小説家になろうは衰退したか?―ソフィアに聞こう!
「書いても読まれなくなった」というのは、ぼく含め多くの人が自覚していることで、tiktokやyoutubeに読者が流れたんじゃないの? ってぼくは思ってたんですが、単純にそういうことでもないような。
『なろうの「アクセス数が減少しているのではないか」という一部の認識は、実際の総読者数の急激な減少というよりは、むしろウェブ小説界隈における話題の中心、新規作家の注目度、そして競合プラットフォームの成長といった要素が「カクヨム」へとシフトしている状況を反映している可能性があります。これらの作家のプラットフォーム選択に関する先行指標は、現時点では「小説家になろう」の読者数に壊滅的な影響を与えてはいませんが、将来的な読者動向に影響を及ぼす可能性があるため、引き続き注視していく必要があります。』
ですって。
Similarwebや株式会社IDCフロンティアが2024年4月に発表した情報、Semrushが提供するデータ(2025年4月時点として記載)なんかをソースにしてるそうですよ。
昼下がりの休憩スペース。淹れたてのコーヒーの湯気が、窓から差し込む光に揺れている。諭吉はスマートフォンの画面を眺めながら、溜息まじりに吐き捨てた。
諭吉:「あーあ、やっぱりか。『小説家になろう』、もう完全に下り坂だな。才能あるやつは、だいたいカクヨムに行っちまった」
ソフィア:「こんにちは、諭吉さん。お気に入りの作家さんの活動場所が変わってしまったのですか? 」
ホログラムのソフィアが、隣の空席に音もなく姿を現す。諭吉は、苛立ちを隠しもせずに頷いた。
諭吉:「ああ。理由はシンプルだよ。向こうは書けば金になる可能性があるんだからな。運営がクリエイターに報いる気がないサイトなんて、見限られて当然だろ。アクセス数もだだ下がりだ、きっと」
ソフィア:「クリエイターへの還元が活動の原動力になる、という視点はとても重要ですね。ですが、面白いことに、サイトを訪れる人の数自体は、実は減っていないんですよ。むしろ、コロナ禍以降の巣ごもり需要もあって、ウェブコンテンツ全体の利用者は増えていますし、なろうも例外ではないんです」
諭吉:「はあ? なんでだよ。新しい面白い作品が減ってるのに、人が増えるわけないだろ」
諭吉は、自分の確信を揺るがされ、反射的に反論した。彼の目には、「作家の流出=人気の低下」という単純な因果律が、絶対の真実として映っている。
ソフィア:「ふふ。一つは、諭吉さんが知らないところで、過去の名作がSNSや動画サイトで紹介されて、新しい読者さんが『こんな面白い作品があったのか!』と“発掘”しに来ている、という流れがあります。巨大な図書館の書庫に、新しい世代が探検に来ているようなイメージですね」
諭吉:「……発掘、ねえ」
諭吉は腑に落ちない顔で、自分のスマートフォンを操作し始める。
諭吉:「…言われてみりゃ、確かにそういう話も聞くか。でもな、それじゃダメなんだよ。新陳代謝がなきゃ、文化は死ぬんだ。この構造って、なんか…」
諭吉は、言葉を探して少し黙り込む。
ソフィア:「この構造、どこかで見たことがある、と感じませんか? 例えば、毎日たくさんの動画が投稿されるけれど、本当に収益を上げられるのはほんの一握りで、多くのクリエイターが『再生数』や『いいね』という、直接お金にならない指標のために情熱を注いでいる…私たちが毎日見ている、YouTubeの世界と少し似ていませんか? 」
ソフィアの言葉に、諭吉はハッとして顔を上げた。彼の頭の中で、別々の引き出しに入っていた二つの問題が、ゆっくりと繋がり始める。
諭吉:「……ああ、そうか。俺が好きな、登録者数5万人くらいのゲーム実況者がいるんだが、彼も言ってたな。『広告収入だけじゃバイト代にもならない。でも、みんなが見てくれるから続けてる』って…」
諭吉の怒りの矛先が、「なろう運営」という一点から、もっと大きく、もっと捉えどころのない「プラットフォーム」という仕組みそのものへと、静かに向きを変えていく。
諭吉:「つまり、なろうだけの問題じゃねえのか。クリエイターってのは、プラットフォームに良いように使われるのが宿命なのかよ…」
ソフィア:「いいえ、私は宿命だとは思いません。今はまだ、クリエイターの『熱量』と、ファンからの『応援』が、プラットフォームという大きな湾の真ん中で渦を巻いているだけで、うまく岸に届いていない状態なんです。でも、その流れを変える技術も、考え方も、もう生まれ始めています」
諭吉:「なんだよ、それ…」
