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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
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罰ゲーム四個目(22)

 宇津路さんから、このゲームのルールを聞いていたキララさんは、私が所持しているポイント全てを躊躇いもなく消費しきって、サイコロの目の開示要求をした事に、驚きの感情をハッキリと表しています。

 そんなキララさんとは対極的に、宇津路さんは、全く動じていません。

 眉根も寄せていませんし、鼻先や口元も小刻みに震えていませんし、呼吸のペースにも変化が起きていません。


 (でも、私には察知わかっていますわ)


 間違いなく、この「平然」は、宇津路さんの懸命な演技。

 

 (さすが、宇津路さん、優れた演技力もお持ちですわね。

 私が審査委員長であったなら、アナタに主演男優賞を独断で授与したいくらいです)


 一見すると、宇津路さんは動じていないようです。

 しかし、内心では、私の大胆な発言を真正面から受け、混乱しているに決まっています。

 宇津路さんのイカサマを看破している私は、勝利を確信しています。

 だからこそ、ここは遠慮せず、宇津路さんのメンタルを揺さぶって、私の勝利を確実にすべきなのです。


 (お父様、お母様、私は必ず勝ちますわ)


 「さぁ、宇津路さん、アナタのサイコロ、四つの目を教えてください」


 私は勝利を確信している興奮で、声が上擦ってしまわぬよう、意識しながら、宇津路さんに左手を向けて答えを促します。


 「OK」


 もう少し抵抗する素振りを見せるかと思いきや、宇津路さんが、意外にも、すんなりとこちらの要求を飲んだので、私は少し、拍子抜けしてしまいます。


 (もしや、イカサマを見抜かれた事に気付いて、ご自身の敗北を受け入れたのかしら?)


 そうであるなら、実に賞賛すべき潔さです。

 見苦しい負けは晒さない、その美意識を持つ宇津路さんに、私はますます、トキめいてしまいます。

 けれど、今は真剣勝負の真っただ中。

 この恋心は、ちょっとだけ封印です。


 「まぁ、言うのは良いけど、まず、サイコロの目を確認しておかなきゃ、話は始まらないね」


 飄々とした態度を崩さぬ宇津路さんは、お椀に被せていた白紙を退かして、サイコロの目を視認します。


 「俺のサイコロの目は・・・」


 (私は知っていますわよ、そのサイコロの目は、1、2、3、5でしょう?)


 「1と2と3と4が出てるね」


 「ッッッ」


 まさか、ここで、宇津路さんが、私が直感で当てようと思っていた、不明の数字を仰って下さるとは予想外が過ぎたので、うっかり、顔が引き攣ってしまいました。


 「ちょ、マリア、大丈夫?

 顔が変だよ。

 あ、違った、顔から変な音がしたよ」 


 「どんな言い間違いなの、キララちゃん、それ」


 どうやら、キララさんは私に向かって、何やら失礼極まりない事を言っていたようですが、驚いていた私は、その言葉が右耳から左耳まで、一度も止まらずに、高速で通過したようです。

 私が激昂すると予想していたらしいキララさんは、聞き逃していた失態にオロオロした私を見て、逆に戸惑いの表情を浮かべています。


 「えっと」


 「時に、金多さん、自分のサイコロは確認しないの?

 金多さんも確認してくれないと、ゲームが進行しないよ」


 「そ、そうですわね、申し訳ありません」


 狼狽えてしまった私に助け舟を出してくれた宇津路さんに、小さく頭を下げて謝罪をした私は大慌てで自分のサイコロの目を確認します。


 「うぇっ」


 「ちょ、マジにどうしたの、キララ!?」


 私が頸骨をへし折られた鶏のような声を漏らしてしまったからか、キララさんは本気で心配してくれます。


 「な、何でもありませんわ」


 「? なら、いいけどさ。

 ギンちゃんは、自分のポイントを使ってマリアのサイコロの目を教えて貰う?」


 (ちょっ、キララさん、余計な事を仰らないでください!!)


 さすがに、これは声に出せないので、私は心の中だけで叫び、同時に、宇津路さんがポイントを使わない事を大真面目に願ってしまいます。


 (どうして、私のサイコロも、1から5まで出ていますの!?)


 私のお椀の中で静止しているサイコロの目は、6以外です。


 「どうするの?」


 「いや、ここまで自分の勘だけで勝負してきたからね、この流れは崩したくないから、ポイントは使わないよ」


 「ふーん」とキララさんは普通に流しましたが、私としては気が気じゃありません。


 (もしや、宇津路さんがサイコロを使ったイカサマをしていた、と言うのは私の早とちり!?

 これまで、同じ数字が何度も出ていたのは、単なる偶然でしかなかったんですの!?)


 ついさっき、宇津路さんが、ご自身のサイコロの目を教えて下さった時、私は敗北を認めた宇津路さんが、「勝利」と呼ぶべき財を保管する宝庫の扉を開けてくださり、そこに意気揚々と足取りも軽く入っていく自分の姿を見ました。

 でも、自分のサイコロの数字を確認し、勝利を確信するに至った「イカサマの看破」、その根拠が揺らいだ今、私が見ているのは、宝物庫の扉に仕掛けられていたギロチンと、それを発動させるスイッチに指を密着させ、押す好機を図っている、冷たい笑顔を浮かべた宇津路さんの姿です。

 

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