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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム三個目
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罰ゲーム三個目⑫

 「くっ!?」


 まさか、初手から、ギンちゃんが「0」をコールしてくると思っていなかったようで、マリアは咄嗟に右の親指を上げる。

 運動、と言うか、割と反射神経が鈍いマリアにしては、素早かった。

 ギリギリもギリギリで、セーフと判定するには微妙なタイミングで上げた気もする。

 ただ、完全に、アウトだったか、と聞かれると、正直、アタシも自信がなかった。

 大大大大大好きなギンちゃんを見つける視力は、誰にも負けない、と断言できるけど、動体視力となると人並みだ、アタシは。

 何より、完全に誤解しているとは言え、マリアをアタシをギンちゃんの魔手から救いたいって一心で、ギンちゃんに勝負を挑んでいる。

 それを、アタシは嬉しい、と感じていた。


 (まぁ、悪者なギンちゃんの手に落ちたお姫様ポジってのも、それはそれで悪くない気もするけど)


 悪の組織の幹部っぽい、真っ黒い軍服に袖を通しているギンちゃんと、中世ヨーロッパのお姫様っぽいドレスを着ていて、なおかつ、手錠と口枷を嵌められている自分自身を脳内に思い浮かべ、アタシはついつい、涎を垂れ流しそうになる。

 ただ、今は、ギンちゃんとマリアが真剣勝負の真っ最中だって事を思い出せるだけの理性はあった。

 なので、アタシ自身でも、甘いかも、と思いはしたけど、直感に従う事にした。


 「セーフ」


 あからさまに、ホッとした表情になるマリアを見て、アタシは、思わず、妄想の世界にどっぷり浸り込みそうになった罪悪感で胸がキュッと痛んだ。


 (まぁ、ホッとしたくなる気持ちも共感わかるけどね)


 アタシ自身も、ギンちゃんが、アタシの判定に物言いをしてこなかったので、何気に安堵していた。

 

 「それでは、私のターンですわ」


 「そうだね」と、ギンちゃんは、意図的に自分の闘争心を昂らせているマリアに、淡々と返す。

 大したものじゃない、と自覚をしていると言ったって、意識して発した気迫っぽいものを、こうも華麗に受け流されてしまったからか、マリアは悔し気に、ギュッと下唇を軽く噛んでいた。

 それでも、勝つのは私、と自分を鼓舞したみたいで、「ふぅ」と苛立ちを打ち消すように息を吐く。

 

 (さすが、マリア)


 あの時は、相当に追い詰められていたから、教室でも泣いてしまっていたが、本来、マリアの感情を制御する能力は、かなり優れているんだと思う。

 お金持ちの家に生まれたマリアは、小さい頃から、そういう訓練をしているのかも。

 

 「チッチッチッチッバリチッチ・・・3ですわ」


 マリアは再び、自分の両親指を上げた。

 でも、ギンちゃんは、どちらの親指も上げなかった。

 つまり、場に出た数は「2」だから、マリアの「3」は不成立だ。

 ゲームは始まったばかりだから、連続で失敗してしまう事など珍しくも何ともないんだけど、『バリチッチ』以前に、誰かと勝負する、それ自体に慣れていないマリアは精神的なショックを受けたようだった。

 しかも、その相手が、ギンちゃんなのだから、感じるプレッシャーは相当に強いんだろう。

 そのギンちゃんは、マリアが愕然とした所を何の躊躇いなく、刺突せるのだ。

 先程とは違い、ギンちゃんはマリアをジッと見つめる事をせず、いきなり、コールを始めた。しかも、早口で。

 

 「チッチッチッチッバリチッチ0」


 「ッッッ」


 またしても、ギンちゃんは「0」をコールしたが、マリアもマリアで、ショックを受けた状態ながら、咄嗟に両親指を上げてのけた。


 「やるね、金多さん」


 ギンちゃんはマリアの反応を讃えたけど、当のマリアの耳と心に、その言葉が入ったのか、は微妙っぽかった。

 呼吸を乱しているマリアに、ギンちゃんは細い目を、ちょっとだけ開けたけど、その隙間から零れている光には威圧感も、同情の念も宿っていなかった。

 それは、シンプルに、理合に重きを置いて、計算高く、油断も慢心も抱かずに、獲物を確実に追い込んでいく捕食者の眼光だった。

 

 (ギンちゃんの場合、ライオンとか狼じゃなくて・・・・・・蛇っぽいよね)


 アタシは、ギンちゃんの舌が何気に長いのを思い出しながら、そんな印象を抱く。

 まぁ、そんな暢気な事を考えられるのは、アタシが、今、ギンちゃんの前に座っていないからかな。

 

 「チッチッチッチッバリチッチ・・・4ですわ」


 マリアは当然、両親指を上げたけど、ギンちゃんはどちらの指も上げなかった。

 またしても、コールを外してしまい、マリアの顔は絶望に歪む。

 

 (そんな弱気な表情を、ギンちゃんの前でしちゃダメだって、マリア。

 追い詰められても、ポーカーフェイスを取り繕わなきゃ)


 アタシの懸念は的中してしまい、ギンちゃんはまた、間髪入れずに、コールを早口で行った。


 「チッチッチッチッバリチッチ、1」


 もしかすると、ううん、確実に、マリアの頭の中には、「宇津路さんは、このターンも0をコールするかもしれない」って考えが芽生えていた。

 でも、それは、甘っちょろい期待でしかない。

 だから、マリアは両親指を上げず、ギンちゃんは右親指を上げた。

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