罰ゲーム三個目⑨
マリアのとんでもない発言に、アタシの方がパニックになる。
「ちょっ、マリア、正気?」
「キ、キララさん、その言い方、失礼ですわよ」
「そうだよ、キララちゃん。
そこは、本気?って聞かなきゃ」
「ちょっとぉっっ、宇津路さんも地味に失礼ですわね!!」
憤慨するマリアは、アタシたちをキリッと睨む。
当人は凛々しく睨んでいるつもりなんだろうけど、今イチ、迫力に欠けているのはご愛敬だ。
そんなマリアの効果がない威圧で、却って冷静になれたアタシは改めて聞き直す。
「本当に、マリア、ギンちゃんと勝負する気?」
「私は、宇津路さんの事を尊敬していますし、勉強を教えていただいているので感謝もしています。
しかし、私の親友に、あのようないかがわしい行為をさせているのであれば、許せませんわッッ」
「いや、マリア、あれは罰ゲームだって言ってるじゃん」
「例え、罰ゲームであっても、宇津路さんが、やらなくていいよ、と言えば済む話。
にも関わらず、キララさんに罰ゲームをやらせたのは、宇津路さんの中に、雄としての下品な欲望があるからです。
ですから、私が宇津路さんに勝ち、キララさんをその邪心から守りますッッ」
マリアの、アタシに対する友情がしっかりと伝わってくるだけに、アタシはその勘違いに対して怒り辛くなってしまう。
ぶっちゃけた話、アタシはアタシで、罰ゲームを楽しんでいる、と言うか、興奮しているだけに、尚更、マリアを止めるタイミングを掴み辛くなってしまう。
それなりに長い付き合いになっているので、マリアが頭に血を登らせ、勘違いに勘違いを重ねてしまったら、誰が何を言っても簡単には止まらない性格なのは、アタシも把握している。
チラリと、ギンちゃんを見れば、ギンちゃんも困惑はしているけど、既に、マリアの誤解を、今、解くのを諦める雰囲気を醸し始めていた。
視線に気付いてくれたのか、こちらを向いてくれたギンちゃんに、アタシはコクンッと首を縦に振った。
一瞬だけ、ギンちゃんは、ちょっとだけ、目を見開いたけど、アタシがもう一度、さっきよりも強めに首を縦に振ると、「仕方ない」と肩を落とす。
「勝負を受けるよ、金多さん」
一度、そうする、と決めたからだろう、ギンちゃんの長身からは強者特有のオーラが揺らめいていた。
アタシ同様に、マリアもそれを感じ取ったみたいで、一瞬、自分の逸りを後悔するような表情になったけど、すぐに気持ちを立て直した。
この辺りの精神力は、友人として尊敬できるんだけど、今は、素直に落ち着くべきだったよ、マリア。
アタシは、マリアに聞こえないよう、心の中だけで溜息を溢す。
「それで、マリア、ギンちゃんと勝負をするのは良いんだけどさぁ、アンタ、何で勝負する気なの?」
「!!」
アタシの質問にハッとしたマリアは、「少し考えさせてくださいませ」と熟考し始めた。
(何で勝負するかも考えずに、ギンちゃんへ喧嘩を売ったのね)
マリアの無鉄砲ぶりに、アタシは頭痛が痛くなってきてしまいそうになる。
ギンちゃんも、顔にこそ出していないけど、呆れているみたい。
「学問系、絵画系、運動系以外の勝負でお願いしますわ」
「自分が絶対に勝てない勝負はしない気!?」
「絶対に勝たなければならない以上、負ける可能性が高すぎるどころか、敗北確定の勝負は避けるのは定石ですもの。
真の強者とは、負ける戦いはしないものです」
「アンタ、勉強はてんでダメなのに、こうゆうトコだけ、妙に頭が回るよね」
「褒めても何も出ませんわよ」
「いや、褒めてないから」
今更ながら、マリアを止めた方が良い気もしたけど、このままにした方が面白そうだったので、アタシは制止の言葉を飲み込む。
「なら、カラオケの点数勝負も無しでいいかな、金多さん」
「うっ」とマリアが呻いたのは、自分が確実に勝てそうな勝負を封じられてしまったからだろうね。
けど、今、それらしい理屈を並べてしまった以上、ギンちゃんの言い分を却下できるはずがなかったみたいで、「構いませんわ」と胸を張るマリア。
(動揺の色が、目に出過ぎでしょ)
「なら、キララちゃんが何で勝負するか、決めて」
「いいの?」
「それが一番、フェアじゃないかな。金多さんも、それでいいよね?」
ギンちゃんの聞き方は穏やかだったけど、声には有無を言わせぬ圧じみたものが宿っていた。
だから、マリアはコクコクと肯くしか出来なかったみたい。
「そうだなぁ」
ギンちゃんの事は大大大大大好きだけど、マリアの事も親友と思っているから、ここで、ギンちゃんに肩入れするのは抵抗がある。
アタシはしばらく、Gカップの前に腕を組んで、首を傾げ、「うーん」と唸りながら、二人がどう勝負するか、を考える。
「じゃあ、バリチッチで勝負するのはどうかな?」
「バリチッチか、それなら、フェアかもね」
「でしょ。思いついたアタシを褒めていいんだよ、ギンちゃん」
「ちょっと、お二人だけで納得しないでくださいな。
バリチッチって何ですの?」