罰ゲーム四個目(33)
またしても、私は冷静さを喪失って、声を大きくしてしまいました。
そんな情けない私に、キララさんは同情、と言うより、申し訳なさそうな表情を向けますが、宇津路さんは特に目立った反応はせず、キララさんから引いたカードを受け取り、中身を確認します。
「なるほどね」
それだけ呟いた宇津路さんは、ほんの一瞬だけ、どうしようか、と迷うような素振りを見せました。
しかし、ルールはルール、これは曲げるべきじゃない、と判断なさったようで、「ふぅ」と溜息を漏らすと、宇津路さんはオロオロしてしまっている私にカードを差し出します。
知っての通り、私は今、おっぱいの尖端を両手の人差し指で隠していますから、うっかりとカードを受け取れません。
なので、宇津路さんは、私がカードを読めるように見せてくださいました。
まぁ、そんな優しさに惚れ直す余裕も、カードの内容、つまり、三つ目の罰ゲームを読んだ私にはありませんでしたけど。
「そ、そんなっ!?」
「今更だけど、この罰ゲームのカード、結構、ヤバいって言うか、アブノーマルなモノも入ってるんだね」
「ほんと、今更だけどね」
宇津路さんは、キララさんの言葉に苦笑いを浮かべると、私に見せていたカードを山の上に戻すと、一つの束に纏め、ケースにしっかりと収納なさいました。
それは、私がカードを引き直せなくなった事を意味しており、宇津路さんの生真面目さの表れとも言えます。
「どうする?」
「どうする、とは?」
「ギブアップしてくれても構わないよ、金多さん」
「その煽りは、故意とですの? 宇津路さん」
「まさか。そんなつもりはないよ」
確かに、宇津路さんは、キララさんとは違い、私を挑発し、物事を冷静に考える事を乱すほど、性格が悪くはないでしょう。
本当に、私には、この三つ目の罰ゲームは酷すぎる、と感じ、気遣ってくれているのは解り切っています。
それならば、カードを引き直させてくれればいいのに、と思ってはしまいますけど、意図はどうあれ、こう言われてしまった以上は、金多家の一員として、目の前の難事から逃げる、など言語道断が過ぎます。
お父様とお母様が誇ってくれる娘でいるためにも、私は、敗者として、この三つ目の罰ゲームを完遂せねばなりません。
「もちろん、やりますわ」
「マリア、あんた、マジかっこいい」
堂々と、尖端を指で隠した巨乳を張った私に、キララさんは賞賛を込めた視線を向けてくださいます。
「今、初めて、マリアを凄いって思ったわ」
「今、初めてですの!?
私たち、お友達になってから、それなりに経ってますわよ!!」
「いや、正直なとこ、少しポンコツなお嬢様ってキャラだしさ、マリア。
ねぇ、ギンちゃん」
「そこで俺に振るのは卑怯じゃない、キララちゃん。
金多さん、俺は金多さんを元々、尊敬してるからね」
「ちょっ、ギンちゃん、一人だけズルくない!?」
キララさんは、ギャアギャア騒いでいますが、私は宇津路さんに尊敬して貰っている、と言って貰え、嬉しくなってしまい、キララさんの文句は耳に入っていませんでした。
喚くキララさんの顎先を優しく撫でて、穏やかに宥めながら、宇津路さんは、おもむろに私へ尋ねてきます。
「ところで、金多さん」
今の今まで、背後に猛虎が見える、と錯覚しそうなほどキレていたキララさんは、宇津路さんの繊細にして、流麗な指使いによって、すっかり骨抜きにされ、飼い主に甘える仔猫ちゃんのようになっており、私は戦慄すると同時に、羨ましくなってしまっていたので、一瞬、返事が遅れてしまいました。
「は、はい、何ですの?」
「三つ目の罰ゲームだけど・・・」
ほんの少しだけ、宇津路さんは言い淀みましたが、躊躇っても仕方ない、と判断したようで、静かな口調で確認してきました。
「俺、洗ってきた方が良いかな、足を」
私が受けるべき三つ目の罰ゲーム、それは、「異性の両足の指を舐める」でした。
手の指ではなく、足の指を舐める、何と変態チックな行為でしょう。
キララさんですら狼狽えるほどの罰ゲームです。
「いくら、私でも、ギンちゃんの足を舐めるのは抵抗があるなぁ。
足じゃなくて、チ〇コだったなら、何分でもしゃぶれるんだけど」
またしても、宇津路さんの股間にタッチしようとしたキララさんでしたが、宇津路さんは股間に触れられる前に、キララさんの手を掴んで止め、しっかりと握ってしまいます。
宇津路さんの股間の温かみを再堪能できなかったのは惜しむべきながらも、宇津路さんの、魂を差し出す事すら厭わぬほどの美に満ちた絵を描き出す指にギュッとされるのも、それはそれで至福なようで、キララさんは幸せそうです。
そんなキララさんの笑顔に、私は乳首が硬くなるほどの苛立ちを覚えますが、宇津路さんに、この程度で感情をコントロールできなくなる、はしたない女と思われたくないので、宇津路さんの質問に答える事を優先しました。
「足は洗わずとも結構ですわ。
早速、舐めさせていただきます」