表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム三個目
35/110

罰ゲーム三個目②

 この高校に入学して、美術系の才能がある、もしくは、興味がある、単に絵を描く事が好きって一年生には、二つの選択肢が用意されている。

 第一、第二、第三、と三つの美術部があるのに、二つ? って思った人もいるかもだけど、ちょっと、このGカップで可愛いギャルなキララちゃんのお話にお耳を貸してくれたら嬉しいな。大丈夫、借りたお耳は、ちゃんと、木工用のボンドでくっつけてあげるから。

 ざっくり言うと、第一はねぇ、ガチタイプの集まり。

 芸術、絵画とか彫刻系の大学に行きたい生徒は、第一美術部に入る。

 正確に言えば、この第一美術部に入部するのを目的にして、この高校に入ってきてるんだよね、アイツら。

 この高校の校長の尾々びびとう伊流子いるこ(56)、通称はヴィービルちゃん、は自分も結構、有名な画家で、世界的に名が知られている。

 ヴィービルちゃんが20代でフランスの田舎で描いた森の絵を、アタシも美術館で見た事があるけど、凄く綺麗だった。

 木の葉とか屋根の緑系の色が、凄く爽やかで、ヴィービルちゃんが、この絵を描いている時に、フランスの田舎で吹いていた爽やかな風を、アタシは頬に感じた気がした。

 普段、ボキャブラリーが貧弱ってのを、アタシはあんまり気にしないけど、この絵の綺麗さを、言葉で上手く説明できない時は、メチャクチャ悔しくて悶えちゃったくらい。

 その感情と感想を会った時に伝えたら、ヴィービルちゃんは、涙が出るくらい大笑いして、どうにか落ち着いた後、「そう言ってくれるのが、一番、絵描き冥利に尽きるわね」と親指を立ててくれた。

 そんなヴィービルちゃんを慕っている画家や彫刻家は、世界中にたくさんいる、とギンちゃんは言っていた。

 ヴィービルちゃんは、自分が絵を描く事にも、とんでもない熱量エネルギーを持っているけど、若者たちを鍛える事にも、かなり気合を入れている。

 若者たちが、自分達の才能を本気の努力で伸ばし、火花を散らすほどに全力でぶつけあい、開花させる事が好きらしい。

 校訓が「切磋琢磨」なのも、その辺りが影響しているんだろうな。

 まぁ、半分、いや、八割くらいは、そんなエネルギーに満ち溢れている高校生の、毎日の地味な努力やコンクールでの順位争いが齎す成長で、自分のやる気に刺激を与えたいってのもあるって、ギンちゃんは見抜いていた。

 それを真っ向から、ギンちゃんに指摘されても、ヴィービルちゃんは楽しそうにニヤニヤ笑って、一切、否定しなかった。

 だから、そんな我儘で自己中心的な、ある意味、芸術家のお手本であるヴィービルちゃんに、教師や講師をやって、と笑顔でお願いされた芸術家が、この高校には臨時の教員として、結構な数、雇用されている。

 つまり、第一美術部に入部するのを目当てで、この高校の試験を受ける中学生は、その芸術家たちの指導を受けたい訳ね。

 前に、ヴィービルちゃんと一緒に、町の食堂「うみねこ」でお昼を食べている時、「ヴィービルちゃんは、どうして、普通の高校の校長をやっている?」って聞いた事がある。

 や、だって、アタシの大好きなギンちゃんがリスペクトして、ギャルなアタシですら感動しちゃう、メッチャ綺麗な絵を描ける人が、どうして、美術系の学校のじゃなくて、普通の高校で校長をやってるのか、謎じゃん、不思議じゃん、ミステリーじゃん。しかも、わざわざ、ガッツリと力を入れて、未来の大物を育ててるんだからさ。

 そしたら、ヴィービルちゃんは、天丼をかっこみながら、「普通の高校で、ド級のバケモノを見つける方が楽しいじゃん」って答えてくれた。

 なるほどなぁ、とアタシはオムライスを食べながら納得しちゃった。

 そっち方面の学校に通っている生徒は、最低ラインが「秀才レベル」だから、何歳になっても、自分を成長させて、満足できる絵を描きたい、死ぬまで発展途上なヴィービルちゃんくらいの才能があると、普通の高校で、若者たちを競い合わせて、才能を育てる方が生き甲斐を感じるのかも知れない。

 それを、マンションに帰ったアタシから、晩御飯を食べた後に聞いたギンちゃんは洗い物をしながら溜息を漏らしていた。

 ヴィービルちゃんにロックオンされたギンちゃんからすると、溜息の一つくらいは吐きたくなるんだろうね。

 最初の方で、一年生には、入学した時、二つの選択肢があるってアタシは言ったけど、実際のとこ、第一美術部に入れるのは、才能とやる気がある人だけだ。

 別に、えげつない審査の入部試験がある訳じゃないけど、単に絵が好きだけだと、あのピリピリとした空気には、マヂで耐えられないと思う。

 好きな事が楽しくないってのは辛いよ、うん。

 だから、中学校で美術部に入ってて、絵を描くのが楽しかったから、この高校でもそうしよって一年生は皆、第二美術部を選ぶね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