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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム四個目
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罰ゲーム四個目⑦

 白銀から、写真撮影の許可が快く出たので、早速、マリアは彼の描いた薔薇の絵をスマートフォンのカメラで撮影し始める。


 「これで良しですわ」


 少しでも、この薔薇の絵の美しさを切り取れるよう、マリアは苦心しながら撮影し、数十枚目で、ようやく満足が出来る写真を撮れた。


 「では、父に送ります」


 父のスマートフォンに、写真のデータを添付したメッセージを送信したマリアは一仕事を終え、「ほぉ」と息を吐き出す。


 「ところで、宇津路さん」


 白銀が絵を描いている姿と、彼の描いた絵を視る、そんな幸せな時間に浸っていたので、ついつい、忘れてしまっていたが、マリアは、ようやく、本題を切り出すに至れた。

 と思った矢先に、マリアのスマートフォンがメッセージを受信した事を、「リンッ」と知らせる。


 「え、もう、返信がありましたわ」


 お父様は今、商談の真っ最中であるはずなのに、と困惑しながら、マリアは父からのメッセージを確認する。


 「500万円で全て買い取りたいそうですわ」


 父が、予想以上ではあるが、冷静に考えれば、当然とも言える金額を提示してきた事を、マリアは白銀に、少し興奮しながら伝えた。

 男子高校生どころか、成人男性であっても、一瞬で得る事が不可能に近い金額を聞かされても、白金は一切、動じない。

 自分が描いた絵にそのレベルの金額が付けられる事は頻繁にあるので、慣れてしまっていた。

 また、白銀は自分の描いた絵に適した金額を払って欲しい、と芸術家であるなら当然の傲慢さ(プライド)を持ってはいるにしろ、元より、大金が欲しくて絵を描いている訳じゃないので、とんでもない金額が払われる事になっても、さほど、テンションが動かないのだ、昔から。

 金があれば、その分、良い画材を買えたり、絵を描くのに必要な経験を得る事が出来るので、あって困るものじゃない、と思っている程度だ。

 絵一本では食べていけず、副業に精を出している他の画家やイラストレーター、漫画家などが聞いたら憤死しかねないスタンスではあるが、白銀には、その我儘を貫き、周りの野次を飛ばしてくるだけの凡才を、瞬時に無言とさせられるだけの、「天才」の二文字には収まり切らぬ、怪物じみた才覚があってしまった。


 「じゃあ、お父さんに、いつも通り、『プラチナ』に、絵の代金を振り込んで欲しい、と伝えてくれるかな、金多さん」


 「了解ですわ」


 白銀が、自分の絵の取り扱いを一任している折葉おりは流子るこが営んでいる画廊の名を挙げると、マリアは頷き返し、その旨を父に伝える。


 「今日中に送金してくれるそうですわ」


 「なら、お父さんに渡しておいてくれるかな、これ」


 白銀から、数枚の絵を受け取ったマリアは枚数を確認し、「あら」と戸惑った。


 「1枚多いようですわ、宇津路さん」


 「金多さんは、いつも、俺の絵を高評価して、購入してくれるご贔屓さんだからね、その1枚はオマケって事にしておこうかなって」


 「そんな気を遣わずとも」


 「いいの、いいの」


 朗らかに笑う白銀に、マリアは恐縮しながら、オマケと称して渡された1枚を確認し、目を見張る。


 「まぁっ」


 そこに書かれていたのは、ビシッと、世界の第一線で活躍する職人が心血を注いで仕立てた、超を3つは付けたい高級品スーツで決めた、仕事モードの金多万太郎であった。

 娘である自分でも、一度ですら見た事がないような凛々しい父の戦う漢の顔に、マリアはただただ、言葉を失ってしまっていた。

 ようやく、気持ちが落ち着いてきたのか、マリアは、父の勇姿が描かれた一枚を含めた数枚を、慎重な手つきでケースに収納する。


 「父は大喜びしますわ、間違いなく。

 もしかすると、いえ、確実に、追加でこの絵の分を入金すると思いますわ」


 マリアの断言に、白銀は苦笑いを浮かべる。

 その追加入金を止めないあたりに、彼のプロとしての信念を感じ、マリアはますます、彼に好ましい感情を抱く。


 「ところで、金多さん」


 「何ですか、宇津路さん」


 「さっき、何かを言い掛けてなかった?」


 「あ、そうでしたわ」


 父が速攻でメッセージを送信してきたので、うっかり失念してしまったが、マリアは白銀に自分の要望を伝えようとしていた事を思い出し、パンっと手を打った。

 その拍子に、マリアのHカップはバルンッと揺れるが、白銀は彼女の目を見つめたままで、胸部には一切、視線を向けなかった。

 キララのものと似たような悔しさをHカップの中に感じながら、マリアは話を切り出す。


 「宇津路さん、私、恥ずかしながら、シュークリームを食べ足りないのですわ」


 「なら、もう一個、食べる?」


 すぐに、白銀が立ち上がろうとしたので、マリアは慌てて、制止する。


 「お待ちになってくださいませ。

 これ以上、私がシュークリームを食べてしまうと、キララさんを怒らせてしまいますわ」


 「まぁ、そうかな」


 「ですが、キララさんは、私ではなく、宇津路さんが食べたのなら、そこまで怒らないと思うのです」


 「・・・それで?」


 察しの良い白銀はピンと来たらしい。

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