表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム三個目
46/110

罰ゲーム三個目⑬

 「んなっ!?」


 やっぱり、マリアは、ギンちゃんが、このターンでも「0」をコールしてくる、と完全に期待しちゃっていたみたいで、まさかの「1」コール、そして、成功に対し、表情を歪めた。

 アタシほどじゃないにしろ、可愛いんだから、そんな顔をするのはもったいないな、と思いながら、アタシは審判としての仕事をする。


 「ギンちゃん、コールに成功」


 アタシの言葉に小さく頷いたギンちゃんは無言のままで、左手を下ろす。


 「じゃあ、マリアのターンだよ」


 「・・・・・・」


 「マリア?」


 「は、はいっ」


 「マリアのターンだってば」


 「りょ、了解ですわ。

 ただ、ちょっと、水分補給をしても構いませんか?」


 他のクラスメイトならともかく、よりにもよって、ギンちゃんと、何気に真剣な雰囲気でゲームをしているんだから、喉がカラカラに渇いちゃうのも仕方がない。

 マリアが緊張する気持ちも、大いに共感できるアタシだけど、いくら、審判とは言え、勝手にOKを出す訳にもいかなかった。


 「ギンちゃん、構わない?」


 「もちろん」


 余裕のある動作で首を縦に振るギンちゃんだけど、一切、ニコリともしない。

 生半可な覚悟しかない人間なら、「もしかして、コイツも余裕がないんじゃ」と勘違いするような真顔だけど、アタシとマリアには、そうじゃない、と察せた。

 ギンちゃんが、いつもの微笑みを引っ込めているのは、マリアにプレッシャーをかける為だ。

 この時点で、相当に追い込まれている相手、しかも、巨乳の美少女に、そこまでやるか、手心を加えないなんて男の風上にも置けない奴だ、と罵る奴もいるかもしれない。

 でも、アタシは、ギンちゃんへの「大大大大大好き」って気持ちを前提にはしてるけど、ギンちゃんがプレッシャーを、マリアに与える事を責める気にはならなかった。

 ギンちゃんが、そこまでやるのは、自分とアタシの友達であるマリアを、そこまでするべき相手、と心から認めているからに他ならない。

 正確に言えば、マリア以外でも、ギンちゃんは、誰が相手でも、一瞬すら慢心しない。

 相手が刹那でも優位にならぬよう、自分を律して、勝つ為の手を堅実に打って、相手の勝ち筋を冷酷に潰していき、しっかりと勝つ。

 例え、子供がやるような、容易く、勝敗が決まるお遊びであっても、ギンちゃんは手を抜かない。

 アタシが惚れた宇津路うつろ白銀ぎんは、そういうカッコいい男なんだぞ。

 つまり、そんなギンちゃんに、LOVEなアタシは、めっちゃイケてるギャルって訳だね。

 ギンちゃんの凄さを、言葉じゃなく、心で理解しているのは、アタシだけじゃなく、マリアも同じ。

 自分が手を抜くべき相手じゃない、とギンちゃんに思われている事を察して、マリアは焦りや怯えが吹っ飛んだみたいで、ペットボトルを開ける手もまるで震えず、飲んだミネラルウォーターに咽るなんて醜態も晒さなかった。


 「お待たせしました。

 チッチッチッチッバリチッチ、1ですわっ」


 まぁ、気持ちが落ち着いたくらいで、コールが成功すれば苦労はない。

 「うぐぐぐ」と、マリアが変な声を出して睨むのは、ギンちゃんが上げている右親指。

 マリア自身も、右親指を上げてしまっているから、その場に出た数字は「2」で、マリアのコールは今ターンも不成立だ。


 (このゲーム、マリアに不利って言うよりは、ギンちゃんの方が優勢になっちゃうよね、どうしたって)


 高校生にして、絵を描く能力が大人のプロに匹敵するギンちゃんの観察力は、凄い、を光速で通過して、恐怖こわさすら感じちゃうくらい。もちろん、アタシは、ちっとも、ビビらないよ?

 間違いなく、ギンちゃんは、マリアの唇と親指の動きで、完全に、マリアが言おうとしている数字を読み切ってしまっている。

 しかも、ギンちゃんは、視覚情報に従って体を動かす反射神経も桁違いだから、マリアのコールを外し、自分のコールを成功させるために、親指も迅速に動かせる。


 (マリア、まぢでごめん。

 ギンちゃんが負けるトコを見たくないってのは本音だけど、依怙贔屓をしたつもりもないんだよ)


 いくら、マリアの耳が良くても、アタシが心の中でした謝罪は届かない。

 もっとも、ギンちゃんにターンが回っちゃって、ガチ集中しているマリアは、アタシが小声で謝っても、それは聞こえなかったかも、だけど。


 「チッチッチッチッバリチッチ・・・・・・3」


 ギンちゃんは、さっきまでとは違い、ほんの少し溜めてから、数字を口にした。

 その焦らしが、自分を落ち着かせて、このターンを乗り切って、首の皮一枚を繋ぎ止めようとしていたマリアを揺さぶったみたい。

 焦った事で、マリアは両親指を上げてしまい、ギンちゃんは、その動きに合わせるようにして、自分の右親指を上げていた。

 冷酷なようだけど、この場に出た数字が「3」である以上、勝ったのはギンちゃんで、負けたのはマリアだった。

 愕然、その単語を見事に表現しているマリアへ、ギンちゃんはニコッと笑って、親指を立てたままの右手を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