鷹の少年・1
鬼界の東街ってぇのはこうも派手なのかよ。ったく、目がチカチカする。どこを見ても人、人、人。……人じゃねーな、鬼だ。だがどいつもこいつもカスばかりだな。ったく。ろくに戦えもしねぇ雑魚共がのうのうと生きてやがる。腸が煮えくり返るってぇのはこういうことを言うんだろう。お気楽なもんよ。
だが少しするとさっきまでの賑やかさはどこへやら、静寂と闇が辺りを包み込んだ。
思わず足が止まった。ただの闇ではない、多くの怨念のような、何か強い力がこの場所で働いていると肌で感じる。本当にこの先なのだろうか。いや、俺はこんなとこでヒヨるような男じゃねぇ。俺が合っていると思ったものは全て合っている!
謎の自信と共に少年は一つの家の前で足を止めた。今度は意図的に。
そこは古い民家のようだった。他の家々と同じくだいぶ昔のものであることは見れば分かったが、唯一違うのは中に生き物の気配がすることだった。
少年は一歩下がって深呼吸すると、家に向かって思い切り体当りした。正確には、体当りしようとした。少年の体が家にぶつかる寸前、彼は空中で止まっていた。硬く透き通った氷のようなものに胴体を締められていたのだ。
少年は必死に脱出を試みたが無駄だった。その氷は「力」によるもの。力の使えない少年にどうこう出来る話ではなかった。
「止めな」
家の奥から女の声がした。どこか人を黙らせる雰囲気を纏った静かな声。女は奥から出てきて少年を締めていた氷を溶かした。
二度見するような美人だった。血のように紅い瞳は文字通り鈴のようで、漆黒の髪は前髪、目の横、後ろと三段に別れどこも一直線に揃えられていた。女にしては珍しく下ろしていて、それがまた怪しい雰囲気を漂わせるのに一役買っていた。赤と黒の着物には花の模様が入っていたが、俺の知らない花だった。
「お客様はあんまり虐めるもんじゃないよ」
いきなり地面に落とされて腹が立った俺は女に突っかかった。
「てめぇ何してくれてんだよ!痛えだろ。それとも鬼界じゃ会って早々客人に怪我させるのが礼儀なのか?趣味悪すぎだろ」
「人様の家に体当たりして扉ごと壊そうとするのもなかなか良いご趣味でいらっしゃいますよね」
「ゔっ……」
気が付くと女の横にはこれまた整った顔立ちの男がいた。こっちはなんとなくいけすかねぇ。
「初めから平和に話し合う気はなさそうでしたから多少物理的にいってもいいかと」
俺を締めたのはコイツか!ふざけやがって……
「よくねぇよ、いいわけあるか。てめぇ大丈夫か?」
俺の言えたことではないが。
「そうですか……あなた丈夫そうなので死にはしないだろうと思ったんですが」
「だからそういう問題じゃねぇんだよ」
何なんだコイツ。倫理観どうなってやがる。
……まあいい。いけすかねぇ野郎だが気に入った。少なくとも自分の持っている力を使う気はあるらしい。試してみようじゃねぇか。
「おい。てめぇ俺と勝負しろ」
「勝負、ですか」
言ったきり男はなかなか返事をしなかった。
「逃げる気じゃねぇだろうな」
「……いえ」
男は横にいる女の頭に手を置いて面白いというように笑って言った。
「勝負なら、彼女とやってみてはいかがです?」