罰ゲーム1個目③
「じゃあ、キララちゃん、そろそろ帰ろうか」
ギンちゃんは、お菓子の空箱やトランプ、自分の勉強道具を机の上から片付け、帰り支度を始める。
なので、アタシも急いで、ノートや筆箱、水筒とかをバッグに詰め込んだ。
「キララちゃん、貸して」
そう言って、ギンちゃんは私のパンパンに膨れ上がったバッグを受け取るように、右手を出してきた。
「え、大丈夫だよ」
「今日は、的場先生とリュー先生が、たくさん、課題を出したから、教科書とか辞書を持ち帰らなきゃならなくなって、バッグ、いつもより重いでしょ。
可愛い女の子に、重いモノを持たせちゃダメでしょ、男として」
パッと見はナヨナヨした見た目のギンちゃんは、その実、毎日、5kgのダンベルで鍛えているから、結構、腕力があるのだ。
袖を捲ったギンちゃんの腕を触ると、そこまで太くないけど、がっしりと男らしい筋肉が付いているのが、ちゃんと分かるのだ。それに、ギンちゃんは腹筋も、何気に割れていて、アタシのパンチなんて効かないくらい、カッチカッチなんだぞ。
(そういう優しさがズルい・・・)
ギンちゃんの優しさに、私はほっぺたが熱くなってしまう。
きっと、今のアタシは、真っ赤な顔で、頭から真っ白い湯気を出しているんじゃないだろうか。
男に甘えるな、優しさには裏がある、とガナってくる、アソコに蜘蛛の巣が張っていそうなオバさんを意識から蹴飛ばして追い出しながら、アタシは「ありがと、ギンちゃん」と笑顔でバッグを受け取って貰う。
校門を出たアタシとギンちゃんは、ゆったりとした足取りで、今日あった楽しい事を話題にしながら家に向かう。
ギンちゃんがアタシの歩くペースに、さりげなく合わせてくれているのが嬉しくて、アタシは出来もしないスキップをしたくなる。
「ギンちゃん、今日の晩御飯はなぁに?」
「まだ決めてないかなぁ。
モリイさんに行って、決めるつもり。
今日、モリイさん、玉子が安いんだよね」
「じゃあ、アタシ、オムライスが食べたいな、ギンちゃん」
「なら、今日はオムライスにするね」
「やった!!
ギンちゃんのオムライス、ふわとろで美味しいから大好きなんだ、アタシ」
ピョンピョンと、その場で軽くジャンプして、喜悦を表現したアタシに、ギンちゃんは優しく微笑んでくれる。
「オムライスの中身は、チキンライスでいい?」
「今日は、ドライカレーの気分」
後で、この時の会話を、何の気なしに、友達たちにしたら、我儘が過ぎますわ、甘えすぎだよ、何様ですぞ、とマジトーンで叱られてしまった。
そんな風にお説教をされて、ケチョンケチョンに甚振られ、アタシは深~~~く反省したよ、さすがにね。
だけど、納得がいかない事もあったから、アタシは止せばいいのに、友達に反論した。
皆、せめて、言い訳くらいはさせてほしいの。
確かに、アタシは、我儘な事を言ってる。
でもさ、ギンちゃんだって、悪くない?
ここで、ギンちゃんが、「え、面倒臭いなぁ」と言ったり、それを顔に出していたら、アタシだって、「チキンライスでいいよ」と言ったに決まってる。
でも、ギンちゃんは、そんな素振りなんか、全く見せないで、「ドライカレーだね」と、アタシの我儘を笑顔で受け入れたんだよ。
アタシに遠慮をさせないギンちゃんにも非はあるよね?
・・・・・・え、ない、全く?
ここには、アタシの味方が一人もいなかったよっっ
そんなこんなで、アタシたちは、いつも、買い物に使っている、近所のスーパーマーケット「モリイ」に到着した。
ギンちゃんは、店内用の黄色い籠を持って、まず、玉子を取りに向かう。
アタシは、お菓子コーナーに行こうかな、と思ったけど、玉子はおひとり様一個までみたいだから、ギンちゃんのためにグッと我慢し、アタシも玉子を取りに行った。
ほら、アタシだって、ギンちゃんの役に立ってるじゃん。
ギンちゃんは、この時、ちゃんと、アタシに、「キララちゃんが一緒に来てくれて助かったよ」と言ってくれたんだから!!
ちょっ、皆、どっから、そのハリセンを出したの!?
バカな事を言う友達にお仕置きをするのも、友情って、暴論が過ぎない!?