罰ゲーム三個目⑩
腰に手を当て憤慨するマリアの文句に、アタシは目を見張っちゃった。
「え、マリア、アンタ、『バリチッチ』を知らないの?」
「初耳ですわ、その『バリチッチ』とやらは」
「ちょっと、ギンちゃん、どうしよ。
マリア、『バリチッチ』を知らないってさ」
演技じゃなく、アタシは結構、マヂで慌てて、ギンちゃんに擦り寄っちゃう。
「申し訳ないですけど、アタクシ、由緒正しい金多家の生まれですので、庶民の遊びには詳しくないんですわ」
普段であれば、イラっと来るであろう、マリアのお金持ちムーブも、狼狽えているアタシはつい、スルーしちゃう。
ツッコミが来ると予想してたっぽいマリアは、アタシが華麗な受流しを決めた事で、逆に気まずそうにしていた。
「金多さんの通っていた小学校や中学校だと違う名前で呼ばれてたか、もしくは、本当に遊んだ事がないのかもね」
「・・・・・・マリア、あんた、友達がいなかったの?」
「ちょっと、キララさん、何ですの、そのムカつく憐み100%の無垢な瞳は?!」
金髪縦ロールが高速回転しそうなほど怒ったマリアを、ギンちゃんは、「まぁまぁ」と宥めてくれる。
「キララちゃん、そうゆう事はオブラートに包んで言わなきゃダメだよ。
時に、事実は人を酷く傷つけるんだからね」
「宇津路さんの方が、エグい事を言ってますわよッッ」
マリアはもう、涙目だ。
こんな時にアレだけど、マリアくらい、おっぱいが大きくて高飛車系のお嬢様が、精神的なダメージを喰らって浮かべる泣き顔って、可愛いって本気で思えちゃうよね。
「金多さんが知らない以上は、『バリチッチ』じゃ勝負は出来ないよ」
ギンちゃんの言っている事は尤もなので、アタシは他のゲームを考えようとする。
でも、その正論は、マリアの負けず嫌いに火を点けたみたい。
「いえ、一度、提示された勝負から逃げるのは、金多家の者として恥辱以外の何物でもありませんわ、宇津路さん」
「・・・・・・つまり?」
「この金多マリア、『バリチッチ』で正々堂々と勝負しますわ。
なので、キララさん、その『バリチッチ』のルールを説明してくださいな」
「本当にいいの、マリア?」
「この金多マリアに二言はありません」
凛々しく、巨乳を張ったマリアに、「おおっ」とアタシは敬意の声を発してしまう。
「まぁ、マリアが、問題はないって言うなら、いいか。
ギンちゃんもいいよね?」
「俺は構わないよ」
ギンちゃんが余裕を持って頷いたので、アタシはマリアに『バリチッチ』のルールを説明する事にする。
「と言ったって、そこまで難しいゲームじゃないよ。
バ・・・頭が良くなくても出来るしね」
「おバカと言ってくれた方が傷付きませんわ、キララさん」
「バカでも、ちゃんとした勝負になるゲームだから安心して」
「しっかり言い直す必要ありました!?」
「まずね、先攻と後攻を決めておくの。
これは、ジャンケンでも、コイントスでもいいかな」
「どっちが有利ですの?」
「え、特にどっちが有利ってのはないかも。
先攻と後攻を決めたら、お互いに、こんな感じの形に両手をするの」
アタシは、親指が上に来るようにして握り、ぴったりとくっつけた両手を見せる。
「こうですのね」と、マリアも同じようにする。
「・・・まさか、この状態で、パンチをぶつけ合って倒れた方が負けですの!?
美少女であるアタシが、圧倒的に不利ですわッッ」
「何、その野蛮な発想、怖ッッ
自分で自分を『美少女』って言うのもアレだけど、事実なだけに否定しにくいっっ」
アタシがマリアの斜め上過ぎる予想にドン引きする一方で、マリアの方はアタシの言葉で照れていた。
「一応の確認だけど、マリアは数を数えられるよね」
「宇津路さん、マリアさんのお顔をぶん殴っても構いませんこと?」
「それは勘弁してほしいかな。
キララちゃん、話が進まないから、煽りは程々にね」
「はーい。
冗談はさておき、ほんと、難しくないから、このゲーム。
自分のターンになったら、好きな数字、0から4の中から一つを言うの」
「0から4ですの?」
「そう、アタシとマリアの親指は合わせると4本だよね。
そのターンで、自分の親指を2本上げるか、1本上げるか、両方とも上げないか、は自由。
仮に、アタシが先攻で、自分のターンに『4』ってコールした時、アタシが自分の親指を両方とも上げて、マリアも両方の親指を上げちゃったら、何本になる?」
「4ですわ」
「コール通りに、場に4本の親指を立たせる事に成功したアタシは一勝を先取する。
そうしたら、アタシはどっちかの手を下げる。
ターンを続行するか、相手に渡すかは自由なんだけど、ギンちゃん、今回はどうしよ?」
「交代制にしようか、今回は」
「じゃあ、今回は交代制ね。
当然だけど、アタシの片手が減るから、言う数字は0から3になる。
マリアが自分のターンで、『2』って言った時、アタシとマリアで一本ずつ上げたら、マリアが一勝を取れる」
「では、先に自分の両手を下げられた方が勝者ですのね」