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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
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罰ゲーム四個目(23)

 敗北への恐怖。

 先程まで、私は勝てる、と確信していたからこそ、余計に、私の胸の中には、その感情が一気に湧き上がり、目の前がぐにゃぁと歪んでしまい、息も乱れてしまいます。

 ハァハァ、と荒い呼吸に変わった私は、顔から大粒の汗をダラダラと流し、両腋や胸の谷間、乳房の下、裏側にも、嫌な汗がじんわりと滲み出て来てしまいました。

 

 (ま、負けてしまうんですの・・・)


 別に、今まで、私は一度も敗北を経験してこなかった訳ではありません。

 自分にとって、唯一、得意であり、武器であり、「金多マリア」の個性と言える歌唱力を競う場でも、時には、切磋琢磨している、全国の好敵手ライバルの皆様に一歩及ばず、優勝する事が叶いませんでした。

 スケールも小さくなりますが、体育の授業で行った100m走りやバスケットボールで、クラスメイトの皆さんに惨敗する事など、しょっちゅうです。

 負けに慣れている、そう言ってしまうと、語弊がありますけど、全力を尽くしても負けてしまう時はある、と私は知っています。

 大事なのは、負けた時、自分がどうして負けたのか、それをちゃんと考える事から逃げず、根性で立ち上がって、自分の足で前に向かって歩き出す事だ、と私はキララさん達との間に築いた友情を深める過程で教わりました。

 自省を土台にした改善を地道に繰り返した事で、私は、100m走で翡翠さんには全く歯が立たず、キララさんにも連敗しましたが、それでも、瑠美衣さんには勝てる回数が増えてきました。

 キララさんなどは、インドア派のお手本なルビィに勝てるのは当たり前だし、勝っても嬉しくないよね、と歯に衣着せぬ言い方をして、瑠美衣さんとガチ殴り合いをしそうになり、宇津路さんが間に入って止められていました。

 その時のキララさんと瑠美衣さんの変顔にらめっこを思い出し、私は思わず、「ふふっ」」と笑いが込み上げてしまいます。

 たった、それだけで、私の体を強張らせていた敗北に対する恐怖は消え去りました。


 (そうですわ、今、確かに負けそうではあっても、まだ、負けてはいませんわ。

 キララさんのおかげで、大逆転のチャンスが巡ってきたのですから、最後まで諦めちゃいけません)


 パンッ、と自分の頬を叩いて気合を入れた私を怪訝な目で見てくるキララさんの方を、私は見つめ、「ありがとうございます」と口パクで伝えます。

 私が無言でお礼を告げた事で、キララさんは、ますます戸惑っているようですが、私にそれを気にしている余裕はありません。

 宇津路さんが相手なので仕方ない、と言ってしまうのは言い訳に過ぎませんが、恐怖で、つい、タイムロスをしてしまったのですから、すぐにでも、脳味噌をフル回転させ、勝機を見い出さねばなりません。


 (いずれにせよ、宇津路さんのサイコロの目、四つは知れている分、私が有利ですわ)


 有利なはず、と自分に言い聞かせながら、私は残る1つを考えます。


 (宇津路さんが、本当に、イカサマをしていたのなら、残る1つは5の目が出ているはずですわね。

 けれど、今、1から5が出ているのは、私の振ったサイコロ。

 つまり、6の目が出ている可能性もありますわね)


 5であったなら合計数は30、6であったのなら31。

 サイコロの目を4つ知るために全ポイントを使ってしまうので、合計数を的中させるしか、勝利は掴めません、私は。


 (一体、どっちなんですの!?)


 必死に熟考かんがえる私ですが、時間と言うモノは、人間の都合に構ってはくれません。


 「シンキングタイム終了だよ、金多さん」


 「宇津路さん、最後のターンですから、お互いの予想を同時に言いませんこと?」


 「俺は構わないよ」


 「では、せーのっ、で言いましょう」


 宇津路さんが困惑しながらも、首を縦に振ってくれたので、私は腹を括り、自分の直感を信じます。

 落ちてくるギロチンの刃を華麗に躱し、必ず、勝利《財宝》を手にしますわ、と決意を漲らせながら、私は息を吸い込みます。


 「せーのっ」


 「29」


 「30ですわ・・・え?」


 「さて、合計はいくつになるのかな?

 えっと、ギンちゃんが1、2、3、4、4で14、マリアが1から5で15だから、全部足すと29だね」


 その瞬間、宝物庫に勇気を振り絞って飛び込んだ私の首は、宇津路さんがボタンを押したギロチンの刃によって、ズダンッッ、と妙に軽やかな音を立てて、胴体に別れを告げ、宙を舞います。

 何故か、私には、虚空をクルクルと回転している私の頭部が視えていました。

 そりゃ、もう、ハッキリと。幻の、いえ、餌としてチラつかされていた勝利に酔った、だらしない笑みを浮かべている私が視えていたのです。

 おかしいですわね、自分の笑顔など、自分では鏡と直面しなければ、生きている時でも、見る事は出来ないのに。


 「私の首は銀のお盆に乗せ、金多家に届けて下さいね」


 「何、言ってんの、マリア?

 ほら、さっさとカード三枚、引いちゃって」

 

 キララさんが意気消沈している私にズイッと突き出してきたのはカードの束。

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