罰ゲーム四個目(38)
「お、終わり?」
愕然としてしまった私の声は、ひどく震えてしまいます。
これまでも、大きなコンクールやパーティーなどで歌う前、緊張などから声が震えたり、擦れてしまったりする事はありましたが、ここまで酷くはありませんでした。
本来であれば、罰ゲームが終わったのですから、ホッと安堵するべきなのに、私は真逆の感情を抱いてしまっていました。
(私は、もっと、宇津路さんの足を舐めたいのに・・・)
いえ、違いますわね。
確かに、宇津路さんの足をまだ、舌で堪能したい、これも偽る事の出来ない、私の本心です。
ただ、もう少し正確に言うのであれば、私は、宇津路さんに、私の恥ずかしい、人に見られてしまったら、社会的に終わってしまうのが確定な痴態を見られたいのです。
足を舐めながらのオナニー、それを、私は宇津路さんに見られたかったのです。
心の広い宇津路さんならば、私が、どれほど、みっともない醜態を晒したとしても軽蔑はしないでしょう。
むしろ、私の性癖を察した上で、わざとらしさなど一切、感じさせずに、ごく自然に冷酷かつ艶然とした目で、私を見て下さったでしょう。
羞恥心から生じる快楽を指の動きで貪る自分を、宇津路さんに、そんな目で見られたら、きっと、大舞台で歌唱っている時よりも満ち足りた気持ち良さを覚えられるに違いありません。
だからこそ、宇津路さんの足を舐める、その罰ゲームが終わってしまった事に、私はこれほどまでに強烈しい喪失感に襲われてしまっているのです。
罰ゲームなど知った事ではない、快楽を求める欲に身と心を委ね、己の牝蜜ですっかりとびしょ濡れになった下着を脱ぎ捨て、痺れるような熱が鎮まる気配のない割れ目を指で左右に引き開いて、いやらしい音を指で響かせましょう、と行動を起こしかけた私。
けれど、私は止まります。
私がやらかそうとしているのを察知したキララさんに、止められたのではありません。
私が、私の意志で、私の体に「待った」をかけたのです。
不自然なほど、急ブレーキをかけたのを目の当たりにし、キララさんも私に抱きつくのを、一旦、止めたようです。
私が自分を止められたのは、寸前で冷静さを取り戻せたからです。
確かに、宇津路さんは、私が恥ずかしい行いをすれば、私を興奮させる目つきをしてくれるでしょう。
けれど、それは、あくまで、罰ゲームの一環なのでは?
恥ずかしい罰ゲームをしている時だからこそ、宇津路さんは、私のMっ気を満たす、ご褒美に等しい、冷え冷えとした一瞥をくれるのかもしれません。
もしも、罰ゲームが終わった今、いきなり、オナニーを目の前でしたら、宇津路さんは本気で私を軽蔑するか、狼狽してしまう可能性がありますわ。
後者ならまだしも、前者の反応をされてしまったら、私は立ち直れないでしょう。
どうやら、私のMっ気は、その程度のようです。
自分が手遅れではない事を実感しつつ、心をが落ち着いてきた私は、気持ちよくなれない恥ずかしさに襲われてしまいます、急に。
ボンッ、と音が聞こえそうなほど真っ赤になってしまいます、私は。
オナニーしたくなるほどの性的興奮が一気に冷めた事もあってか、体が小刻みに震え出してしまった私の肩へ、キララさんがバスタオルをかけてくださいました。
「ギンちゃん、マリアにシャワー使わせても良い?」
「構わないよ」
笑顔を浮かべた宇津路さんは右手でOKサインを作り、私に気付かれぬよう、視線を動かしていませんでしたが、床には、私の下着が吸収しきれなかった粘液が水溜まりを作ってしまっていました。
後日、キララさんに、ギンちゃんがアンタの愛液、拭いてくれたんだからね、と言われた時には、顔から火が出てしまいそうでした。
もちろん、アソコからは、懲りずに水が溢れ、下着をほんの少しだけ汚してしまったのですけど。
私がシャワーで体液を洗い流している間に、キララさんは自室に戻り、私に貸す下着を持ってきてくださいました。
わずかですが、下着がキツく、自分のお尻の大きさに軽いショックは受けましたが、私はどうにか、気持ちを立て直しました。
「色々とみっともない姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした、宇津路さん、キララさん」
「構わないよ、金多さん」
「あれくらいじゃ、私達の友情は壊れないって、マリア」
「そう言って頂けると、少しですが、気持ちが楽になります」
深々と、改めて、お二人に礼を述べたのですけれど、頭を上げた私は耐え切れず、訊いてしまいます。
「あの、宇津路さん」
「何かな?」
「また、遊びに来てもよろしいですか?」
「もちろん」と宇津路さんが微笑みながら頷くと、キララさんはちょっと焦った面持ちで、「次は三人で遊ぼうね」と三本の指を立て、宇津路さんに体をくっつけています。
どうやら、宇津路さんと私が二人きりで遊ぶ事に危惧感を抱いているようです、キララさんは。
疑い過ぎですわ、と彼女を笑えません。
何せ、私は罰ゲームに期待して遊びに来るつもりだったのですから。
キララさんが、御自慢のGカップを、宇津路さんの、細めながらも、案外、逞しい腕に密着させているのを見て、思わず、ピクッと眉が跳ねてしまう私。
つい、反応してしまった私に対して、キララさんはニヤッと笑ってきたので、私もニコッと清楚に微笑み返します。
キララさんとの友情は尊く、これからも、壊れないように努力はしていく所存です。
しかしながら、恋愛方面で、ライバル関係となった以上は、遠慮もしていられません。
何せ、私とキララさんが好いた男性は、宇津路白銀なのですから。
(・・・でも、キララさんと一緒に罰ゲームを受けるのも、それはそれでアリな気もしますわ)
期待でHカップの爆乳を、より膨らませつつ、私は今一度、お二人へ、金多家の者として恥ずかしくない所作での一礼をします。
「それでは、ごきげんよう」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ありがとう、淳子」
迎えに来てくれた淳子は、私の顔をチラリと見ただけで、何かがあって、私に心境の変化があった事を察したようです。
けれど、何も言わず、車を発進させます。
彼女の、金多家のメイドとして相応しい心配りを心地良く思いつつ、私はしばらく、車窓からの景色を楽しみました。
「淳子」
「どうかなされましたか、お嬢様」
「一つ、お願い事、いいえ、命令があるのだけど」
「何なりと仰ってくださいませ」
翌日の夜、私はキララさんの家のチャイムを押します、我が家の一流シェフが打ってくれた十割蕎麦を片手に。