私は思わず感嘆の息を漏らした。

赤、白、黄色のバラが一面中に咲き誇っている。

雲一つない青い空と葉のつややかな緑。

色であふれたその庭は、国一番と言ってもおかしくなかった。


バラのアーチを抜けると、ティーテーブルの上に高級そうなお菓子が用意されている。

エントは私たちを案内すると「楽しむといい」と言ってどこかへ行ってしまった。

椅子は4脚あって、私とライラ、そして魔族たちが座る。


「まずは自己紹介ね。教会のときはバタバタしてて、名前を聞きそびれてしまったもの。じゃあ、私から、ライラよ。ミアの孤児院からのお友達。仲良くしてね。」

ライラはそう言ってトールに微笑んだ。

「えーっと、私はミア。」

空気を読んで2番手に躍り出たのに、ライラが「それだけなの?」という様子で不満そうに見ている。

「本日はお招きいただきありがとうございます。トールと申します。」

トールは座りながら軽くお辞儀をした。

「カインです。よろしくお願いします。」

ライラの獣人もペコリと頭を下げた。

最初会ったときはそっくりだと思っていたが、今見るとトールとカインは全然違うように見える。

顔立ちも、雰囲気も、そして毛質も。

もちろん、トールは毎日尻尾を整えているのでトールはの方がさらさらのふわふわである。

「ライラ様は紅茶でしょうか?」

トールが立ちあがって給仕しようとすると、ライラが止めた。

「ああ。いいわ。私がお招きしたのだから私にやらせて。」

そう言ってポットから3人分の紅茶を入れる。

「私は水で。」

そう言ってトールを見ると、彼は魔法で水を出してコップを満たしてくれた。

「では、私たちの再会に。」

ライラが茶器を持って軽く掲げる。

こんな豪華なティーセットで下町の習慣をする彼女に笑いつつ、私もコップを軽く掲げた。

「命を授けし大地よ、この糧を受ける我らに、再び歩む力を与えてください。」

食べる前にお祈りする私たちを見て、ライラは目を丸くする。

「ミア、まだお祈りをしているのね。」

彼女も昔、先生や私を真似してやっていたが、そのうち飽きてやらなくなった。

「なんか習慣になっちゃって、やらないと気持ち悪いんだよね。」

「そうなのね。私が寝る前に日記を書かないとそわそわしてしまう感じかしら。」

「多分そう。」

トールは私が好みそうなお菓子を選ぶとさらに取り分けてくれた。

皿の端に乗っている小さなサンドイッチはお菓子以外も食べなさいというサインだ。

身体強化のために日頃から栄養について考えているトールからすると、今日の昼食のバランスはかなり悪いだろう。

「今日は彼の分はミアがとってあげれば?」

ライラが言った。

見れば、彼女は自分で料理を取り分けている。

「えー。まぁいいけど。」

料理を取り分けたことなんてないので上手くできるかわからないが、やれというならやる。

「そんな。ミア様のお手を煩わせる必要はございませんよ。」

トールは恐縮して辞退した。

「トール、あなたばかり働いていたらだめよ。ほら、ミア。」

ライラに促されて立ち上がる。

まあ、サンドイッチは取るとして、後は何が食べたいんだろう。

トールは私より食事を大切にしているが、どれが好きというものはない気がする。

しかし、高級なスイーツというのはこんなにも可愛らしく美しいのか。

あのホイップの装飾なんてまるで芸術品のよう……。

「ミア様。どちらのスイーツに見惚れていたんですか?」

トールに声をかけられて我に返る。

「あぁ、あのホイップのケーキと、バラの形のチョコレートと……。」

私が言ったものを手早く取り分けるとトールは言った。

「選んでくださってありがとうございます。さぁ、ご飯を食べましょうね。ミア様。」

トールに椅子を引かれて座る。

「ミア、あなたってば……。」

ライラは私のあまりのポンコツ具合に絶句した。

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