成人の日
今日は成人の日。
大聖堂の中には私を含めて3人の孤児と、3人の見知らぬ魔族、そして先生しかいない。
「さあ、好きな魔族を選んでください。」
孤児院の院長である先生はそう言って私たちに自分の魔族を選ぶように促した。
人と分類されるものの中には人間と魔族がある。
魔族には獣人、エルフ、ドワーフなど様々な種族がいて、皆一様に魔力という不思議な力を持つ。
この国の人間は15歳の成人を迎えると魔族を所有することが認められる。
人間が魔族を使役するこの世界で、魔族を所有するということは仕事を始めることと同義だ。
魔族を使役して労働させて、対価を得る。
それが人間の仕事だった。
孤児である私たちも、成人すれば同様に魔族を所有する権利が与えられる。
しかも、ありがたいことに最初に所有する魔族は国からタダで支給される。
魔力も能力も低めの安い魔族には違いないが、魔族さえいれば小銭を稼いで生きていくことはできる。
この世界は人間に生まれただけでイージーゲームだ。
「俺はこいつにする。」
同い年の孤児であるジャックがそう言って狼の獣人を選んだ。
獣人は魔力の少ない種族だが、狼の獣人なら生まれつきかなりの身体能力だろう。
獣のような耳と尻尾が特徴の種族だ。
選ばれた狼の獣人は特に感情を表すことなくジャックを見ていた。
「では、契約を行います。彼の首輪に触れてください。」
先生に言われて、ジャックは獣人の首輪に手を添える。
するとただの銀色の金属の首輪に、見る見るうちに紋様が現れる。
ツタが絡まったような複雑な紋様は全体に広がるとやがて止まった。
「契約が完了しました。」
「おう。」
ジャックは首輪から手を放すと、不思議そうに手を握ったり開いたりした。
「痛かった?というか血は?」
思わず彼に質問する。
魔族との契約には首輪に血を吸わせなければならないと聞いていたのだが、血が流れる様子もないのが不思議だったのだ。
「トゲを触ったときみたいにちょっとちくっとしたけど、大丈夫。」
ジャックはそう言って私に人差し指を見せてきた。
そこには何の傷もない。
首輪は魔法によって作られたものなので、魔法的な力が働いているのかもしれない。
「さあ、お二人はどちらの魔族がよろしいですか?」
先生が穏やかに聞いてくる。
エルフである先生も当然魔族なのだが、その瞳は凪いでいた。
「私はどっちでもいいけど、ライラは?」
もう一人の同い年の孤児であるライラに聞く。
彼女は悲しそうな表情を浮かべて言った。
「魔族は物じゃない。私たち人間と同じなのよ。どちらかを選ぶなんてことしたくない。」
彼女は魔族解放派の人間だった。
魔族解放派とは、魔族と人間は平等であるという思想、もしくはその思想を持つ人のことで、解放派とも言われる。
魔族を奴隷として所有し、使役するこの国では解放派はかなり珍しい。
しかし、全くいないというわけではなく、主に生活に余裕のある貴族を中心に昔からある考え方だった。
「ええと。じゃあどうしようかな。」
ライラにまったく選ぶ気がないことが分かった私は、手元の資料と、目の前の魔族を見比べる。
一人は犬の獣人。
魔力は少ない。身体能力は普通。
以前に仕えていた人も孤児だったようだ。
お金を貯めて新しい魔族を買った後、手放したのだろうか?
そしてもう一人も犬の獣人。
魔力は少ない。身体能力は普通。
以前に仕えていたのは冒険者。
孤児の大抵が冒険者になることを考えると、経歴までほとんど一緒だ。
あまりに選びどころに欠ける。
獣人は一番ありふれた種族だ。
その中でもさらに犬や猫などの種類に分かれるのだが、彼らは同じ犬の獣人だった。
同じ種族なので、大まかな特徴は一緒だ。
茶色い髪に茶色い目。とがった耳とふさふさの尻尾。
魔族はなぜか美形が多いので、どちらも整った顔立ちをしている。
強いて言えば左の獣人は背がとても高い。そしてたれ目だ。
けれど右の獣人は目立った特徴はなく、すべて理想的に整えられた作り物のような印象を受ける。
「どーちーらーにーしーよーうーかーな。」
私は選ぶことをあきらめ、運に任せることにした。
ジャックが呆れたように見ている。
先生がおかしそうに笑った。
「先生。こっちにする。」
私に指をさされたたれ目の方の獣人は、慣れた様子で微笑した。
「ええ。どうぞ、首輪に触れてください。」
先生に言われて彼の首輪に右手を添える。
一瞬指先にちくりとした感覚があった。
ジャックのときと同じように、首輪に紋様が現れる。
「はい。できましたよ。」
先生にそう言われて手を放す。
何の実感もわかないが、これでもう契約が終わったようだ。
みんなの視線がライラに集まる。
「私はしないわ。」
往生際の悪い彼女は、まだ契約することを拒んでいるらしい。
ここにも先生が無理やり魔法で連れてきた。
逃げなかったのは、逃げてもすぐに先生に連れ戻されるからに過ぎない。
「お前、まだそんなこと言ってるのかよ?働かない気か?一生ここに住むわけにもいかないし、どうするんだよ?」
ジャックが心底あきれた様子で言った。
「私が働けばいいのよ。人間が働かないで魔族に働かせて生活しようなんて考えがおかしいの。」
「どこで働くって言うんだよ。魔族も連れずにギルドに行って仕事くださいなんて言ったって、お前にできる仕事なんかないだろ?」
彼の言うことはもっともだ。
仕事を斡旋しているギルドには、そもそも魔族が働くことを前提にした依頼しかない。
魔族を持たないということは仕事ができないということと同義だった。
「そんな世の中が間違っているのよ。私がここで折れたら、この世界は変わらないまま。一生、魔族は奴隷として使役されるのよ。そんなのひど過ぎるわ。」
ライラは悲しそうに言う。
「そうかよ。じゃあ勝手にしろ。」
考えを変える気がないライラにジャックはそう言い捨てた。
「ミア。」
困り顔の先生に名前を呼ばれて、私は渋々ライラを説得することにする。
彼女が魔族と契約をしないと一番困るのは先生で、頑固者の彼女を説得するのが一番うまいのはなぜか私だった。
「ライラ。この人は、ライラが契約しなくても、結局別の人間と契約することになると思う。だったら、ライラが契約して、首輪はあるけれど一緒に過ごしてあげた方が彼にとって幸せなんじゃない?」
実際、彼女と契約した方が他の誰と契約するより幸せに暮らせるだろう。
彼女は魔族を友達だと思っている。
奴隷としてこき使われるよりよっぽど良い暮らしができそうだ。
「ミア。あなたの視野の広さにはいつも感銘を受けるわ。そうね。本当は首輪で縛りたくなんかないけど、私と一緒に来てくれる?決して酷いことはしないと約束するわ。」
ライラはそう言って、残っていた獣人を見た。
獣人は空気を読んだのか
「はい。」
とうなずいた。




