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山賊とモブコスプレなおじさん


 支給品の装備をもらいにゲート前へと向かう。

 ゲートの神秘的な雰囲気は影を潜めて、受験者たちのざわめきで騒がしい。


 広場の片隅には、ワゴンのような棚がいくつか並び、剣や槍、盾といった支給品の装備が雑多に置かれている。

 先に来ていた高校生達を見ると、剣や槍を握りしめ、目をキラキラさせて騒いでいる。

 中には刃物を振り回しながら「うおー!」とか叫んでる子もいて、危なっかしいことこの上ない。

「気持ちはわかるよ」と心のなかで呟きつつ、40歳のおじさんとしては冷や汗ものだ。


 若者のテンション爆上がりな様子を見て苦笑しつつ、俺ももう少し若かったらあんな感じかな、と思う。

 でも、ぶっちゃけ怖え。

 いや、マジで怖えよ、あの勢いのままダンジョンに突っ込んでいきそうな若者のエネルギーってのは眩しいけど恐ろしい。



「俺は……無難に杖でいいか」


 装備棚の隅、まるで誰かに忘れられた傘みたいにポツンと立ってる木の棒が目に入る。

 長さは2メートルくらい、重さは2キロ弱。

 片方の先端は丸くなっていて、棒の先っちょにカタツムリが付いているみたいだ。


「ドラゴンをクエストするゲームの5作目主人公が持ってるやつみたいだな」


 手に取ると、表面のザラザラした表面が掌にしっくり馴染む。

 軽く振ってみると、意外とバランスいいな、これ。


「うん、他の武器より敵との間合いを保てそう。いい感じだな」


 魔物と距離を取れれば、ビビってパニックっても逃げる時間くらい稼げるはずだ。

 それに、剣や槍みたいな刃物は、素人が振り回すとガチで危ない。

「切る」「刺す」はダメージ入るかもしれないけど、正確に当てなきゃ意味ないし、下手すりゃ自分や仲間をブッ刺して大惨事だ。


 その点、杖なら「突く」「叩く」は直感的で楽ちんだし、両手で握れば安定する。

 俺みたいなガリガリおっさんでも、体重乗せればそこそこの威力が期待出来る……はず。


 防御でも、棒を構えて突進を止めたり、攻撃を弾いたりできそう――って、怖いからやらないと思うけど。


「問題はこれ、ただの木の棒なんだよなぁ……」


「ドラクエの初期武器かよ」と自嘲気味にぼやく。

 もし初戦でバッキリ折れたら、それはそれで赤木くんの配信のネタになるか。



「お、なんだまっさん、杖にしたのか。渋いな」


 赤木くんがDDを浮かべながらニヤッと笑って近づいてくる。

 ジャージの裾がバサバサ揺れて、なんか楽しそうなオーラ全開だ。


「あぁ、攻撃力は期待薄だけど、敵と距離取るならこれがベストかなって」


 試しに、杖の先で赤木くんのお腹をブスブス軽く突いてみる。

 ぽよっとした見た目とは裏腹に、意外と硬い。ムニムニすると思ったけど、しっかりした感触。


「見た目ぼってりなのに、めっちゃ硬いな。赤木くん、普段筋トレでもしてんの? 体ゴツいし」

「あー、リングフィットの効果じゃね? いまだに続けてるし俺。つーか、これ見てくれよ、まっさん!」


「じゃーん!」とジャージをめくり上げ、登場したのはボロッボロの革鎧。

 ファンタジー感溢れる、簡素な胴当てだ。

 茶色い革は擦り切れて、中古ショップのワゴンセールでも見向きもされなさそう。


「おぉ、ファンタジー感すげぇ……いや、めっちゃボロいな! 君、そんな装備で大丈夫か?」

「ふっ、大丈夫だ、問題ない」


 そうか、大丈夫なのか。

 昔やったゲームにあった「一番いいのを頼む」って言ってた男を思い出す。

 あのゲーム、当時ネタ動画で話題になったな。あのノリだな、赤木くん。


「一番いいのじゃなくていいの?」

「いや、てかこれが一番いいのなんだわ」

「え、そんなボロいのに? ギルドって儲かってんじゃないの?」

「なんかデカいサイズは数が少ないんだってよ」


 なるほど、赤木くんのゴツい体に合う装備がこれしかないってわけか。

