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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
75/110

罰ゲーム四個目(25)

 「え?」


 私は驚きますが、キララさんは私が頭に伸ばした右手の手首を掴んだまま、離してくれません。

 キララさんの握力は翡翠さんほどではないですし、私も金多家の令嬢として護身術をちょっと齧っていますから、相手に手首を掴まれた時の対応は教わっています。

 もっとも、教わった技が上手く出来るか、は別になってきますが・・・

 下手な返し技を使って、私自身が怪我をするのも嫌ですけど、親友のキララさんに怪我をさせるのも嫌なので、私は手首を掴まれたまま、ジッとしておきます。


 「ちょっと、マリア、ダメだよ。

 何、取ろうとしてるの?」


 「キララさん、私の頭に何を付けたんですの!?」


 「さぁ、何かな~」


 イジワル、と言うより、小悪魔めいた笑顔になったキララさんに、私はますます、不安を煽られてしまいます。

 

 「宇津路さん、私の頭に何か付いてますか?」


 「まぁ、付いてるね」


 「ギンちゃん、ダメだよ、取っちゃ。

 これは罰ゲームなんだから」


 「なら、鏡くらい見せてあげたら?

 金多さん、凄く不安そうだよ」


 宇津路さんの言葉を、尤もだ、と思ったのでしょう、キララさんは「うん」と頷くと、私の右手首を離し、ハンドバッグから折り畳みの鏡を取り出し、私に手渡してくださいました。


 「はい、見て」と言われた私は素直に従い、鏡に映った自分を見ます。


 「これは!?」


 鏡の中にいる私の頭には、犬の耳が生えていました。ちなみに、垂れ耳ではなく、三角形の犬耳です。


 「これで、一つ目の罰ゲーム、犬耳になる、は達成だね」


 そう言いながら、キララさんは呆けている私をスマフォで撮影します。

 パシャッ、とシャッター音が鳴ったのに気付き、ハッとなった私は恥ずかしくなり、「ちょっと、撮らないでくださいな」と手で犬耳の生えた頭を隠すように抵抗します。

 けれど、頬どころか耳まで赤らめ、ちょい泣き状態になっている私に、キララさんは嗜虐心を刺激されたようで、やや鼻息を荒くして、連写してきます。

 あまりの羞恥ずかしさで、私が頭から湯気を噴いて倒れそうになったタイミングでした、宇津路さんが「コホン」と小さく咳払いをしたのは。

 その音は小さかったのに、部屋全体に響き渡ったような錯覚を、私に抱かせました。

 瑠美衣さんが以前、私に布教プレゼントしてくださったイケメン同士が「喧嘩最強」の座、それだけを目指して殴り合う少年漫画の1コマのように、衝撃波が視えてしまったくらいです。

 そして、視えたのは、それだけじゃありませんでした。

 宇津路さんが小さな咳払いをした瞬間に、私をスマフォで撮りまくっていたキララさんの体は唐突かつ強制的に硬直させられたのですが、そんな彼女の横には、「ビキッ」の効果音がデカデカと現れ出ていたように視えたのです、私には。

 しかし、無理はないでしょう。

 私がキララさんであっても、今の咳払いを聴いたら、そんな効果音が出てしまうほどの恐怖で、肉体が動かなくなるに決まっていますから。


 「ギ、ギンちゃん」


 辛うじて、キララさんは口だけ動かせたようですが、そこから出る言葉は、滑稽だ、と笑えないほど、小刻みに激しく震えてしまっていました。


 「金多さんが恥ずかしがってるし、それくらいにしてあげて」


 宇津路さんの注意する声は柔らかく、口元だけじゃなく、目も穏やかに笑っていますが、瞳に宿っている光はわずかに冷たいものでした。

 きっと、キララさんは、その瞬間に、自分の全身スレスレまで接近している、数えきれないほどの釘を幻視していたのでしょうね。

 「ひゅぇっ」と妙な声を出し、私を撮るのを止めてくれました。

 宇津路さんに釘を刺されたキララさんには同情しますが、私は撮影から解放されたので、つい、ホッとしてしまいます。


 「まぁ、キララちゃんが暴走するのも無理ないか」


 「・・・・・・え?」


 「犬っ娘になった金多さん、可愛いもんね。

 まぁ、もちろん、いつだって可愛いけど」


 きっと、今、私は、普段の私だったら、「しっかりなさって!!」と本気で頬を引っ叩くほど、気持ち悪い、「にへらぁ」、そんな音を出しそうな笑い方をしているのでしょう。

 でも、皆様、これは仕方のない話ですわ。

 人間的に尊敬し、なおかつ、恋愛的な意味で「大好き」を強く感じている相手から、「可愛い」と言われて喜ばない者がいるでしょうか、いえ、いません、いるはずがないのです。


 「くっ、マリアだけ、ギンちゃんに可愛いって褒められて、ズルい!!」


 今、宇津路さんに注意されて恐怖した事で晒した醜態は、キララさんの中で、無かった事になったらしく、またしても、他の部屋に駆け込んだかと思ったら、すぐに戻ってきました。


 「ギンちゃん、私も可愛いよね!?」


 語気荒めで問うキララさんは、頭から兎のように長い耳を生やしていました。


 「もちろん、可愛いよ」


 宇津路さんの誉め言葉に勝ち気な笑みを浮かべたキララさんのGカップへ、私はHカップをドタプンッとぶつけます。


 「ちょっと、キララさん、今は私の罰ゲーム中ですわ」 

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