罰ゲーム四個目⑯
半ば、白銀に急かされるような形で、勢いのままに「17」と答えてしまったマリア。
言ってから、白銀のサイコロの目を一つ知るために1pを消費してしまった事すら、彼女は後悔してしまう。
だが、消費ってしまってから、答えを言ってしまってから、「待ってくださいませ」など言えはしない。
白銀であれば、待ってくれる可能性がワンチャンあるかも、と期待が芽生えるからこそ、マリアは余計に言えなかった。
(宇津路さんの優しさに縋るなんて、金多家の人間として、情けなさ過ぎて出来ませんわ)
別に、金多家の名誉や財産を賭けて、この勝負に挑んでいる訳ではないのだが、マリアとしては譲れない部分があるようだった。
軽はずみな行動をしちゃいましたわ、と後悔する自分を、「しっかりなさい」と叱り飛ばしながら、マリアはお椀に被せていた紙を退かす。
「私のサイコロは1と6の目を出していますわ」
「俺のサイコロは、さっきも言った通り、一つが2、残りは3と5だね」
(つまり、1+6+2+3+5ですから・・・答えは)
いくら、マリアが学校の勉強が苦手なタイプの女子高校生であっても、小学生、いや、小学校受験に対する熱が増しているらしい昨今であるなら、幼稚園卒園間近の子供であっても計算して、正答を導き出せるレベルだから、間違えてしまうなんて、まず、有り得ない。
「17!?」
「そうだね、合計は17になるから、また、金多さんはドンピシャしたね。
おめでとう、2pだ」
白銀は涼やかな笑顔で、呆けてしまっているマリアに拍手する。
「今、金多さんは1pを消費したから、ポイントの合計は4pになったね。
大変だ、ポイント差が開いちゃったなぁ」
白銀の声には、負けに対する焦燥感の類が一切、滲んでいなかったのだが、今のマリアはそれを感じ取る余裕が無かったらしく、「私が二連続で的中させた?」と戸惑いを露わにしていた。
そんなマリアは、白銀が両手をパンッと強めに打った音で我に返った。
「ッッ!?」
「さぁ、次のターンと行こうか、金多さん」
「え、えぇ、ボケっとしてしまい、申し訳ありません、宇津路さん」
気まずげに頭を深々と下げたマリアに、白銀は穏やかな笑みを崩さぬまま、首を横に振る。
その動きには、やはり、現時点で負けている事に対する悔しさを感じない。
忘我状態から引っ張り戻されたマリアは、それに気付き、気を引き締め直した。
(2p差になったからこそ、油断は禁物ですわ)
何せ、相手は宇津路白銀なのだ。
勝った、と確信できるまで、気は決して緩めてはいけない。
そう、言い聞かせたマリアはサイコロを一つ、追加しようと手を伸ばすが、ふと、手を止めた。
(2連勝しているからこそ、ここは総取り換えするのもアリでしょうか・・・)
迷ったマリアがチラリと視線を向けると、白銀は「ご自由にどうぞ」と言うように手で促す。
どうしよう、と悩んだマリアだが、直感に従って、残っていた三つのサイコロ全てを手に取り、これまで使っていた二つのサイコロをそこに移した。
「「では」」
二人は三つずつ、計6個のサイコロを、それぞれの椀に放り込む。
(サイコロは2と3と5で、合計は10になりましたわね)
白銀のサイコロと合わせ、最小数は「13」、最大数は「28」になる、と計算したマリアは、続けて、ポイントをここで使うべきか、を考え始める。
(やっぱり、サイコロの目が一つでも判明すれば、随分と楽になりますわ。
いくら何でも、三連続でドンピシャは取れないでしょうけど、1pを取れれば、2p差は死守できますものね)
「宇津路さん、私、1pを使いますわ」
「OK。俺のサイコロの目の一つは6だよ」
(私が6を出さなかった分、宇津路さんが今度は6を出したんですわね)
これで合計の最小数は「18」になる、と解っただけでも、マリアは随分と気が楽になった。
(おっと、危ないですわ。
今さっき、油断してはいけない、と自分を戒めたばかりのですのに)
気を緩めかけた自分を再び戒めたマリアは、白銀にプレッシャーをかけるのを意識しながらジッと見つめた。
マリアほどの巨乳な美少女に凝視されたら、大抵の男は、思わず目を逸らしてしまうか、目に下品さが滲み出るものだが、白銀は夜の湖のように真っ暗だが、神秘的な美しさを感じさせる瞳のままだった。
むしろ、マリアの方が、彼と見つめ合う状況になり、照れてしまう始末になる。
「う、宇津路さんはどうしますの?」
「男なら、ここは勝負に出る・・・べきなんだろうけど、俺はヘタレだからね、このターンも温存するよ」
「翡翠さんに聞かれたら、間違いなく、情けないよって叱られますわね」
容易に、興奮する友人の様を想像でき、二人はつい、笑ってしまう。
「じゃあ、俺は22」
「私は・・・27にしますわ」
サイコロの目は、マリアが「2・3・5」、白銀が「6・5・2」だった。
つまり、合計は「23」になり、「22」と答えた白銀が近く、このターンは彼の勝ちになった。