 支給品で貸し出すなら、これ以上の装備は期待できないかね。

 金属鎧とかになったら、40歳のおっさんは重さで着ただけで死にそう。


「革でも重くね?」

「最初は重そうだなって思ったけど、着てみたら案外いけたわ」

「へぇ。まぁ、君、無駄に筋肉あるもんな」

「無駄って言うなよ、無駄って!」


「無駄な筋肉なんてないんだぞ、筋肉は裏切らないし」ってムッとしてブツブツ言ってる赤木くんの顔が、なんかガチっぽくて笑える。


 俺も革鎧試してみるか、と防具棚へ足を向けるけど、手に取った瞬間、ずっしりした重さに「あ、無理」って心が折れる。

 頑張れば着れなくもないけど、これで動いたら速攻バテるな。

 はい、却下で。


 代わりに目についたのは「基本装備セット」と書かれた棚にある装備品だ。

 ギルドが「基本」って言うなら間違いないだろ、と手に取ってみる。


 ジャージを脱いで、ラクダ色の革チュニックを着てみる。

 長袖で胸から腰までカバーする、ファンタジーらしいよく見るデザインだ。


 ゴワゴワした感触はちょっと値の張る高い合羽のようで、動きを大きく阻害することもない。

 胸元には薄い樹脂プレートが縫い付けてあって、「心臓くらいは守るぜ」って感じの気遣いが地味にありがたい。


 続いて、樹脂製のアームガードとレッグガードを装着。

 セットにはヘルメットと盾もあったけど、動きづらそうなんでパスしておく。


「まっさん、準備できたか?」

「ん? あ、あぁ、できたよ」


 赤木くんと向き合い、お互いの姿を上から下まで観察し合う。


「山賊」

「モブ」


 赤木くんは、頭には意味不明な角のついた額当て、ジャージの下にボロ革鎧。

 両腕に小手、両足に脛当て、左手にはゴツい盾、右手にはもっとゴツいメイス。


 肩にメイスをトントン当てながらニヤつく姿は、誰がどう見ても山賊だ。


「君、でかくてゴツいから、マジで山賊にしか見えねえよ」

「まっさんはモブだな。中世舞台のゲームの農民Aって感じ」


 チュニック姿の俺は、どう頑張ってもそう見えるよね。

 身体も貧相だし。


「まっさん、軽装すぎね? 盾も持たねえの?」

「盾って、小手と同じ素材だし、防御は腕でいいかなって。てか、ガチャガチャ装備して動けなくなる方が嫌だわ」

「なるほどな、方向性の違いか。ゲームでもそうだったよな。俺はガチガチ防御ビルドだったけど、まっさんは高機動紙装甲って感じだったし」

「『当たらなければどうということはない』ってやつだよ」


 二人がハマってた「身体は闘争を求める」系のアクションゲームでも、俺は高機動紙装甲ビルドだった。


 問題は、プレイヤースキルがゴミすぎて、被弾しまくり即死しまくりだったことだけど。


「でもさ、俺ら、ろくに運動してねえぞ? 動けるか、まっさん? ゲームみたいに即落ちとかやめろよ?」

「それな! つーか、動けないよ、どっちにしろ。だったらすぐ逃げられる軽装一択かな。いざって時は守ってくれ、マジで」

「えぇ……まぁ、体格的にタンク役は俺だろうしなぁ」


「俺だって怖えんだからな?」とブツブツ言いながら、赤木くんが盾を構える練習。

 なんか、妙に様になってる。


「武器、メイスにしたんだ? てか、異常に似合ってんね、それ」

「とりあえず手っ取り早く攻撃するならこれかなって。振り回すだけでいいから楽だろ?」

「それな。鈍器最強説。盾でパリィしてメイス一撃、期待してるよ」

「ふ、任せろ。パリィならゲームで嫌ってほどやったからな、タイミングは体が覚えているぜ!」


 盾を振り回して「ドゥーン」とか言いながら遊んでるおっさんが、ちょっとかわいい。

 見た目山賊だけど。


 俺も装備を整え、軽く動いてみる。

 杖のザラついた感触、チュニックのゴワゴワ感、樹脂ガードの軽い締め付け。

 武器と防具が「いよいよだ」って実感をグイグイ煽ってくる。


「まっさん、そろそろ配信していいか?」


 赤木くんがDDを抱えて声をかけてくる。


