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第四章 忘れられたやさしさ


 翌日、昼休み。


 3年C組の教室は、パンの袋を開ける音や、机を寄せて食べる生徒たちの笑い声でにぎわっていた。

 窓際のカイは、購買で買ったあんパンを片手に、外を眺めながら静かに食べていた。


 そのとき、教室の中央からガタン!と大きな音が響いた。

 振り向くと、前列の佐伯ナオトが机の上の弁当を床に落とし、米粒と卵焼きが散乱していた。

「うわっ……!」

 慌てて拾おうとするナオトの横で、後ろの席の男子が鼻で笑った。


「ドジだなー。AI評価も低いくせに、手元までポンコツかよ」

 その瞬間、教室の空気が少しピリッとした。

 笑い声がいくつか漏れるが、誰も拾うのを手伝おうとしない。


 カイは迷った末、あんパンを机に置き、立ち上がった。

「ほら、スプーン落ちたぞ」


 彼は床にしゃがみ、卵焼きをそっと拾ってナオトの弁当箱に戻した。

「……ありがと、白石」

「別に」

 カイはまた自分の席に戻ろうとしたが、その時――


「非効率です」

 冷たい声が背後から飛んできた。アリアだった。


「え?」ナオトが顔を上げる。

「弁当を拾う行為は、本人が自力で可能です。あなたの行動は時間の浪費です」

 淡々と告げるアリアに、カイは眉をひそめた。


「……じゃあ、やさしさって何なんだ?」

「やさしさ、という行動パターンは統計上、短期的な経済価値を生みません」

「経済価値じゃねぇだろ」

 カイの声に少し熱がこもる。

 前列のリコが振り返り、はっきり言った。

「経済価値だけが価値じゃない。困ってる人を助けるのは、人間として当たり前のことよ」


「それはあなた個人の価値観です」アリアは即答した。

 しかし、リコは譲らない。


「じゃあ、笑顔の話はどうなるの? 昨日あなたが言ったじゃない。“笑顔は幸福度を高める”って」

 アリアは一瞬だけ黙り、視線をわずかに下げた。


「……事実です」

 そのやり取りを横で聞いていたユウタが、半分笑いながら言った。


「まぁまぁ、ケンカすんなって。俺も別にカイの行動、悪いとは思わねぇよ。……でも、俺は弁当落とさねぇけどな」

「それ自慢か?」カイが冷めた目を向けると、ユウタは肩をすくめて笑った。


 昼休みの残り時間、教室は再びざわつき、やさしさも皮肉も混ざった空気の中で、午後の授業へと向かっていった。



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