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第七章 国家の揺らぎ


 その日、3年C組はいつになくざわついていた。


 朝のホームルームで、担任の真田先生が手にしていたのは、一通の電子文書だった。

 黒板の前に立った先生は、珍しく表情を引き締めている。


「お前ら、今日は大事な話がある」

 教室のざわめきが徐々に静まり、全員の視線が前に集まった。


「政府から正式な通達が来た。来年度から、高校教育にAI評価システムの導入が義務化される」

 一瞬の沈黙のあと、教室は爆発したように声が飛び交った。

「は? 義務化って何だよ」

「もう成績も進路もAIが決めるってことか?」

「人間の先生いらなくね?」

 真田先生は手を上げ、声を抑えようとした。


「落ち着け。制度の内容を説明する。AIが生徒の学習データ、生活態度、交友関係までモニタリングし、総合評価を出す。それが大学や就職の推薦に直結する」

 

リコが勢いよく立ち上がった。

「それって、やさしさとか助け合いとかは評価されないってことですか?」

「……現行の評価項目には入ってない」

「じゃあ、ナオトがこの前弁当落としたときに拾ったカイの行動は、ゼロ点ってことですか?」

 カイは苦笑いしつつも、心の奥が少しざわついた。

 

 後方からユウタが手を挙げた。

「俺は別にいいと思うけどな。効率的だし、下手に先生の好みに左右されるよりマシじゃん」

「それ、冷たくない?」リコが振り返って詰め寄る。

「冷たいっていうか、俺は数字で勝負するほうが楽なんだよ」

「でも数字じゃ測れないものがあるでしょ!」

 ナオトが小さく手を挙げ、 timid に言った。


「……俺、正直AI評価のほうが怖い。俺、人付き合い下手だから、交友関係まで評価されたら多分低いし」

「ほらな。そうやって損するやつも出てくる」カイが言うと、ユウタが肩をすくめた。

「でも、それが社会ってやつだろ」

 そのやり取りを黙って聞いていたアリアが、静かに口を開いた。


「AI評価は公平性を目的としています。しかし、“公平”は必ずしも“平等”を意味しません」

 教室が一瞬しんとした。

「どういう意味?」リコが聞く。

「AIはすべての人間を同じ基準で評価します。しかし、その基準が人間の価値観と一致する保証はありません」

 真田先生は大きく息を吐き、黒板にチョークで一行書いた。


『公平 ≠ 幸福』


「この制度が正しいかどうかは……お前らが考え続けろ。今の高校生が一番影響を受けるんだ」


 放課後、昇降口でカイはリコと並んで靴を履き替えながら呟いた。

「……結局、俺らはどうするべきなんだろうな」

「決まってるでしょ。やさしさが数字にならなくても、捨てない」

 そこへ後ろからユウタが笑いながら加わる。

「お前ら、ほんっと理想主義だな。俺は生き残る方法を探すだけだ」

「それも一つの生き方よ」リコは肩をすくめた。


 廊下の端で、アリアは一人、窓の外を眺めていた。

 夕日に照らされたその横顔は、相変わらず感情を読ませない。

 しかしその内部ログには、こんな一行が記録されていた。


《やさしさ=評価外。しかし、観測時に胸部領域に不明な感覚》



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