「はぁ、しょうがないからいいけど……。チャンネル名とか決めてるの?」

「前にゲーム配信やってたアカウント、そのまま使おうかなって」

「あぁ、懐かしいねぇ。いいんじゃない?」


 赤木くんのゲーム配信は登録者が100人くらいのこぢんまりしたチャンネルだった。

 常連さんと雑談しながら楽しくやってた記憶がある。

 俺も協力プレイが出来るゲームで、声だけ出たこともあった。


「とりあえず枠だけ作っとくかな」

「常連さんみんな元気かね? いい人たちだったよね」


「二人ともー、準備終わったらこっち来てねー?」


 美怜ちゃんがゲート前で呼んでいる。

 少し無駄話が過ぎたみたいだ。

 周りを見ると、他にいた受験者達はゲート前に集合していて、鈴原さんと相田さんに連れられダンジョンへ入ってくところだった。


「行こう赤木くん。美怜ちゃんが待ってる」

「おぅ、いよいよだなまっさん!」


 赤木くんがDDの設定をし終わるのを待って、俺達も急いでゲート近くに立っている美怜ちゃんのところへ向かう。


「おーい美怜、準備出来たぞ!」

「ごめんね、待たせちゃったね」

「もう、二人とも遅――プッ! あはは、二人ともコスプレ感すごっ! しかも叔父さん似合いすぎだし、あはは」


 美怜ちゃんは俺達を見るなり小さく噴き出し、お腹を抱えてケラケラ笑う。

 緊張からの真面目モードだっただけに、いきなり笑われて面食らう。

 この子意外と笑い上戸なのか、よく笑うなぁ。


「最初に殺られるモブっぽい」「序盤に主人公に殺られる山賊の頭領」とか好き放題言ってるけど、二人とも殺られる前提なのではなんで?


「おい笑いすぎだろ! 俺はともかく、まっさんは一生懸命考えた結果なんだぞ! もう40なんだぞ!? 笑ってやんなよ!」

「え、笑われてるの俺なの? 頭領ボスがメインで笑われてるんでしょ?」

「おい、頭領と書いてボスと読むなよ! 誰が山賊のお頭だ! あんまりナメてると攫って奴隷にすんぞ!」

「あはははは、やばい、ハゲ山の山賊に襲われる、あははは」

「ハゲてねぇよ!」

頭領ボス、そろそろ遊んでねぇで行くでやんすよ? 早くしないと追っ手に捕まっちまうでやんす」

「あははは、まーくんさん、下っ端っぽい! 似合う! ウケる! あははは」


 一通り山賊ごっこをした後に、美怜ちゃんが優ふっと優しい顔をこちらに向ける。


「まーくんさん、まだ緊張してます?」

「ん、もう大丈夫だよ。今はワクワクの方が強いかな」

「まっさん、最初死にそうな顔してたもんな。死因、緊張って感じだ」

「はは、そんなにだった?」


 そんな酷い顔してたのか。

 心のなかで小さく呟く。

 まぁ、色々と考えることが多いんだから、しょうがない。

 俺はこういう性格だから、うじうじ悩んじゃうんだ。

 でも、赤木くんと美怜ちゃんが背中を押してくれたこと、りっちゃんと綾ちゃんの笑顔が俺を支えてくれている。


「二人ともありがとね。なんだかんだ色々と励ましてくれて」

「気にすんなまっさん。俺達はパーティーの仲間なんだからな!」

「叔父さんは自分のことを気にしたほうが良いと思う」

「ふっ、借金返済の目途が立ったからな、問題ない!」


 二人のやり取りを見て、自然と笑顔が溢れる。


「じゃあ行こうか、赤木くん!」

「あぁ、夢の続き、だな! まっさん!」

「頑張ってね、二人とも」


 赤木くんは盾を構えて、メイスを軽く振る。

 俺も杖を両手で握り、チュニックの裾を軽く引っ張って気合を入れる。

 美怜ちゃんがタブレットをポーチににしまい、軽い足取りで歩き出す。


 ダンジョン。

 4年前の夢の続き。


「よし、やるか」


 りっちゃん、綾ちゃん。

 パパ、頑張るよ。

 応援しててくれ。


「あ、待ってまっさん! 配信入れ忘れた!」

「えぇ……君さぁ……」

「空気読んでよ、叔父さん……」


 赤木くん、ほんと締まらないなぁ。




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