罰ゲーム三個目⑪
「その通り」と、アタシが両手で大きな丸を作ったのを見て、顎に手を当てたマリアは胸を張り、「当然ですわ」と偉そうにする。
「どうして、その察しの良さを、学校の勉強に活かせないのかな、アンタは」
「うぐぅッ?!」
アタシが、ついうっかり漏らしちゃった本音は、マリアにとって、相当に痛烈かったみたいで、どこから出したの、と思うような声を出し、その場に片膝を落とし、呼吸を荒くしてしまう。
乱れた息が、胸の揺れ方も不規則にし、マリアのHカップはよりエロさを増したのを見たアタシは、思わず、その乳に本気のビンタをくれてやりたくなる。
ギンちゃんに、「キララちゃん」と小声で制されなかったら、本当にやってたね。
「ルールは、ざっくりと言えば、こんな感じでいいかな、ギンちゃん」
「そうだね、あまり小難しい遊びでもないしね」
「ゲームを始まる前から、妙に精神へダメージを喰らった気がしますわ」
「一回勝負で良いよね、金多さん」
「ッッッ」
マリアは、ギンちゃんの言葉に表情を強張らせたけど、アタシの方も、ちょっとビックリしていた。
(まさか、ギンちゃんから、そんな事を言うなんて)
『バリチッチ』を何回もやるのが面倒臭い、と考えるギンちゃんじゃない。
多分だけど、一回勝負で白黒をつける事にした方が、マリアとしても勝負に集中できる、と判断したんだろうね。
神に誓うけど、アタシは、あくまで公平性を意識して、『バリチッチ』をゲームの候補として挙げた。
この『バリチッチ』は、学問や運動、絵画や歌唱と言った芸術系のゲームじゃないから、ギンちゃんも、マリアも、天に与えられた特別な才能を活用する必要もない。
確かに、マリアは一回もやった事がないけど、それが敗北に直結するとも思えなかった。
私としては、ギンちゃんが負ける所なんか見たくないけど、友人として、完全な誤解ではあるにしろ、アタシを心配してくれたマリアの優しさも無碍にはしたくない。
今更だけど、ギンちゃんとマリア、どっちを応援すべきなのか、アタシは頭を抱えたくなった。
そんな感じで、アタシが思い悩んでいる間に、マリアの方も腹を括ったみたいだった。
「構いませんわ、一回勝負で」
「・・・・・・俺はね、金多さんを友達だ、と思ってるし、キララちゃんと仲良くしてくれてるのも感謝してるんだ」
「は、はぁ」
「どうしたの、ギンちゃん、いきなり」
さすがに、アタシとマリアは戸惑いの表情を揃って浮かべちゃう。
「でも、勝負は勝負だから、手加減はしないよ。
勝つ気でやらせてもらうけど、良いよね?」
「良いよね?」と訊くギンちゃんの笑顔には、怒気や苛立ちこそ滲んでいなかったけど、その分、とんでもない凄味が宿っていた。
アタシだったら、間違いなく、こんな笑顔をギンちゃんに向けられたら、即効で土下座して、挑戦を取り下げるね。
でも、胆力の点で言えば、アタシと大差がないはずのマリアは怯みこそしたけど、ガタガタと震えながら、握った両手を前に出した。
「キララさんを必ず、アナタから救ってみせますわ」
(まず、そこからが勘違いなんだけどなぁ)
「じゃあ、勝負を始めよう。
先攻は、金多さんでいいよ」
「ありがとうございます。
ですが、その余裕が仇になりますわよ、宇津路さん」
「だといいね・・・キララちゃん、審判、よろしく」
「OK。
あ、そうだ、マリア、数字をコールする前に、『チッチッチッチッバリチッチ』って掛け声があるからね」
「了解ですわ、キララさん。
チッチッチッチッバリチッチ、2ですわ!!」
マリアは自分の親指を両方とも上げたけど、ギンちゃんが右の親指を上げたから、場に出た数字は3となり、マリアのコールは不成立になった。
「くっ、失敗しましたわ」
どうやら、マリアは未経験の不利性を取り除くべく、初っ端から、片方の手を下ろしたかったようだ。
攻撃的な考えそのものは間違っていないけど、そうは問屋が卸さない。
「じゃあ、俺のターンだね」と言いながらも、ギンちゃんは掛け声を言い始めず、ジッとマリアの目を直視する。
ギンちゃんの目は、柳の葉みたいに細いけど、妙な圧が出ている。
しかも、今は場が緊迫しているもんだから、感じるプレッシャーも普段より強く感じるはず。
マリアは、クラスや同学年どころか、この学校の中でも、ギンちゃんと正対して会話が出来る数少ない人間だけど、この状況で直視されると、喉元に槍先を向けられているような恐怖と緊張に支配されるんじゃないかな。
実際、マリア、泣きそうってか、目の縁に涙が溢れてるわ。
審判である以上、マリアに肩入れする気はないけど、さすがに、これは可哀想なので、アタシはギンちゃんに警告する。
「ギンちゃん、ターンが回ってから10秒以内にコールしないと負けにするよ」
そんなルールは無いし、そうならば、勝負を始める前に、アタシから言うべきだけど、ギンちゃんは「そうだね」と文句を言わずに頷いた。
「チッチッチッチッバリチッチ・・・0」