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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
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罰ゲーム四個目⑬

 マリアは、自分が、親友である翡翠や瑠美衣と違い、性格的に、他人とする勝負の類に向いていない、と自覚がちゃんと出来ていた。

 楽器の演奏や歌唱の技術を競うコンクールに参加する事こそあるが、それに対しても、マリアは他者を上回る、そんな気概は持っておらず、ただ、自分が積み重ねてきた努力を、ここで全て出し切る、そんな気持ちで臨んでいた。

 全力を出し切れるか、それは、楽な方向に逃げず、自分の続けてきた努力を信じられるか、端的に言ってしまえば、自分と「自分」の勝負だった、コンクールはマリアにとって。

 そんな心持ちじゃ勝てない、と憤慨する方もいるだろうが、実際、マリアは優勝を幾度もしてしまっているのだから、つくづく、一握りの天才だ。

 コンクールで優勝している、つまり、一番を目指している他者を蹴落として、その座に君臨している事は理解しているマリアは、自分が、世で言う「天才」であるのも受け入れていた。

 その上で、やはり、自分は他人と才能を競い合って、一つしかない席を必死になって奪い合う戦いへ飛び込むには向いていない性格だ、とマリアは自分を冷静に判断している。

 とは言え、このゲームから降参りる心積もりなど、マリアには、微塵も無かった。

 何が何でも負けたくない、と心の底で燃えるモノを感じ取ったマリアは、その闘争心と勝利への執着で冷静さを失ってしまわぬよう、自分に言い聞かせながら、白銀の一挙一動を凝視する。

 自分の観察眼ごときでは、「天才」どころか「怪物級」と称される白銀のそれに敵わぬのは、マリアだって百も承知。

 だが、その程度(・・・・)で諦めてしまったら、勝つ為に必要な光明まで見逃してしまう。

 

 (必ず、宇津路さんのサイコロの目を見破ってみせますわよ・・・)


 マリアほど、容姿が整っていて、何より、オッパイの大きい異性に、内心で猛る闘争心はさておき、凝視されたら、ほとんどの男子はドキドキしてしまい、目を逸らしたり、顔を真っ赤にしてしまう。

 しかし、自分の心の中で起きた激しい動き、つまり、激情を、キャンバスに絵筆でぶつけて、見た者の脳を揺さぶる、言葉に出来ないほどの感動を与える、いや、叩きつけてくる作品を生み出せるからこそ、白銀の精神構造は、普通の男子高校生のそれから大きく逸脱している。

 それはそれで、人間、いや、男子として大事なモノを喪失している証拠であるにしろ、彼はその欠落を気にしてはいない。

 むしろ、良い絵を生み出せるのだから、男子高校生として持っているべき、大事なモノくらい、平然と捨てられてしまうのだ。

 白銀に惚れている者からすると、彼の自分の心を省みない冷酷さに複雑な感情を抱くばかりだ。

 周りから、欠点がない、と思われている宇津路白銀だが、実際は、自分に向けられている恋愛感情を察するのは、てんで鈍い、そんなポンコツさも抱えていた。


 「さて、金多さん、そろそろ、コール、いいかな?」


 「・・・・・・今、そちらの方が、ポイント的にリードしているのですから、少し待つ余裕を見せていただきたいですわね」


 負けたくなくて、必死になっているマリアの台詞に対して、白銀はわずかに眉こそ寄せたが、それは不快さを露わにしたのではなく、友人の意外な一面を目の当たりにし、やや驚いたらしい。

 仄かに笑った白銀にドキッとさせられてしまい、マリアは闘争心があっという間に鎮静化させられそうになり、改めて、彼の怖さと、自分が白銀に恋愛感情を確かに抱いている事を自認する。


 「じゃあ、あと一分だけ待つよ、金多さん」


 「ありがとうございます、宇津路さん」


 マリアが深々と頭を下げると、白銀はゆったりと首を横に振り、「気にしないで」と告げた上で、言葉を続けた。


 「ただし、これから、毎ターン、熟考されすぎても困るから、サイコロを振ってから90秒以内にコールするってルールを追加してもいいかな?」


 「構いません」


 白銀の言葉は筋が通っていたので、マリアとしては了承するしかない。

 だからこそ、彼女は与えられた一分の猶予を無駄には出来ない、とこれまでよりも、懸命に、白銀を観察する、無言で。

 今の自分では「観察」だけで精一杯。

 会話などで揺さぶりをかけようとすれば、「観察」がお粗末なレベルになりかねない。


 (何より、私が話しかけても、宇津路さんはボロを出すと思えませんわ)


 「一分経過」と、白銀はマリアに凝視されている間、視線を外さなかった、右手首にしている腕時計の盤面から意識を切り離す。


 「じゃあ、金多さん、コールしてくれる?」


 「私の答えは・・・15ですわ」


 「俺は22」


 二人は同時にお椀に被せていた紙を退かし、サイコロを確認した。

 マリアのサイコロは「6」と「1」、白銀のサイコロは「3」と「5」だった。

 つまり、合計数は15。


 「!?」


 「おぉ、ドンピシャ、2pゲットだね、金多さん」


 ここで、まさか、自分が的中させられるとは思っていなかったマリアは硬直してしまい、声も出て来なくなっていた。

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