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若い子の顔なんて覚えてないおじさん

 女の子がゲート前へと近づき、美怜ちゃんがタブレットを確認していると不意に女の子が声を上げる。


「あ、あの!?」

「えっと、どうしたの?」

「あ、あの、配信してもいいですか?」

「配信? あー、はい、いいですよ。ただし、私とあそこのおじさん達は映さないようにお願いね。まーくんさんもいいですか?」

「うん? あー、俺は構わないよ」

「あ、ありがとうございます。大丈夫です、私のカメラは最新のDDですから!」

「うん? あっ!」


 美怜ちゃんと女の子のやり取りを聞いてた赤木くんは興奮した様子でスマホをいじり始めた。


「赤木くん、おもむろにスマホいじり倒してどうした?」

「まっさん、聞いてくれよ! 彼女、どっかで見たことあるなって思ってたんだよ」

「彼女ってあの子? 普通の高校生でしょ? え、何? 有名人か何かなの?」

「有名人なんてもんじゃないよ! 彼女、『美人JD探索者カースちゃん』の妹ちゃんだよ! ちょっと前に、『カースちゃん』の配信に少しだけ映り込んで可愛いってバズったんだ! いやぁ、なんでこんなとこにいるんだろっ!」


 赤木くんがまた興奮して汗を流し、大口を開けて頼んでもいないのに彼女について教えてくれた。


「いや、誰だよ。そもそも『カスちゃん』て誰だよ、初めて聞くぞそんな名前」

「はぁっ!? さっき教えただろうがっ! カスじゃねぇよカースだよ! ボケたんか君!」

「君のクソどうでもいい話なんて覚えてるわけないだろ! それよりも距離が近い、離れてよ。臭いきついんだから」

「おいそれ、さっきから地味に傷付くからやめろよマジで!」

「ちょっと叔父さん、うるさい。黙っててくれる? 配信に声が入るって進まないんだけど」


 美怜ちゃんがどすの利いた低音ボイスで赤木くんを一喝する。

 赤木くんはもはや美怜ちゃんには逆らえないのか、「はい、すみません」と大人しく従う。


「……くそ、なんで俺だけ怒られるんだ。まっさんだけずるいぞ!」

「だから近寄ってくんなよ。大体、君の日ごろの行いが悪いせいだろ? 自業自得だ自業自得」

「俺が何したってんだよ? そんなに責められることしたかよ」

「それが分からない時点で君は駄目なんだよ。いいから大人しくしてなよ、妹ちゃんの配信でしょ? 見なくて良いの?」

「あ、そうだった! すげぇ、生配信だ!」

「だからうるさいって言ってるでしょ叔父さんっ!」

「はい、すみませんっ!」

「……はぁ」


 広場の隅っこでなるべく配信に映らないようにして、赤木くんと罵りあっていたらまた怒られた。


「ところで赤木くん」

「なんだよまっさん、大人しくしてろよ。また怒られるだろ」

「怒られるのは君だけだよ、小声で話すからいいだろ。さっきあの子が言ってた『DD』てなに?」

「『DD』てのはあれだよ、『ダンジョン・ドローン』だよ」

「なにそれ?」

「簡単に言うと、ダンジョン資源を使った最新のドローンだよ」

「へぇー、それはすごい……の?」

「最新っていうと『カースちゃん』も使ってるんだけど、あれ一つで普通車買える値段はするらしいぞ」

「たっか! まじか。最近の女子高生は金持ちだなぁ」


 ダンジョン資源を使った商品はどれも高額なものが多い。

 その分、性能は従来のものとは比較にならないほど。

 赤木くんが『DD』の説明をしてるけど、超高性能なAIやカメラ搭載とか、自立して勝手に動画を撮ってくれるとか。


「かがくのちからってすげー」

「な! でも最初からあんな投資して、ダンジョンに入れなかったらどうするのかね?」

「よっぽど自信あるんでしょ。お姉さんも探索者なんだろ? 『カス』だっけ?」

「君、それわざと言ってるだろ? いい加減キレるぞ?」

「はは、ごめんごめん」


 赤木くんとどうでもいい会話をしてると、女の子の準備が終わったようで配信が始まった。

 女の子の直ぐ側には、DDと思われるドローンが浮かんでいる。


「赤木くん、あれが例の?」

「うん、『DD』だよ。やっぱり最新型だ」

「わかるの? 最新とかどうかって」

「あぁ、俺も持ってるし」

「へぇ。……は?」

「俺も持ってるから。あれと一緒のやつ」

「いや、え? 君、持ってるの?」

「うん、高かった」

「いや、なんで?」

「なんでって何が?」

「なんで無職の君が持ってんの?」

「無職が持ってちゃ悪いかよ」

「悪いってことないけど……」

「じゃあ、いいだろ。ほら、静かにしろよまっさん」

「えぇ……」


 なんで?

