罰ゲーム三個目⑥
「落ち着いた?」
「ありがとうございますですわ、鶏田さん」
「鶏田さんって固いなぁ・・・キララでいいよ」
「では、キララさんと呼ばせていただきます。
私の方は、気にせず、マリアと呼び捨てしてくださいませ」
「OK、マリア」
この時、私とマリアは友達になった。今は、友達って言うより、ライバルって表現した方がしっくり来る間柄になったけど。
「それで、どうして、マリアは、教室で泣いてたの?」
「実は、私、勉学がすこぶる苦手ですの。
本日、テストが返却されたでしょう?」
「うん、返って来たね」
アタシはギンちゃんが勉強を教えてくれたおかげで、割と良い点が取れたから、さほど、気分が落ちずに済んでいた。
「そのテストの点数が・・・・・・」
「絶望的に悪かった訳ね」
「ハッキリと仰らないでくださいませ」
弱々しく言い返してきたマリアの落ち込みっぷりに、アタシは思わず、「ごめん」と真面目に謝罪ってしまう。
「テストの点が悪かったので、当然、再テストを受けなければいけませんの、私」
「まぁ、そりゃ、そうだろうね」
「でも、その再テストでも、私、合格点を取れる気がちっともしませんの」
「なるほど、それで不安になって、教室でシクシク泣いてた、と」
アタシは、力なく頷いたマリアの揺れたおっぱいを見ないように、天井を渋い顔で見上げた。
(金多さんっつーか、マリアが勉強が全然、出来ないってのは噂に聞いてたけど、この凹みっぷりからして、アタシよりおバカなんだなぁ)
これで、マリアが、自分の勉強が出来ない所を悪い意味で気にせず、良い成績を家の財力と権力で強引に買おうとするお嬢様だったなら、アタシは助ける気を失って、即座に、この部室から叩き出していた。
でも、マリアは、自分が、どれだけ勉強をしても結果を出せない事を気に病み、それでも、努力を諦める気になっていないのを感じ取れるから、アタシは見捨てられない。
「・・・・・・じゃあ、ギンちゃんに頼ったら良いよ」
「え? 宇津路様を、ですか?」
「う、宇津路様!?
なんか、ギンちゃんが、様付で呼ばれると、アタシがむず痒くなるなぁ」
「彼は、様を付けられても、何ら不思議ではありませんわ。
とっても有名ですもの」
「有名ってのは、見た目があんな感じで派手で目立つから? それとも、才能の方で?」
「両方ですわ。
私も、本人に会ったのは、この学校に入学してからが初めてだったので、あのように、刺々しいと言うか、尖がった感じの見た目なのにはビックリしましたもの。
けど、逆に、あのように枠に囚われない外見の方だからこそ、芸術の女神からの寵愛を独占しているのだ、と納得しましたわ。
私の家にも、お父様が購入した宇津路様の作品が五点ありますし、その内の一点は、私の部屋に飾られてますの」
「マリアの家族もお気に入りなんだってさ、ギンちゃん」
アタシは、丁度、キッチンから戻って来たギンちゃんを揶揄う。
「金多さんのお父さんのお眼鏡に適ったなら、光栄だねぇ」
飄々とするギンちゃんだけど、その実、本当に嬉しそうだった。
「ローズティーとシフォンケーキ、金多さんのお口に合えば良いけど」
「いただきますわ」
アタシでも上品だ、と感じる動作で、ギンちゃんの淹れたローズティーの香りを堪能し、ほのかな甘味を楽しむマリア。
(本当に、お嬢様なのね)
「シフォンケーキも、とても美味ですわ。
お父様たちにも食していただきたいので、どこのお店で購入したか、教えていただけますか?」
「これ、ギンちゃんの手作りだよ、マリア」
「まぁ、このシフォンケーキは、宇津路様の手作りなのですか?!」
「今日も美味しいよ、ギンちゃん」
「ありがとう、キララちゃん。
金多さんも褒めてくれて、嬉しいよ。
まだ残っているから、プレゼントするよ」
「え~、アタシも食べたいのに」
「キララちゃんには、あとで他のお菓子を作ってあげるから、我慢して」
「やった!!」
「それは、ちょっと羨ましいですわ」
アタシが、ギンちゃんにお菓子を作って貰えると知り、マリアは可愛らしく、桜貝色の唇を尖らせる。
「やだっ、申し訳ありません、不躾な事を」
つい、無意識に漏れちゃったらしい自分の食欲まみれの言葉に、マリアは頬を赤らめ、恐縮する。
「じゃあ、そのお菓子を食べるついでで、この部屋に来て、ギンちゃんに勉強を教えて貰えばいいんだよ、マリア」
「え!?」
狼狽するマリアを他所に、アタシはギンちゃんに彼女の抱えている悩みを相談し、再テストで合格点を取れるように、勉強を教えてあげて、とお願いする。
最初は、状況を飲み込めないのか、それとも、アタシたちに遠慮しているのか、は解らないけど、あわあわしていたマリアだったけど、アタシが背中を押した事もあって、最終的には、自分から、ギンちゃんに「私に勉強を教えてくださいませ、宇津路様」と、わざわざ、椅子から立ち上がって、深々と頭を下げてお願いしていた。
もちろん、ギンちゃんは笑顔で快諾してくれたよ。