罰ゲーム四個目②
「はい、何でしょうか、お嬢様」
「瀬戸さんに車を出して貰いたいわ」
「鶏田様の所ですか?」
「え、どうして解ったの?!」
マリアは、淳子が自分の行きたい所を一発で当ててきた事に驚いてしまう。
淳子とは長い付き合いではあるが、この勘の鋭さには、何度も驚かされる。
この程度の事で驚き、なおかつ、感情を表に出してしまう妹分に、淳子は呆れると同時に、その素直さを可愛らしい、とも思った。
「何故、解ったのか、と聞かれたのならば、それは、私がとても凄いメイドだから、と答えるより他ありませんね」
答えになっていない答えに、マリアは眉を寄せてしまう。
しかし、ここで質問を重ねても、淳子から、自分が納得できる答えを引き出せないのは、これまでの体験を基に考えれば火を見るよりも明らかだったので、マリアは新たな質問を飲み込む事にする。
淳子が、自分にとって頼もしい、姐御肌のメイドなのも確かなので、マリアは「なるほど」と頷くに留めた。
「では、お嬢様、お着替えを」
「到着いたしました、お嬢様」
キララが住んでいるマンションの前に到着すると、淳子は車を先に降り、ドアを開ける。
「ありがとう、淳子」
淳子に手を借りながら車を降りたマリアは、二人に微笑みかける。
「じゃあ、淳子、瀬戸さん、いってきます」
「お話が終わりましたら、ご連絡下さい。
すぐにお迎えに上がります」
淳子の言葉に頷き返してから、マリアはマンションのエントランスへ足早に向かうのだった。
マリアに深々と一礼して見送った淳子は車に乗り込むと、運転席の大男に指示を出す。
「露、近くの喫茶店で時間を潰してましょう」
「了解」
マリアの専属運転手でもあり、淳子の舎弟でもある瀬戸露丸は厳めしい顔で車を発進させた。
「あら、キララさん、いないのかしら?」
呼び鈴を二回、押しても、キララが出て来ないどころか、自分の声にインターホンで応答もしないので、マリアは戸惑いを隠せない。
もしかせずとも、キララは部屋にいないようだ。
「家を出る前に、一度、確認すべきだったかしら?」
つい、そんな事を口に出すマリア、しかし、今更だ。
かと言って、キララがいなかったから、もう帰る、と淳子に連絡するのも気が咎めた。
恐らく、淳子たちは時間を潰すべく、もう、どこか適当な店に向かってしまっているはずだ。
そこに、迎えを求めるのは、マリアとしては申し訳ない気分で巨乳が一杯になってしまう。
正確に言えば、「何故、屋敷を出る前に、鶏田様に電話連絡をしなかったのですか?」と、淳子に至極当然のお小言を言われたくなかっただけだが。
(一回、キララさんに連絡をしてみようかしら・・・)
もし、キララが、近所のコンビニに買い物へ行っているだけなら、ここで待っていれば済む話だ。
キララが、すぐに家に帰って来られないようなら、その時はどうにもならないので、淳子に叱られる覚悟を決めるしかない。
昨日のアレが、あまりにも強烈であったとは言え、自分のベタな失態にウンザリしながら、マリアはスマフォをバッグの中から取り出す。
そのタイミングだった、白銀が自室のドアを開けて、外の様子を窺うべく、顔を出してきたのは。
「あれ、金多さん?」
「う、宇津路さん、どうして、ここに!?」
「どうしてって、ここ、俺の住んでいる部屋だし」
「宇津路さん、キララさんと同じマンションに住んでいらっしゃったんですの!?」
「あれ、キララちゃんから聞いてなかったの?」
白銀は、キララの驚き具合を目の当たりにして、珍しく戸惑っているようだった。
ブンッブンッと首を激しく、横に振るマリア。
並の男なら、頭の動きに合わせて揺れるHカップに目が釘付けになってしまい、劣情を抱いたのが丸判りの顔になってしまっていただろうが、白銀はマリアの胸には視線を向けなかった。
白銀にとって、マリアは自分の友人の一人である以前に、大切なキララの親友だ。
なので、決して、下卑た性欲など湧き上がらないのである。
もっとも、そんな白銀の紳士性は、淳子からすると、キツい舌打ちをするものではあろうが。
「まぁ、わざわざ言うような事でもないか。
知られたところで、俺らは気にはしないけど、不純だのなんだのって言う奴はいるだろうしね」
「それは確かにそうですわ」
上流階級の家系に生まれたからこそ、人の心を持たぬ外道からの誹謗中傷が、どれほど、心を抉ってくるか、を知っているマリアは痛みを堪えるような面持ちとなった。
「キララちゃんに何か用なの?」
「用と言うほどのモノではなく、ちょっとお喋りをしたいなぁ、と思いまして」
友達とのお喋りであれば、スマフォでも事足りる。
にも関わらず、こうして、直に出向いたのには、それ相応の事情があるんだろう、と白銀はマリアの心情を慮った。
「キララちゃんなら、今朝、宮城さんから電話があって、モデルのバイトに行っちゃったんだよね。
けど、あと1時間くらいで帰ってくるはずだから、もし良ければ、俺の部屋で待つ?」