罰ゲーム1個目④
思っていたよりも、友情を重んじる、と言うより、ギンちゃんへの愛が私に負けないくらい強い友達たちにハリセンでシバかれるとは、この時のアタシは、ちっとも想像していなかった。
だから、玉子を無事にゲットできたアタシは、ギンちゃんに一言かけてから、お菓子売り場に向かおうとする。
「ギンちゃん」
「何、キララちゃん」
ドライカレーの具を何にするのか、考えていたっぽいギンちゃんは、私が名前を呼ぶと、すぐに、こっちを向いてくれた。
「アタシ、お菓子を先に買ってきていい?」
「いいよ。
途中で、玉子を割らないように気を付けてね」
「ちょっ、割らないよっっ。
アタシ、そんな子供じゃないってば」
ムッとしながら言い返すと、ギンちゃんは、明らかに、「いや、お子ちゃまでしょ」と言いたげな表情を、アタシに向ける。
普段、アタシとゲームをしている時は全然、考えを読ませないくせに、こういう時は解り易い。と言うより、わざと顔に出しているんだろう。
「割らないってば!!」
「・・・・・・不安だから、その玉子、カゴに入れてから、お菓子売り場に行って、キララちゃん」
ますます、ムカッとなったアタシだけど、ここで、ギンちゃんの機嫌を損なうと、あの美味しいオムライスを作って貰えなくなる可能性が、ちょびっとだけあった。
アタシも、それなりに料理はできる。
もちろん、カップラーメンにお湯を入れたり、レトルトカレーを電子レンジでチンする事を、料理とは言ったりしない、いくら、アタシだって。
でも、アタシが作る料理よりも、ギンちゃんの作る料理の方が、圧倒的に美味しくて、もう、自分じゃ料理を作る気にならないのよね。
ドライカレーを作って貰えないかも知れない、そんな不安が芽生え、アタシは我慢が出来る大人、と自分に言い聞かせ、アタシは持っていた玉子を、ギンちゃんが持っていたカゴへ入れた。
「お菓子も買い過ぎちゃダメだよ。
家にあるモノと被らないように、気を付けてね、キララちゃん。
あと、また、歯の詰め物が取れたら困るから、キャラメルとかはダメだからね」
「ギンちゃんが、ママみたいな事を言う!?」
すると、ギンちゃんは困惑の色を顔に滲ませる。
「キララちゃんみたいな、可愛いけど、やたら手のかかる、大きい子供を産んだ覚え、俺にはないんだけどなぁ」
「それ、褒めてる!? ディスってる!?」
思わず、アタシがツッコんでしまうと、周りから、クスクスと笑い声が上がる。
アタシたちは、そこまで大きい声で喋っていなかったけど、モリイはそこまで広くない店だし、時間的にお客さんも増えているから、普通に喋っていても、周りには、アタシたちの会話が丸聞こえだったみたいだ。
アタシは、また、顔から火が出そうになる。
「もうっ、ギンちゃんのバカッッ」
プンプンと頬を膨らませながら、お菓子売り場の方に大股で向かったアタシ。
そんなアタシを、ギンちゃんが楽しそうに見送って、精肉コーナーに向かったとは露知らぬアタシは、決意を新たにしていた。
(今度こそ、ギンちゃんにゲームで勝って、罰ゲームを受けさせてやるんだから!!)
自分が勝てそうなゲームは何だろうか、と考えながら選んだお菓子を持って戻ると、ギンちゃんは、「はい、お願い」と1パックの玉子を渡してきた。
ああは言いながらも、何だかんだでチェックはせず、ギンちゃんはアタシに好きなお菓子を買わせてくれるのである。
ママなら、絶対、半分くらいは、「戻してきなさい」と言ってくるのに。
ほんと、ギンちゃんは、アタシに甘いんだから。
無事に、玉子と他の食材を購入したアタシとギンちゃんは、モリイを出て、家に向かう。
そう、アタシとギンちゃんの住所は同じなのだ。
まぁ、怒られない内に、ネタバレしておくと、アパートが同じで、ギンちゃんの隣の部屋にアタシが住んでいる、それだけの話だけど・・・
けど、ぶっちゃけ、ここ最近は、自分の部屋は、大きな衣装室と私物の置き場と化している。気がする、じゃなくて、完全にそうなってしまっている。
何せ、学校やバイトが終わって、アタシたちが住んでいる「メゾン田行」に帰ってきたら、アタシは、まず、自分の部屋で制服を脱いで、シャワーを浴びたら、すぐに、ギンちゃんの部屋に行って、そこでご飯を食べたり、宿題をしたり、ゲームをしたりする。
それこそ、アタシの布団を、ギンちゃんの部屋に運び込んでしまっているから、自分で寝る事も、ほとんどない。
つまり、ギンちゃんとアタシは半同棲状態なのだ。
でも、彼氏彼女の関係じゃないのである、アタシたちは。
未だに、異性の友達止まりだった・・・