罰ゲーム三個目⑦
マリアへ、再テストの合格を含めた勉強を教えるにあたり、ギンちゃんは一度、彼女の実力を確認する事にした。
三十分ほど使って、ギンちゃんは小テストを作ったんだけど、何故か、アタシにも、その小テストを解いてくれるよう、頼んできた。
アタシは、どうにか、定期テストをクリアしていたから、マリアと違って、再テストを受ける必要はない。
なのに、どうして、小テストを今、解かなきゃいけないのか、と聞いたら、比較対象が欲しいらしい、とギンちゃんに言われてしまった。
ギンちゃんにお願いされたら、アタシとしては断れない。決して、追加で作ってくれるフルーツケーキに買収された訳じゃないよ?
この前のテストを参考にしているものだったから、アタシでも苦戦はしたけど、何とか、全部の解答欄を埋めて、89点を取れた。
まさか、ギンちゃんが作ったモノとは言え、テストで90点に迫る点数を取れるなんて、アタシ自身が思ってもいなかったから、ギンちゃんが採点してくれたそれを見て、アタシは嬉しいやら、驚いていいやら、解らなくなってしまったくらい。
アタシが戸惑っている一方で、マリアは一桁だったテストを受け取って、また、泣いちゃった。
多分、と言うか、確実に、マリアが泣いたのは、点数が悪かったからじゃなくて、こんなバカに勉強を教えなきゃいけないのか、バカに勉強を教える必要性があるのか、そう、ギンちゃんに思われるのが恐くなったからだろうね。
頑張っているのに結果を出せない自分が嫌いになる、そんな自分が周りに嫌われるのが恐いって気持ちは推し量れるけど、ギンちゃんをバカにしないでもらいたい。
ギンちゃんは、例え、マリアが想定外以上におバカちゃんであったとしても、一度、再テストに合格できるよう、勉強を教える、と引き受けた以上、相手を見捨てたりなんかしない。
ギンちゃんは、親しくない人からすると、笑っているのか、怒っているのか、判断が付かない、微妙に口の両端を吊り上げている表情で、緊張しているマリアに、間違えた問題に関して、どのような解き方をしたのか、を確認していた。時々、アタシにも、質問を飛ばして、マリアと考え方が、どう違うか、も比べていた。
そうして、粗方の確認を終えたのか、「ふむ」と呟いてから、スッとした形の良い顎に手をやって、考え込み始めた。
マリアは戸惑っているみたいだったけど、ギンちゃんと付き合いの長いアタシは、こういう時、ギンちゃんに話しかけない方が良いって知ってたから、マリアに「大丈夫だよ」と微笑みかけ、安心させてあげる。
少し不安そうな色を顔に滲ませていたけど、マリアはアタシに気を遣ってくれたのか、「そうですわね」と頷き返し、アタシとのお喋りに付き合ってくれた。
お嬢様なのにって言ったら偏見かも知れないけど、マリアは、結構、最近、流行りのドラマや漫画、音楽に詳しかったから、気まずい雰囲気にならず、楽しく喋れた。
アタシとマリアがハマってるラブコメ漫画の推しカプで盛り上がり過ぎて、喉が渇いてしまい、同じタイミングで冷めたローズティーを飲んだタイミングで、ギンちゃんは話しかけてきた。
もしかすると、とっくに、シンキングタイムは終わっていたんだけど、アタシたちの熱に水を差さないように待っていてくれたのかも知れない。
そんな事なんて、その時のアタシたちに、全く気取らせないで、ギンちゃんは、いつの間にか、タブレットで作っていたらしい問題をコピー機で印刷すると、その束をマリアに渡した。
「とりあえず、再テストは、これで何とかなるかな」
「さすが、ギンちゃん、仕事が早い!」
「再テストまで、この問題集を繰り返して解いて、解き方のコツを掴んで。
間違えてもいいから、理解する努力は投げ出さないように。
その後の事は、再テストに合格してからにしよう」
「ありがとうございます」
「気にしないで良いよ、マリア」
「いや、何で、キララちゃんが偉そうにするのさ」
ギンちゃんの間髪入れない鋭利きツッコミに、思わず、「あはっ」と笑っちゃうマリア。
慌てて、平静を取り繕うけど、一回、笑いで緩んだ雰囲気は、そう簡単に締まり直すものじゃなくて、皆の笑い声が重なった。
「で、でも・・・」
「何、マリア、ギンちゃんが、ここまでやってくれたのに、不安なの?」
つい、アタシが剣呑な気迫を出しちゃったからか、マリアの両目が潤む。
それを見て、「ごめん」とアタシが謝ると、マリアは更に気まずそうにする。
「金多さん、思っている事があるなら、遠慮せずに言って。
俺らは金多さんを、もう、友達と思っているからさ」
「そうだよ、マリア、アタシたち、もう、親友じゃん」
アタシたちの言葉で、マリアはますます瞳を潤ませたけど、何とか堪えて、疑問をぶつけてきた。
「どうして、お二人はここまでしてくれるんですの?」
きっと、ここで、マリアが「お金が目当てですの?」って続けてたら、アタシはグーパンしてたね、顔面に。