罰ゲーム四個目(24)
「マリア、あんたが自分で言ったんでしょ、負けたら罰ゲームを三つにするって」
「ッッッ」
「それとも、金多家のご令嬢が、自分でした約束を蔑ろにするの?」
さすが、私の親友の一人です。
キララさんは、私の弱点の一つを熟知していました。
これを、こんな事を言われてしまったら、私が冷静でいられるはずがありません。
もちろん、私には、自分で吐いた唾を飲む覚悟が出来ていましたよ。
私は、金多マリアなのですから。
「解っていますわ」
罰ゲームを受け入れる、その決意を揺らさないよう、息を大きく吐いてから、私がカードの束に手を伸ばそうとすると、おもむろに、宇津路さんが先に、キララさんからカードの束をまるっと取り上げます。
「ギンちゃん?」
「宇津路さん?」
「一応、カードはシャッフルしておかないとね」
そう、爽やかな笑顔で言うと、宇津路さんは、相も変わらず、華麗としか表現が出来ないシャッフルを私達に魅せてくれます。
「あと、この前やった罰ゲームが出たら、どうしようか、キララちゃん」
「そりゃ、引き直しでしょ。
一回やった罰ゲームをやらせても、面白味に欠けるし。
それでいいよね、マリア」
どうして、キララさんが決めるのか、と文句も言いたくなりますが、油断で負けた者としては何も言えませんから、首を縦に振るしかありません。
「じゃあ、三枚ね、金多さん」
シャッフルを終えた宇津路さんは、一つの束を三つの山に分けると、机に並べます。
「それぞれの山から、一枚ずつ、好きな所から引いて」
頷き返した私は少し考えてから、左の山に指を震わせながら伸ばし、一番上のカードを取ります。
「どうする? まず、確認する?」
「・・・・・・そうですわね」
キララさんの問いかけに、私は逡巡してしまいますが、どちらにしたって、三つ、罰ゲームを実行せねばならないのですから、いつ確認しても同じですわ。
なので、今、引いた一枚目をさっさと確認してしまいましょうか。
「一枚目は・・・犬耳になる、だね」
私が引っ繰り返した一枚目のカード、そこに書かれた文言を宇津路さんは読み上げてくださいました。
「犬耳になる・・・って、罰ゲームなんですの?」
「まぁ、罰ゲーム用のカードに書かれているんだから、そうだろうね。
これ、こういう感じの罰ゲームも、ちゃんと用意されてるんだ」
今まで、その、何と言うか、ちょっと、いえ、かなり、アダルティな内容の罰ゲームが多かったからでしょう、宇津路さんは、私の引いた一枚目を読んで、軽く驚いているようでした。
(う、宇津路さんとキララさんは、これまで、どのような罰ゲームをしてきたのかしら)
お二人が、どこまで進展しているのか、オトナの階段を上ってしまっているのか、気になってしまった私の顔は自然と熱を帯び、赤らんできてしまっていたようです。
「大丈夫?金多さん、顔が赤いけど」
緊張で熱でも出て来ちゃったかな、と心配そうな表情で、宇津路さんが右手を額に伸ばしてきたので、私は思わず、大きい声で「問題ありませんわ!!」と叫んでしまいました。
声量が凄まじかったので、宇津路さんはビクッとし、右手を宙で止めました。
「も、申し訳ありません、宇津路さん!!」
「こっちこそゴメンね。
いくら、友人でも、男におでこを触られるのは嫌だよね」
気まずそうな表情で引いた右手を、宇津路さんは後頭部に当てます。
宇津路さんに、そんな顔をさせてしまったのが、これまでにないくらい、心苦しくなってしまった私はまたしても、声の大きさを間違ってしまいます。
「宇津路さんであれば額でも、乳房でも、好きに触ってくれて構いませんわ!!」」
「ち、乳房?」
私の声の大きさよりもワードチョイスに対して、宇津路さんは戸惑いを見せます。
「マリア、あんた、何、とんでもない事を大声で言ってんの?」
ズコンッ、と頭に手を置かれた、いえ、チョップされた私はハッと我に返りました。
乳房なんて卑猥な言葉を口走ってしまい、私はますます、顔が熱くなってしまい、恥ずかしさを誤魔化すべく、話題を強引に変える事を試みます。
「この罰ゲーム、どうしましょう。
犬耳になれ、と言われても・・・・・・」
「問題ナッシング」
考え込もうとした私の頭に、キララさんは手を伸ばしてきます。
またしても、チョップされる、と私は反射的に、ギュッと目を瞑ってしまいます。
でも、ちょっとした衝撃はあれど、チョップされた痛みはなかったので、私は恐る恐る、目を開けます。
すると、私を見るキララさんはニマニマしていて、宇津路さんはキョトンとしていて、私が目を開けている事に気付くと、柔らかな笑みを浮かべました。
お二人は私を見ていますが、時々、視線が顔ではなく、頭に向いています。
それに気付いた私が困惑しながら、頭に手をやると、指先が何かに触れました。
どう考えても、髪の感触ではありませんが、今日、私は髪飾りをして来ていません。
触れた物を取ろうとすると、キララさんが制止めてきました。