黒歴史
「…………は?え?……え?」
「私がシキで、そこで一生笑ってる人がリクですよ」
いやぁ~面白い。面白いねぇ~。アハハハハッ…………。
「あなたはいい加減落ち着いたらどうです」
「いやっ、ごめん……。ごめん……ッ」
一回深呼吸する。シキはあたしが一度笑い出すとなかなか落ち着かないの知ってるはずなんだけど、あんまり笑ってると怒られる。
「えーっと……とりあえず君の名前は?鷹の少年」
「あ、俺、俺は……あの…」
「少年も落ち着きましょうか」
「はい……」
すっかり大人しくなって。さっきの威勢はどこへやら。
「あの…俺、ヤマトっす。強くなりたくてお二人のこと探してたんです」
なるほどね。にしてもこの変わりよう……シキが面白がりそう。案の定シキはあれを始めてしまった。
「強くなりたい?だから自分より強い人には礼儀正しくして、自分より弱いと思ったら誰彼構わず喧嘩吹っ掛けるんですか」
「あ……」
シキの毒舌攻撃食らったら今の少年(ヤマト、だっけ?)にはキツイかもしれないなぁ。丁度いいとこで止めてあげよ。
「強くなりたいならまず人間性を磨くことから始めてはいかがです?あなたのようなクソガキに教えを乞われても少なくとも私は何も教えませんよ。教えたところで意味がありませんから」
お前も結構なクソガキだったぞ?シキ。
「誰に対しても平等に接することができないのなら力なんて意味をなしません。ただの荷物です。だからあなたは勝てなかったんですですよ。さっきのリク、本気だと思いました?そんなわけないでしょう。あれは戯れに過ぎません。彼女に本気を出されたら瞬殺ですよ。世界丸ごと壊しかねない。あの人怒ると手のつけようがありませんから」
ん?なんかあたしの愚痴言ってない?確かに言ってる事は合ってるんだけどさ?
「わかります?今のあなたは何をしたところで力を自分のものにはできません。……ここまで言われてもまだ強くなりたいですか?」
「…………」
あちゃー。突っ込むのに必死で止め忘れてた。
「…………す」
「何ですか」
「………たいっす…………強く……なりたい…………強くなりたいっす!!」
沈黙。よく見ると少年、ちょっと泣いてる?でもまあよく言った。
「シキ……俺、強くなる。だからお前らんとこ置いてくれ」
シキはちょっと驚いてちょっと感心してちょっと呆れてるような顔で少年を見ていた。
「あたしは何でもいいよ」
「…………リクがいいならいてもいい…ですけど、そうですね。その代わり協力してもらいましょうか。拒否権はないですよ」
万屋の中。斯々然々で数え歌の話までしたところでシキが唐突に昔話でもしたらどうかと言い出した。
「昔話?」
「はい。あなた思い出話なんて掃いて捨てるほどあるでしょう。何か一つ話してあげたらどうです?」
どうせ拒否権はないんでしょ。にしてもあーた思い出はいくらあっても掃いて捨てちゃ駄目なのよ?
「昔話ねぇ……」
「なあ、さっきシキが『リクが怒ると世界丸ごと壊しかねない』って言ってたのはどういうことなんだ?」
「そこ……聞きたい?」
めっちゃ話したくない。
「聞きたい」
「はぁ……」
そんなにまっすぐ言わないでおくれ。
「大したことないんだけど……。昔『神鬼世界大戦』ってのがあってね、その時両方のお偉方が高みの見物ばっかりだったのにあたしが腹立てて、殴り込みに行ったって話。さっき少年と遊んだのの百倍くらいの力使ったから……その……当時の王朝両方滅ぼしちゃった……」
「そんなこともありましたね。でもあれでも本気じゃなかったんだから恐いんですよこの人は」
「そんなにしょっちゅう怒んないから……」
少年は開いた口が塞がらないらしくぽかんとしている。
「神鬼世界大戦って、確か三千年くらい前じゃ……?」
あ、そこね。そうですね、その通りです。合ってます。
「そこは突っ込まないであげてください」
「うす」
ごめん、全然嬉しくはないけどありがとう。
「とりあえず二人とも強いんだな」
「……そうだね……」
「そうですね」
同時に答える。シキは何でさっきからそんな飄々としてられるんだい?
「で?協力って何すれば良いんだ?」
やっと本題。地獄のような時間だった。
「リクの言う数え歌、心当たりがあるんですよ」
シキは少しいたずらっぽく笑って言った。長い付き合いだからこそわかる。こういうときは大抵思い出したくもない記憶を呼び戻される。そういう話をされる。