罰ゲーム三個目⑧
「いや、さっき、言ったじゃん」
「・・・・・・友達だからですの?」
「そうだよ、友達が泣くほど困ってるんだったら、助けるに決まってるじゃん。
ねぇ、ギンちゃん」
「まぁ、そうだね。
正直な所を言うと、俺はキララちゃんに、助けてあげて欲しいのってお願いされたからってのも大きいけど、友達だから助けたのは本当だよ、金多さん」
「ありがとうございます、お二人とも。
私、必ず、再テストで良い点を取って、お二人の友情に報いる、と約束しますわ」
やる気を漲らせるマリアに、アタシはニカッと笑って、拳を突き出す。
「ふぇ?」
でも、マリアは怯えた表情になっちゃった。
「キララちゃん、いきなりやったら、ビックリさせちゃうよ」
「宇津路さん、こういう時は、どうするのが正解ですの?」
「正解かはどうかは解らないけど、友達は拳をぶつけるかな」
「そうですのね」と驚きと嬉しさが混じった表情に変わったマリアは、おずおずと、アタシが突き出したままにしていた拳に、自分の拳をコツンッと当てた。
そんなこんなで、マリアは再テストに向け、ギンちゃんが用意した計画に沿って勉強を開始した。
もちろん、ギンちゃんは、やらせっぱなしではなく、毎日、マリアに進捗を確認し、その都度、的確なアドバイスをしていた。
ギンちゃんの指摘は的を射ているから、すんなりと理解が出来る。
だから、マリアも前の日には苦戦した問題も、その日の内にスラスラと解けるようになって、それが自身に繋がって、次の問題に挑むモチベーションを高めているようだった。
そんな風に身の入った勉強をして、地力を上げていた訳だから、当然、再テストは一発合格だった。
しかも、ギリギリとかではなく、結構、良い点だった。
これには、先生たちもビックリだったらしく、何度も答え合わせをしてしまったそうだ。
それはそれで、マリアに対して失礼な気もするけど、気持ちは共感るし、カンニングを疑わなかっただけマシかな。まぁ、そもそも、再テストだったのはマリアだけで、カンニングのしようもなかったんだろうけど。
アタシたちの顔に泥を塗らない為に頑張り、再テストで自分の力を発揮できた感覚はあったものの、まさか、そんなにも良い点を取れるとは思っていなかったようで、答案用紙を返され、点数を見たマリアは嬉しさのあまり、泣きだしてしまった。
そうして、泣きながら、思わず、席を立ってしまったアタシに迫ってきて、全力で抱き着いてきたんだよね。
思っていた以上に、マリアは力が強くて、肋骨と背骨が悲鳴を上げたよ、あの時は。
「ちょっと、聞いてますの、キララさん!!」
「ッッッ」
真っ赤な怒気を含んだマリアの大声に、アタシは回想から引き戻される。
Hカップなだけあって、ほんと、マリアの声は大きいだけじゃなくて、しっかりと通るんだ。
「何をボケっとしてたんですの?」
「いや、ごめん、ごめん。
マリアと初めて出会った時の事を思い出しちゃってたんだよね」
「はぁ!?」
「あの頃は泣きべそをかいてて可愛かったのに、今や、おっぱいに負けないくらい、態度もデカくなっちゃったね、アンタ」
「な、泣いてなんかいませんわ!!」
「いや、泣いてたよね、ギンちゃん」
アタシが話を振ると、一瞬、ギンちゃんは「ここで!?」と目を見張ったけど、すぐに苦笑いを浮かべ、無言を貫いた。
「う、宇津路さん、ダンマリは余計に堪えますわよっ。
って、アタシの事はいいんですの。
アナタ達、部室であんなことをしているなんて、不埒にも程がありますわよ!!」
「不埒なんてワード、日常会話で言われたの、アタシ、初めてかも」
「けど、不埒な行為をしてたのは事実だよ。
ごめん、金多さん、驚かせちゃって」
マリアに対して、深々と、ギンちゃんが頭を下げたのを見て、アタシは頬を膨らませちゃう。
マリアの方も、ギンちゃんに謝られた事で狼狽したのか、落ち着かない様子で、自分の金髪縦ロールをクルクルと指に絡ませていた。
「一体、どうして、部室で、あんないかがわしい事をしていたんですの。
もし、アタシの親友に無理強いをしたのであれば、宇津路さんでも許しません事よ」
キリッとギンちゃんを睨むマリアだけど、ぶっちゃけ、怖さが足りてない。
逆鱗に触れられた時のギンちゃんの睨みは、ほんと、冗談抜きで、おしっこが「ジョッバァァァ」って勢い良すぎなほど出ちゃうからね。
ギンちゃんに比べたら気合の足りないマリアの眼光で気も抜けたアタシは、「あれは罰ゲームだったの、マリア」と事情を説明し始めた。
「罰ゲーム?」
「そ、アタシはギンちゃんに勝負を挑んで負けて、罰ゲームを、このカードで決めて、出た命令に従った、それだけなの。
敗者が勝者の命令に従う、それは、この世界の摂理でしょ?」
「確かに、そうですわね。
でしたら、宇津路さん、アタシとも勝負していただきますッッ」
「「え?」」
「アタシが勝ったら、二度と、キララさんにあんな事をさせない、と誓っていただきますわ」