罰ゲーム四個目⑭
(し、信じられませんわ、まさか、ほぼほぼ勘任せだったのに、私が当たりの数字を的中させられるなんて・・・
今日一日分の運を使い切ってしまった気がしますわね・・・・・・
いえ、よく考えると、こうやって、宇津路さんと二人きりで遊べている時点で、少なくとも、一週間分の幸運を消費してますわ、絶対に)
そんな取り留めのない事を頭の中で巡らせる事で、何とか、気持ちが落ち着きそうになっていたマリアだったが、それでも、歓喜の念は簡単に抑え込めるものじゃなかった。
(五歳の頃にコンクールで優勝した時よりも嬉しいですわッッ)
ブアッと勢いよく、両拳を天井に向かって突き上げたくなったマリア。
しかし、いざ、衝動的に腕を動かそうとしたタイミングで、彼女は急に冷静さを取り戻した。
(いえ、ここで喜ぶのは良くありませんわ)
今現在、ゲームの途中であるにも関わらず、喜びを露わにしすぎるのは、勝負を受けてくれた白銀に対して失礼、と思ったのも確かだが、マリアが喜びの感情を爆発させるのを堪えた理由は違った。
(ここで喜んでしまうのは、”敗北フラグ”ですわね、ルビィさん)
自分の友人である滝ヶ地瑠美衣のアドバイスを思い出したマリアは、固く握っていた両拳から力を抜いた。
そうして、昂った気持ちを鎮める事を意識しながら、天井を仰いで、息を吐く。
顔を前に戻したマリアは、瞳に闘争心を依然として燃やしていたが、焦りや驕りなどは一片たりとも滲んでいなかった。
自分の才能を見い出し、そのギフトを誰にも遠慮せず発揮できる場所とチャンスを与えてくれた尾々藤伊流子から、「怪物以上の怪物」、と称されるほどの観察力を有している白銀の眼は、マリアの精神状態を確実に見抜けていただろう。
マリアが冷静さを取り戻した、と判断しながらも、白銀が苦々しい表情に変わらなかったのは、ポーカーフェイスを維持するのが上手いからか、それとも、まだリードされているのは1p、焦るような時間じゃない、と考えているからなのか。
いずれにしろ、白銀の内心を読み切れず、それは仕方ない、と既に割り切っているマリアは、「さぁ、次のターンと参りましょう」とサイコロを手に取る。
冷静になっているからこそ、ここは挑発する、と大胆な行動に出たマリア。
あえて、私は貴方を挑発していますのよ、と伝わるような表情をしているのも、彼女なりに頭を使ったのだろう。
大半の相手に通じないであろう、そんな稚拙な煽りに、当然、白銀は動じない。
ここで、あえて、激昂する演技も彼には出来た訳だが、彼は彼で、自分の「睨み」の効果を自覚しており、また、キララからも、やんわりとではあるが、しっかりと注意されているので、不用意に身近な人間を睨まないように気をつけていた。
ある程度の期間、友情を築いているとは言え、自分がマリアを、演技であっても、キッと睨んでしまうと、彼女はスカートとパンツを、自身の名字に入っている色に汚してしまいかねない。
そうなったら、キララの衣服を貸せばいい、で済む話じゃなかった。
マリアの拙さの方が目立って、むしろ可愛らしさの方が際立っている挑発に、口元を緩ませないようにしながら、白銀は自分のサイコロを手に取る。
しかし、彼がそれをお椀の中に放り込む素振りを見せなかったので、マリアは眉を寄せた。
「さすがに、二連続で負けちゃったからね、サイコロを交換するよ」
途中で、サイコロを交換してはいけない、そんなルールにはしていなかったから、マリアは白銀の行動を止められない。
「金多さんも変えたかったら、どうぞ」
白銀から手で促され、マリアは迷う。
しかし、少し悩んだ彼女は、ハッキリと首を横に振る。
その際、巨乳《Hカップ》も大きく揺れたが、やはり、白銀は、その誘惑的な動きをする特大果実《Hカップ》を目で追いもしない。
「私はこのままで構いませんわ」
(今、流れが私に来ている気がします。
であれば、ここで、サイコロを変えてしまうのは悪手な気がしますもの)
自分が断る事で、白銀を不快にしてしまうのではないか、と懸念も過ったが、三つのサイコロを指で摘まみ上げた彼が「そう」と穏やかに頷くに留めてくれたので、マリアは安堵し、Hカップを撫で下ろす。
「では、参ります」
二人は、それぞれのサイコロをお椀の中に投げ入れる。
カランコロン、とサイコロが転がる音は紙が被せられたお椀の中で響いた。
(このターンはサイコロが五個。
最小数は「5」、最大数は「30」になりますわね)
さすがに、二連続でドンピシャを出しますわ、と無用な気合を漲らせたりはしないマリアは、自分のサイコロを冷静に確認する。
(また、「1」と「6」が出ましたわ・・・)
自分のサイコロの合計数が「7」である事を踏まえ、マリアは白銀のサイコロ三つが、何の目を出しているのか、を懸命に予想しようとする。
シンキングタイムは90秒と制限を付けられてしまった以上、悠長に考えてはいられない。