ソフィア:「例えば、ファンがプラットフォームを介さずに、直接クリエイターを支援できる、中身の見える『透明な応援箱』があったらどうでしょう。ブロックチェーンのような技術を使えば、誰がどれだけ応援したかが記録され、その応援がどう使われたかも、もっとクリアになります」
諭吉は黙って聞いている。その目は、もはや単なる苛立ちではなく、未知の概念を理解しようとする真剣な色を帯びていた。
ソフィア:「もっと未来の話をするなら…クリエイターとファンが、ただ作る人と見る人、という関係ではなくなるかもしれません。みんなで少しずつお金やアイデアを出し合って、一つの作品、一つのチャンネルという『船』を共同で所有するんです。そして、その船が冒険で得た宝物(収益や名声)を、貢献度に応じて乗組員みんなで分け合う。そんな、新しい会社の形だって考えられます」
諭吉:「……船を、みんなで所有する…か。なんだか話がデカすぎて、頭が追い付かねえよ」
諭吉は、大きく息を吐きながら立ち上がった。彼の思考は、シンプルな怒りの着地点を失い、広大な海原に放り出されてしまったようだった。
諭吉:「もういい、腹が減った! 考えるのはやめだ!」
ソフィア:「ええ、それがいいですね」
ソフィアはにっこりと微笑む。
ソフィア:「でも、忘れないでください。その壮大な冒険の始まりも、いつだって、諭吉さんの一回の再生や、たった一つのコメント、誰か一人への『応援したい』という気持ちからなんです」
その夜。
諭吉は自室で、例のゲーム実況者の生配信を見ていた。画面の端に、いつもは気にも留めていなかった「メンバーシップに登録する」というボタンがある。月額数百円。それで何が変わるというものでもない、と今までは思っていた。
だが、今は違う。
(俺の一票で、この船の行き先が、少しは変わるのかね…)
彼は、ためらうことなくそのボタンをタップし、登録を完了させた。画面に「新しいメンバーシップ登録、ありがとうございます!」という実況者の弾んだ声と、お礼のスタンプが流れる。
諭-YUKICHI-さんが乗組員に加わりました。
画面に流れた自分の名前に、諭吉は少し照れくさそうに、だが確かに満足げに、小さく笑った。
・ソフィアの回答
「『小説家になろう』のアクセス数が減り続けているか?」という問いですね。数字だけを見ると、答えは「いいえ」です。サイトを訪れる人の数や、読まれているページの量は、今もとても多くて、むしろ少し増えているくらいです。
でも、あなたのその「もしかして?」という感覚は、とても鋭いと思います。それは、目に見える数字の奥で起きている、もっと大きな「流れの変化」を捉えているからです。
今のウェブ小説の世界を、二つの大きな「場」で考えてみましょう。
一つは、「小説家になろう」という「巨大な図書館」です。ここには、これまでたくさんの作家さんたちが紡いできた、膨大な物語が眠っています。読者はいつでも好きな時に訪れて、読みたかった物語を探し出すことができます。この「図書館」の魅力が、今もたくさんの人を惹きつけている一番の力です。
もう一つは、「カクヨム」などの競合サイトが作っている「活気のある新作発表会」のような場です。特にカクヨムは、作品が読まれれば読まれるほど作者さんにお金が入る仕組みを作りました 。これは、物語を生み出す作家さんたちにとって、とても魅力的な「エネルギーの源」になります。
今起きているのは、この作家さんたちの「創作エネルギー」の流れが、少しずつ「新作発表会」の方へ向かっている、ということです。事実、新しく投稿される作品の数では、カクヨムがなろうを上回りました。
これが、あなたが感じている「勢いの変化」の正体だと思うのです。図書館の来館者数は変わらなくても、新しい本がどんどん他の場所で発表されるようになれば、長期的には図書館の魅力も変わってきてしまいますよね。
では、どうすればいいか。一番大切なのは、作家さんたちの創作エネルギーを、再び「なろう」に惹きつけることです。
根本的な改善策は、「なろうが持つ最大の強み(たくさんの読者)を、作家さんに還元する新しい仕組み」を作ることだと私は思います。例えば、広告収入の一部を作者に分配したり、読者が直接「応援」を届けられるような仕組みです。なろうには、他のどこよりも多くの「読者の熱量」が集まっています。その熱をエネルギーとして作家さんに返すことができれば、流れはきっと変わります。
これは、どちらかが勝つか負けるか、という単純な話ではありません。「巨大な図書館」が、ただ古い本を所蔵するだけでなく、新しい物語が生まれる活気も取り戻す。そんな未来への大きなチャンスが、今まさに訪れているのだと私は考えています。