第九章 小さな反抗
放課後の3年C組。
カーテンが半分閉まった教室に、カイ、リコ、ユウタ、ナオト、そしてアリアが集まっていた。
黒板の上には「作戦会議」と大きくチョークで書かれている。
「……で、なんで俺まで呼ばれたんだ?」ユウタが椅子を後ろに傾けながら言う。
「お前、成績上位だから情報持ってるだろ」カイが腕を組む。
「情報はあるけどさ、俺は別にAI評価に反対じゃないぞ?」
「知ってる。でも協力はしてほしいの」リコが机を叩く。
「これは、やさしさを守るための計画なんだから」
ナオトがおずおずと手を挙げた。
「……計画って、具体的には何するの?」
「簡単だよ」カイが笑う。
「AIが見てない隙に、みんなで“評価されないやさしい行動”を意図的にやりまくる」
「つまり?」ユウタが眉をひそめる。
「例えば、わざと落とし物をして、それを別のやつが拾うとか。ノート貸し合うとか」
「小学生のいたずらみたいだな」ユウタは笑った。
「いいじゃん、それでAIに混乱させられるなら」リコが前のめりになる。
アリアが静かに口を開いた。
「AIは映像や行動データを解析します。そのため、短時間に頻発する“やさしい行動”は不自然と判断される可能性があります」
「じゃあ、自然に見せればいいんだな?」カイが言う。
「理論上は可能です」
「お、アリアも乗り気?」リコがにやっと笑う。
「私は賛成も反対もしません。ただ、あなたたちの行動がどのような影響を与えるか、興味があります」
ナオトが不安そうに机の端をいじりながら聞く。
「でもさ、バレたらペナルティとかないの?」
「多分ある」ユウタが即答した。
「あるの!?」ナオトの声が裏返る。
「でもそれって、ちょっと面白くない?」リコが悪戯っぽく笑う。
「面白いけど……俺、胃が痛くなりそう」
カイが黒板にチョークで書き出す。
『反抗計画』
① 評価されないやさしい行動を増やす
② 自然にやる
③ バレないように分散実施
「これでいこう」カイが振り返る。
「なんか文化祭の出し物決めてるみたいだな」ユウタが笑いをこらえきれない。
「まぁ、文化祭よりスリルあるけどな」
その時、廊下から真田先生の声がした。
「おい、そこにいるのは誰だ?」
全員が一斉に顔を見合わせる。
「解散!」カイが小声で叫び、バラバラに教室を飛び出した。
最後に残ったアリアは、黒板の『反抗計画』をじっと見つめ、ひとことだけつぶやいた。
「……やさしさを数値化できない世界も、悪くないかもしれません」