罰ゲーム四個目⑩
(宇津路さんのサイコロは、どの目を出しているのでしょうか・・・)
マリアは、白銀の投げ入れたサイコロの目を予想すべく、お椀をジッと見つめてから、続けて、白銀の顔に視線を動かした。
彼女が、自分の顔を見てきているのを視線で察した白銀は、マリアを見つめ返し、穏やかに微笑んだ。
不意に見つめ合う状態になっただけじゃなく、白銀から微笑まれてしまったものだから、マリアは「ボフッ」と顔を赤くし、思わず、視線を逸らしてしまった。
そんな勢いよく、マリアのような巨乳×お嬢様の美少女に目を逸らされてしまったら、並の者であれば、自分が見過ぎだったのか、と不安になるか、逆に、却って、不快感を抱いていただろう。
けれど、人かつ男としての器が体躯に見合ってか、並外れてデカい白銀は、マリアとの付き合いも浅くない事もあって、その初心いリアクションに微笑ましい印象を抱いていた。
つい、恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった自分のヘタれさを恥ずかしく思いながら、マリアはこのゲームに勝つべく、冷静さを取り戻そうと、深呼吸をする。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す、その動作で、マリアのHカップは揺れるが、やはり、白銀は彼女の顔を見たままで、そこに視線を一瞬たりとも注がなかった。
改めて、彼の紳士さに感心しながらも、マリアは先程よりも悔しくなる。
自分の巨乳を、その辺りの容姿、資産、性格などのスペックが平凡な異性に見られる、それ自体は恥ずかしいし、素直に嫌なのだが、恋愛的な意味合いで「好き」である事を自覚した異性に、全く見られない、これもまた、女として歯痒かった、マリアとしては。
(色仕掛け、それは癪と言うか、性に合わない、いえ、恥ずかしいのですが、宇津路さんの動揺を誘えるのなら、試してみる価値はあるかもしれませんわね)
コンプレックスでもあり、メインウェポンでもあるHカップの内に、恋する乙女らしいモヤモヤを抱きながら、マリアは今一度、お椀の中にあるサイコロを見る。
(私のサイコロの目は6ですから、宇津路さんのサイコロの目を足せば、7から12になりますわ。
正直、ゴチャゴチャと考えても、私の頭では小難しい確率論を駆使して正解に辿り着けませんわ。
かと言って、私は、ヒスイさんのように勘が動物じみてもいません。
なら、直感に従うしかありませんわ。
実際、宇津路さんであっても、私の出た目を読み切れないでしょうし)
迷いを振り切るように、一つ、あえて、巨乳が「ブルゥンッ」と揺れるように、大きく頷いたマリア。
「どちらが、先に、自分の予想を言いますの?」
(ほんのわずかな差かも知れませんけど、答えを同じに出来る後攻の方が有利かも知れませんわ)
そんな事を勘繰りながら、マリアが問うと、白銀は少し考え込む素振りを見せる。
その顔が、やたら色っぽく、マリアは自分の頭の中にあった考えなどスッ飛ばし、ついつい、見惚れてしまいそうになる。
おもむろに、白銀が自分に向かって掌を向けていなかったら、マリアは、不審がった彼が呼びかけてくるまで、ややマヌケな表情のままで、彼を見つめ続けていただろう、確実に。
「今のご時世、レディファーストって言うと、女性蔑視だって怒られるかもしれないけど、俺にゲームを挑んできた金多さんの勇敢さに敬意を表して、選んでも良いよ」
明らかな上から目線、わざとらしすぎる煽りをする白銀。
キララであれば、それを察して、むしろ、自らもわざとらしく煽りに乗っかるか、冷静にスルーしていただろう。
だが、キララが抱いている「好き」に、決して劣らずとも、マリアはまだ、キララほど、白銀を相手にしたゲームに慣れてはいなかった。
そもそもが、相手に勝つ、相手を負かす、そういう残酷な事に向いていないのだ、マリアは性格的に。
だから、白銀の策通りに、カチンと来て、折角、取り戻しかけていた冷静さを、宇宙よりも遥か遠くにぶん投げてしまった。
「先攻を頂戴しますわ。
私の予想は・・・9ですッッ」
後攻の方が、相手の答えを先に聞く事で、自分の答えを変えられて有利かも知れない、と思っていたが、マリアは白銀にプレッシャーをかけたい、そんな苛立ちを根底に敷いた勝ちへの意欲を優先してしまった。
どんな勝負事に対しても、共通して言える事ではあるが、勝ちたい、その気持ち自体は大切であるにしろ、勝ち気を表に出し過ぎてしまうのは良くない。
いわゆる、負けフラグを自分で立ててしまっているのだ。
勝った、と思った時、そいつは既に敗北してる、ってヤツなのである。
もちろん、白銀はその真理を、自分の両頬を膨らませてしまっているマリアに告げなかったし、大体、そんな事を本当に思っているのかも読み切れない表情で頷く。
「俺の答えは12。
じゃあ、紙を同時に退かそうか」
(お互いに、最大の6を出している、と予測したんですの、宇津路さん?!)
マリアは自分の予想が当たっている事を願いながら、紙を退かす。