 その金はどこから?

 借金てまさかそれ買ったからか?


「はーい、ひかりんチャンネルのみんな、さっきぶり! 今ね、ダンジョンゲートの前で配信してるよ! どう? この景色、すごいでしょ? 私、ちょっと緊張してるけど、みんなが一緒なら頑張れるからさ、チャットで応援してね!」


 さっきまで気弱だったとは思えない、堂々とした態度で配信を始める女の子。

 ひかりんチャネル、って言ってるからひかりんという名前なのか。

 初めて配信してる人を生で見るけど、正直何がいいのかさっぱりわからない。

 隣で赤木くんが「生配信! かわいい!」とか興奮しているけど、40歳のおっさんが女子高生に興奮している姿ははっきり言って、きつい。


「赤木くん、ちょっと落ち着けよ」

「落ち着いてられるかまっさん! ひかりんがなんでこんな地方の田舎の寂れたギルドにいるのかとか、ひかりんも『カースちゃん』みたいにこれから探索者として配信するのかとか、いろいろ気になるじゃないか!」


「君、厄介オタクみたいだぞ。マジでやめろよ。そんな事より、君は自分のことを考えなさいよ。無職なんだから」

「そうだよ、叔父さん」

「うぉ!? 美怜っ!?」


 いつの間にか赤木くんの背後に美怜ちゃんがいて、能面みたいな顔で赤木くんの肩に手を置いている。


「美怜、なんだよっ、て痛い痛い痛い! 肩! 手! 痛い!」

「叔父さん……さっき、なんて言ったの? DDがどうとか言ってたよね?」

「折れる! 肩が、まっさんたすけて!」

「無理」


 ぐぎぎぎっ、と美怜ちゃんの手が置かれた場所から、人体から鳴っちゃいけない音がする。

 どうやらさっきの会話を聞かれていたらしく、美怜ちゃんは探索者らしい身体能力を持って赤木くんに詳細を聞いている。


「み、美怜! ちょ、話すからっ! 話すから離してっ!」

「あとでパパとも話そうね?」


 美怜ちゃんの腕は俺より細いのに、ゴツい赤木くんが振り払えないでいる。

 美怜ちゃんは探索者なので、きっとレベルも上げていて身体能力が一般人のそれとはかけ離れているのかもしれない。


「やった! ゲートに反応があった!」


 そんな事をしている間に、ひかりんはゲートを反応させていた。

 赤木くんを見ていたせいで、どんな反応があったか見れなかった。


「みんな、ありがとう! このあとは実際にダンジョンへ入っての実技試験だよ! そこでも配信できたらするから、またあとでね!」


 ひかりんが笑顔で手を振ると、DDがくるっと回って配信が終わる。


 美怜ちゃんが「はい、お疲れさま。待合室行っててね」と淡々と言い、ひかりんは「あ、はい。あの、ありがとうございました」と気弱な返事をして橋を渡っていく。


「まっさん、見てたか! ひかりんの反応、めっちゃ綺麗だったぞ! 水面もバーって揺れて、今日1の反応だった! やっぱり『カースちゃん』の妹だけはあるな!」


「見てねぇよ。君がうるさくて美怜ちゃんに締められてるの見るのに忙しかったんだよ」


「いや、あれはしょうがないだろ、マジで痛かったんだから!」


「それにしてもあの子、配信の時と普段の時と印象違い過ぎない?」


「それな! あのギャップも良くね!?」


「叔父さん、ほんと事案になりそうだから黙っててよ。次、まーくんさんね」


「お、おぅ。俺か……」


情けない返事をして、俺はゲートへと顔を向けた。

……やべぇ、めっちゃ緊張する。



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