罰ゲーム三個目⑭
「そ、そんな・・・」
マリアは自分の敗北、ううん、ハッキリ言ってしまえば、完敗だ、これは、をすんなりとは受け入れる事が出来ないみたい。
愕然、その二文字のお手本みたいな顔は、完全に血の気を失ってしまっていた。
今、アタシは、マリアがギンちゃんに「バリチッチ」で負けたのを見ていたけど、それを見ていない人だったら、貧血を起こしている、と勘違いするレベルで青褪めてしまっていた。
しょうがないので、アタシは、親友のマリアに、ちゃんと、現実を突き付けてやる。
確かな友情を感じているからこそ、時には、非情にならなきゃいけないの。
「ギンちゃんの勝ちだよ、マリア」
「ッッッ」
アタシは、その言葉にビクンッと体を竦ませ、俯いてしまったマリアから目を逸らして、ギンちゃんの右手を取って、高々と上げさせる。
「ギンちゃんの勝ち」
「二回も言う事は無いと思うけど、キララちゃん」
勝者である事を大々的に示すように腕を上げられているギンちゃんは、気まずげな視線を俯いたままのマリアへ向ける。
だけど、アタシは審判だ。
であれば、ここは、きっちりしなきゃいけない。
ゲームの真っ最中は、両者がルールを守って公平に勝負しているか、を中立の立場で監視し、決着が付いたのなら、勝者を知らしめる、それが審判の仕事だ、とアタシは思っている。
とは言え、いつまでも、ギンちゃんの腕を高々とは上げてはいられない。
マリアに追い打ちをずっとかける、そこに対して、良心がチクチクと痛む。
それもあるけど、それ以上に、アタシが、ギンちゃんの手首をずっと握っているのが恥ずかしいの。
ギャルっぽくないって言われちゃいそうだけど、むしろ、ギャルだからこそ、好きな人の体に触れていると、ドキドキしちゃって、我慢が出来なくなっちゃう。
さすがに、ここで、ギンちゃんを押し倒せない。
まぁ、部屋で押し倒そうとしても、ギンちゃんには軽く捌かれちゃうだろうけど。
絵を描く事が関係あるかは微妙だけど、人間の筋肉や骨格とかを正確に把握しているギンちゃんは、目の前の相手が、肉体のどこに重心を置いているか、が視えているらしくて、しかも、その重心を外部から力を加える事でズラし、相手の体勢を呆気なく崩せてしまう。
基本的には、擦り傷も負わない程度に相手を転がすくらいで済ませる。
時々だけど、うつ伏せになるよう倒した状態で背骨へ圧がかかるように膝を乗せたり、肩と肘の関節を極めたりもする。
そして、稀に、痴漢や盗撮を認めなかった上に逆切れして殴りかかってくるクズには、その勢いが何倍にもなって自分へ返ってくるように、ギンちゃんは体勢を崩す、と言うか、放り投げる・・・いや、アレはもはや、地面へ急転直下させてるね。
大体の場合、そういう輩は、駆けつけたお巡りさんに、地面に強かに打ち付けられて、女を騙すのに使っていた自慢の顔が滅茶苦茶になった状態で病院に担ぎ込まれていた。
もちろん、アタシは、ギンちゃんを、その場から大急ぎで連れて、逃げちゃってる。
いくら、アタシを守ってくれたとは言え、ギンちゃんの名誉に傷は付けられない。
まぁ、そこから逃げる時は、ギンちゃんの手を握れるから、凄く嬉しいし、ラッキーと思ってるんだけど。
「さて、と」
名残惜しさしかないけど、アタシは「まだ、いいじゃん」と強請るアタシを心を鬼にして張り倒し、ギンちゃんの手首を握っていた手を離す。
そうして、まだ、激凹んでいたマリアに歩み寄り、傍らにしゃがみこんだ。
「マリア」
「き、キララさん・・・ごめんなさい」
「何が、ごめんなさい、なの?」
「貴女を宇津路さんの魔の手から救い出せませんでしたわ」
(あー、そう言えば、そうだっけ)
マリアが、そんな勘違いから、ギンちゃんに勝負を挑んだって事を思い出し、アタシは天を仰ぐ。
「キララさん?」
「ごめん、何でもないよ、マリア。
アタシの為に戦ってくれた、それは凄く嬉しい。
ありがとうね」
アタシとマリアは友情を強めの抱擁で、より深める。
「じゃあ、マリア」
「?」
アタシの方から抱き締めていた腕を解き、ニッコリと微笑みかけられたマリアは戸惑いながらも、何か嫌な予感がしていたみたいで、腰が引けつつあった。
運動神経は、瑠美衣と同等なレベルで酷いのに、危機察知能力は微妙に高いなぁ。
そんな事に感心しながら、アタシはマリアに、あるものを差し出した。
マリアは、差し出されたそれが何か理解らず、キョトン顔だったけど、ギンちゃんの方は察したみたいで、両腕を組んだままで天を仰いでいた。
ギンちゃんのリアクションで、マリアの不安はより増したみたいで、「何ですの、それ?」と声が震えている。
「罰ゲームを決めるカードだよ」
「え?!」
「マリアは負けたんだから、罰ゲームを受けなきゃダメでしょ?
あ、別に良いんだよ、罰ゲームを受けるのが嫌なら、拒否してくれても。
その場合は、金多家の看板に泥が塗られちゃうだけで。
パパとママは、どう思うのかなぁ?」