罰ゲーム三個目①
「な、何をやってますの、アナタ達?!」
引っ繰り返った声に、アタシが驚いて、部室の入り口を見れば、そこに立っていたのは、アタシのよく知っている奴だった。
でも、そいつが浮かべている表情は、これまで見た事がない、「驚愕」って二文字の良いお手本になりそうなもので、見られてしまって大ピンチだって状況なのを忘れて、アタシは思わず、笑ってしまう。
「フフッ」
「いや、キララちゃん、笑っている場合じゃないよ」
そう言いながらも、ギンちゃんは全く動じていないようだった。
こんな状況でも、まるで狼狽えないなんて、さすが、アタシの惚れた男。
そんなギンちゃんの冷静っぷりに、そいつは逆に動揺したみたいだった。
「宇津路さん、アナタも、どうして、この状況で、そんなに落ち着いているんですの!?」
「パニクってるねぇ、マリア」
「まぁ、この状況を目の当たりにしたら、普通は、こういう反応をするんじゃないかな、キララちゃん」
ギンちゃんの言葉に、アタシは、確かに、と頷く。
部室の扉を開けたら、女子が汗だくでスクワットをしていたら、アタシだったら、どんなリアクションをしただろう。
仮に、全く知らない相手だったら怖いが、クラスメイトだったら、一瞬は驚いても、「筋トレか、ダイエットかな」って考えに到って、気持ちが落ち着いたかもしれない。
ただ、今、この状況は、単に、女子が部室の中でスクワットをしていたって訳じゃない。
まず、クラスメイトの男子が床に寝転んでいるってのが異質だ。
言うまでもないけど、その男子は、アタシの大好きなギンちゃんね。
その男子、ギンちゃんの顔にクラスメイトの女子、これがアタシね、が跨るみたいな感じでスクワットをしている。
もう、この時点で、異様って表現の枠に収まり切らなくなっている感じだね。
その上、女子が自分で、ただでさえ短くしているスカートをたくし上げた状態、つまり、パンツが男子から丸見えの状態でスクワットをしていたら、アタシでも、こいつみたいに驚き、みっともなく喚いちゃうに決まってる。
こいつと同じリアクションをするのは癪だなぁ、とムカついてくるアタシ。
そんなアタシに、ギンちゃんは足元から声をかけてくる。
「キララちゃん、まだ、30秒しか経ってないよ」
ギンちゃんの言葉にハットしたアタシは、慌てて、スクワットを再開した。
ちょっとキツくなってたけど、アイツが登場したおかげで、少し休めたのはラッキーだった。
これなら、もう1分、スクワットを頑張れそう。
ほんと良かった、罰ゲームの内容が、「スカートをたくし上げ、パンツを勝者に見せた状態で、1分30秒、スクワットをする」ってやつで。
もしも、これが、「スカートをたくし上げ、パンツを勝者に見せた状態で、100回スクワット」だったら、アタシの下半身はお陀仏だった。
ちなみに、カードには書かれていないのに、ギンちゃんの顔に跨るような形で、アタシがスクワットをしているのは、どSスイッチの入ったギンちゃんに、そうするように命じられたからだ。
アタシへ羞恥と恥辱に基づく快感を上乗せさせるなんて、ほんと、ギンちゃん、シビれるなぁ。
恥ついでに明かすと、今回、アタシは、トランプタワー作りで負けた。
どっちが先に、五段のトランプタワーを作れるか、のスピードを競う勝負だった。
事前に、アタシは何度も練習を繰り返して、スピードは落ちてしまうけど、一度も崩さずに五段を3分で作れるようになったので、この勝負でギンちゃんに挑んだ。
だから、勝ち目がある、と高を括っていたアタシを、アタシはぶん殴ってやりたい。
ギンちゃんは一度も崩さずに、たったの2分で五段のトランプタワーを作ってしまった。
ギンちゃんが「はい、完成」と言った時、アタシはまだ、成功に最も重要と言っても過言ではない土台、つまり、一段目を作り終え、二段目に取り掛かるところだった。
その時の悔しさを通り越した呆然を思い出したアタシは、ついつい、上下運動が激しくなり、大粒の汗を周囲に飛び散らせてしまう。
「ちょっ、何で、キララさん、スクワットをし始めてるんですの!?」
「いや、まだ、罰ゲームの途中だし」
「ば、罰ゲーム!?」
またしても、声を引っ繰り返し、ますます、顔に浮かんでいる驚きの色を濃くしたのは、アタシとギンちゃんと同じクラスで、まぁ、あえて言うなら、仲の良い友人、所謂、「親友」の枠に入れても良い一人である金多マリア。ついでに言えば、アタシたちと同じ部活所属。
アタシたちの部活は、第三美術部だ。
この学校では「三美」って呼ばれてる。
第三美術部ってことは、当然の話だけど、第一美術部も、第二美術部も、この高校には、ちゃんと存在している。