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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
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罰ゲーム四個目⑫

 いつになく、真剣な顔で悩むマリア。

 もっとも、当人は、真面目な顔をしているつもりだろうが、傍目から見ると、可愛らしさが三割増しになっているだけだった。


 (やっぱり、ゴチャゴチャと考えても仕方ありませんわね)


 これは思考の放棄ではない、と自分に言い聞かせ、もうちょっと粘った方が良いですわ、と言い聞かせてくる己の声を逡巡と共に振り払ったマリアは、大きく、一つ頷いた。

 もちろん、マリアのHカップは、どぷんっ、と揺れる。


 「コールする?」


 マリアの、その動作を見て、彼女が腹を括ったのを察した白銀は尋ねる、トグロを巻き、長く、先端が二股に割れている、紫紺色の舌をチロチロと動かす毒蛇を連想させる声で。


 「・・・・・・えぇ、コールしますわ」


 儚げな自信が、彼の声で揺らいでしまいそうになるマリアだったが、ここは踏み止まるべきですわ、と自分を励ます。


 「じゃあ、さっき、答えを外しちゃった金多さんからどうぞ」


 不安になっているマリアには、その煽りは抜群の効果を発揮する。


 「ありがとうございます」


 (その優しさ、必ず、後悔させてやりますわよ、宇津路さんッッ)


 苛立ちが表情に出ぬよう、自分を律しているからか、マリアの笑顔は崩れず、声も震えなかった。

 ただ、心をコントロールする技術が、まだまだ乏しいからか、マリアのHカップが小刻みに揺れてしまっている。

 却って、淫靡にも見える揺れ方だったが、やはり、白銀は一瞥もくれず、唇の両端をわずかに吊り上げる、余裕を感じさせる微笑みを携え、「どうぞ」とマリアにコールを手で促す。


 「10ですわ」


 マリアは、先程、白銀が一瞬、見せた躊躇、それに対する違和感を信じる事にしたようだ。


 「じゃあ、俺は8にするよ」


 「ッッッ!?」


 (先ほどは最大数をコールして、今回は最小数・・・)


 白銀に深い読みがあるのか、それとも、勘で言っているのか、判断が付けられず、マリアは、さすがに感情を隠しきれず、表情を変えてしまう。

 「狼狽」、その色を濃く、顔に塗りたくったマリアを鼻で笑ったりなどしない白銀は、おもむろに、自分のお椀に被せていた紙を退かす。

 それを見て、マリアも慌てて、自分のお椀の上から紙を取る。

 時間にすれば五秒もかからない動きだが、その間、マリアは自分の心臓の音が耳の奥で喧しく聞こえ、紙に伸ばした手からドバドバと汗が出てくるのを実感していた。


 (私のサイコロは6・・・宇津路さんのサイコロは?)


 ドキドキもしくはザワザワしながら、マリアは白銀のお椀の中を覗く。


 (1と・・・4!!)


 「合計は11だね」


 「私の答え、10の方が正解に近いから、つまり・・・」


 「このターンは、金多さんの勝ちだね。

 1pゲット、おめでとう」


 衝動的に、ガッツポーズを決めたマリアに、白銀は小さく、拍手する。

 白銀の顔には、悔しさも焦りも、この程度で歓喜よろこんだマリアへの侮蔑も、全く、滲み出ていなかった。

 ある意味、それが不気味なのだが、1pゲット、それを喜ぶのに一生懸命だったマリアは、白銀の顔を見ている余裕などなく、その不可解さを見逃してしまっていた。


 「さて、金多さん、愉悦よろこびたい気持ちも理解わかるけど、時間も惜しいし、次のターンに行こうか」


 「えぇ、参りましょう。

 次は、私が一個、追加する番でしたわね」


 マリアは脇に置いていたサイコロを一つ、指で摘まみ上げた。


 「・・・ではっ」


 次も勝ちますわ、と自分を鼓舞しながら、マリアは二個のサイコロをお椀の中に投げ入れる。

 サイコロの数が増えた事で、室内に響く、「カランコロン」と聞こえる音は大きくなった。


 「何の目が出たのでしょう・・・・・・ッッ」


 お椀に被せた紙を退かし、中を確認したマリアは息を飲みそうになり、何とか、堪えた。


 (片方が、また、6ですわ。

 双六であれば喜べますが、このゲームだと微妙ですわねぇ。

 もう一つの方は、1ですわね)


 合計が7である事を認識したマリアは、既に紙をお椀に被せ直し、微笑んだままで胸の前で腕組みをしている白銀に視線を向ける。


 (宇津路さんの場合、腕組みをしていても、自分の心を隠そうとしているのか、強者特有のムーブなのか、判断が付きませんわね・・・

 一つ、ハッキリしているのは、腕組みをしている宇津路さんはカッコいい、そこだけですわ)


 白銀を観察しても、何の情報も得られない状態から、現実逃避しそうになるマリア。


 (仮に、宇津路さんのサイコロ二つが、どちらも「1」であったのなら、正解は「9」になりますわ。

 ただ、絶対に有り得ないにしろ、ここで「1」のぞろ目が出る可能性は、何となく低い気がするようなしますわね。

 「6」のぞろ目であったなら、「7」と「12」で「19」になりますが・・・・・)


 悶々と懊悩するマリアに、白銀は口の両端を吊り上げる。

 自分が苦しむ様を見て、愉快そうにしている白銀に気付いたマリアは悔しそうに唇を尖らせた。


 (1pを取れたとは言え、今、宇津路さんにリードされている事には変わりませんわ)

 

 

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